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ヴィオレットの森の扉の魔女  作者: 神田柊子
第四章 境界の森

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辺境伯の親書

 魔界の紫煙の崖に迷い込んでしまったロイクを長椅子で休ませ、エマは食卓で辺境伯オーブリーからの親書を確認した。

 読み進むうちにエマの顔はこわばる。

 タクトには親書を渡して読んでもらいながら、エマはカイに説明した。カイは魔界に行ったロイクの精神的負担にならないようにか、人型のまま食卓についていた。

「ブリジット様が眠ったまま、何日も目を覚まさないらしいの。病気ではなさそうで、魔族の可能性がないか見てほしいって書いてあったわ」

 そこでエマは思い出す。

「カイ、前に私が魔族の匂いをつけていたって言ってたわよね?」

 ブリジットから王都行きを提案された日だ。

「あれって、魔族がいたのはヴェール村じゃなくて辺境伯家だったんじゃないかしら」

「可能性はあるが、エマもタクトも辺境伯家にはしょっちゅう出かけているだろう。魔族の気配はあのときだけだった。王都にタクトの様子を見に行ったときも特に感じなかった」

「じゃあ、全然別かな」

 エマが首を傾げると、親書を読み終わったタクトが、

「普段は隠れているけれど、あの日だけエマに接触したって可能性もあるんじゃないの? エマ、何かおかしなことなかった? 体は大丈夫?」

「あの日も考えたけど、何もなかったと思う。今特に変わったこともないし」

 心配しすぎよ、と笑うと、タクトは眉をひそめた。

 タクトは最初に会った魔族が悪かったのか、魔族への印象が最悪だ。エマは王都に暮らしていたころ、友好的でおもしろおかしい魔族や使い魔をたくさん見てきたし、迷子にからかわれたりはするけれど攻撃的な魔族に会ったことはなかった。タクトと一緒に遭遇した魔族がほとんど唯一だ。

 おもしろおかしい魔族をタクトに紹介してあげられたらいいけれど、そういうわけにもいかないし、とエマは彼の腕を叩いてなだめる。

 全く納得していない顔のタクトはそのままに、カイに向き直ったエマは、

「カイ、オーブリー様が王都まで見に来てほしいそうなんだけれど、お願いできる?」

「ああ、行くのは構わない。魔族が原因かどうかもわかると思うが、対話できるかどうかは半々だな。向こう次第だ。そして、原因が魔族だった場合は、私には令嬢を起こすことはできない」

「そうなの?」

「私は使い魔だからな。魔族と使い魔の力関係ははっきりしている。強い魔族を主人に持つ使い魔なら、弱い魔族程度なら相対せるかもしれないが、『扉の魔女』は魔族ではない」

 魔族と使い魔の関係については聞いたことがなかった。

「魔族が原因だった場合、私でどうにかできるのかしら?」

「『帰還の魔法』は迷子でなくても有効だと習わなかったか?」

 カイに確認され、エマはうなずく。

「習ったわ。でも、使ったことがないもの」

 少しだけ呪文が違うのだ。

「でも、そうね。私がなんとかするしかないわよね」

 エマがそうつぶやくと、今度はタクトがエマの手を握って力づけてくれた。彼に「ありがとう」と微笑んで、エマはカイに、

「まず、そっと気づかれないように、原因が魔族かどうか確認してね。魔族だったらカイは何もしないでいいわ。万が一カイが攻撃されることがあったら困るもの。そのままブリジット様を辺境伯領に運んでもらいましょう」

「ああ。承知した」

「オーブリー様に手紙を書くわ」

 そうして、エマの手紙を持って王都に飛んだカイは、数時間経って戻ってきた。

「魔族だった。相手を見ることはなかったが、夢魔だろう」

「夢魔?」

「淫魔ではなく、悪夢を見せる方の夢魔だ」

 カイは人型のまま、首を傾げた。

「いや、悪夢にしては令嬢の寝顔は幸せそうだったから、もしかしたら違う種族かもしれない」

「ブリジット様は苦しんでいるわけではないのね?」

 うなずくカイに、エマは少しほっとした。

「手紙を預かった。中にも書いてあるだろうが、令嬢の負担にならないように、ゆっくり戻るそうだ」

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