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ヴィオレットの森の扉の魔女  作者: 神田柊子
第二章 姉と弟

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パーティのあと

 ゾエとカイに見せるために、エマとタクトはパーティの衣装のまま『魔女の家』に帰った。

 お土産に包んでもらった料理やお菓子を並べて、エマは今日の出来事を楽しそうに報告している。

 一方でタクトは、パーティの間からずっと自分が不機嫌な自覚があった。タクトは食卓を囲むゾエとエマを後目に、長椅子に寝転がっていた。カイはタクトに付き合ってくれて、長椅子の足元に寝そべってエマの話を聞いていた。

 不機嫌というよりは、どうにもならない焦燥感。

 着飾ったエマはかわいらしかった。普段のままでももちろんかわいいと思っていた。

 しかし、自分以外からもそう評価されることに、タクトは今日初めて気づいたのだ。

「姉さん、足の爪は?」

 ゾエへの報告のすきを見計らって、タクトはエマに声をかけた。

「あ! 塗って塗って!」

 エマは弾んだ声で長椅子に座る。大きな長椅子は大人が三人は座れる。

「師匠は?」

「私は遠慮します」

「えー。じゃあ、カイは?」

「興味がない」

「タクトは?」

「姉さんが塗るならやらない」

「えーなんで。皆でお揃いにしようって言ったのタクトじゃない」

 エマは不満げに頬を膨らませる。

 タクトが起き上がって爪用絵の具を準備すると、靴を脱いだエマは座面に両足を乗せた。

 エマの足をつかもうとして、タクトは肌の白さに一瞬手が止まった。その理由がわからないまま、つかんだ足首が思ったよりも細くて、さらに戸惑う。エマの足なんて初めて見るわけでもないのに。

 身をかがめた姿勢でエマを見上げると、彼女は「どうかした?」と首を傾げた。

「何でもない」

 そう返したものの、なぜだか緊張して、少し震えながら小さな爪に色を乗せた。

 タクトの動揺など想像もしていないエマは、じっと彼の手元を見つめている。

「姉さんもいつか結婚するの?」

 視線に耐えられずに、タクトはそう質問した。

「私が? 『扉の魔女』だから無理なんじゃない?」

「結婚できますよ」

 食卓の方から聞こえたゾエの言葉に、エマもタクトも顔を向ける。

「昔、辺境伯家に嫁いだ魔女もいたそうです」

「え、嘘。魔女の役目は?」

「引退するまではほとんど別居状態だったみたいですね」

「それじゃあ、あんまり意味ないじゃないですか」

「そのくらい結婚したかったってことじゃないの?」

 タクトがそう言うと、エマは驚いた顔でこちらを見た。

「何?」

「ううん」

 首を振ったものの、エマの視線は離れない。タクトは足の爪を塗る作業に戻りながら、もう一度聞く。

「だから、何?」

「うーん。……そんなにまでして結婚したいってどんな気持ち? タクトはわかるの?」

「わかんないよ」

 ――わからない。僕なら『魔女の家』に住めるから。

 タクトは自然に頭の中に浮かんだセリフに驚いた。

 自分は今、エマと結婚する想像をしたのだ。そして、自分なら何の障害もないと安心した。

「……できた」

 呆然とそう言って手を離すと、エマは「綺麗!」と笑って、両のかかとを軽く打ち付けた。

 小さな星が散って、タクトの目の中できらりと瞬いた。

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