パーティのあと
ゾエとカイに見せるために、エマとタクトはパーティの衣装のまま『魔女の家』に帰った。
お土産に包んでもらった料理やお菓子を並べて、エマは今日の出来事を楽しそうに報告している。
一方でタクトは、パーティの間からずっと自分が不機嫌な自覚があった。タクトは食卓を囲むゾエとエマを後目に、長椅子に寝転がっていた。カイはタクトに付き合ってくれて、長椅子の足元に寝そべってエマの話を聞いていた。
不機嫌というよりは、どうにもならない焦燥感。
着飾ったエマはかわいらしかった。普段のままでももちろんかわいいと思っていた。
しかし、自分以外からもそう評価されることに、タクトは今日初めて気づいたのだ。
「姉さん、足の爪は?」
ゾエへの報告のすきを見計らって、タクトはエマに声をかけた。
「あ! 塗って塗って!」
エマは弾んだ声で長椅子に座る。大きな長椅子は大人が三人は座れる。
「師匠は?」
「私は遠慮します」
「えー。じゃあ、カイは?」
「興味がない」
「タクトは?」
「姉さんが塗るならやらない」
「えーなんで。皆でお揃いにしようって言ったのタクトじゃない」
エマは不満げに頬を膨らませる。
タクトが起き上がって爪用絵の具を準備すると、靴を脱いだエマは座面に両足を乗せた。
エマの足をつかもうとして、タクトは肌の白さに一瞬手が止まった。その理由がわからないまま、つかんだ足首が思ったよりも細くて、さらに戸惑う。エマの足なんて初めて見るわけでもないのに。
身をかがめた姿勢でエマを見上げると、彼女は「どうかした?」と首を傾げた。
「何でもない」
そう返したものの、なぜだか緊張して、少し震えながら小さな爪に色を乗せた。
タクトの動揺など想像もしていないエマは、じっと彼の手元を見つめている。
「姉さんもいつか結婚するの?」
視線に耐えられずに、タクトはそう質問した。
「私が? 『扉の魔女』だから無理なんじゃない?」
「結婚できますよ」
食卓の方から聞こえたゾエの言葉に、エマもタクトも顔を向ける。
「昔、辺境伯家に嫁いだ魔女もいたそうです」
「え、嘘。魔女の役目は?」
「引退するまではほとんど別居状態だったみたいですね」
「それじゃあ、あんまり意味ないじゃないですか」
「そのくらい結婚したかったってことじゃないの?」
タクトがそう言うと、エマは驚いた顔でこちらを見た。
「何?」
「ううん」
首を振ったものの、エマの視線は離れない。タクトは足の爪を塗る作業に戻りながら、もう一度聞く。
「だから、何?」
「うーん。……そんなにまでして結婚したいってどんな気持ち? タクトはわかるの?」
「わかんないよ」
――わからない。僕なら『魔女の家』に住めるから。
タクトは自然に頭の中に浮かんだセリフに驚いた。
自分は今、エマと結婚する想像をしたのだ。そして、自分なら何の障害もないと安心した。
「……できた」
呆然とそう言って手を離すと、エマは「綺麗!」と笑って、両のかかとを軽く打ち付けた。
小さな星が散って、タクトの目の中できらりと瞬いた。




