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第7話  勇者は森で迷ったようです

 ――森とは!

 古来より存在する未開の土地だ。その規模は大きく、迂闊に飛び込めば高確率で迷う領域。幾多の冒険者が惑い、苦しみ、苦難に遭う。


 森で他者との協力なしに踏破はあり得ないだろう。それだけ難しく、厳しい環境だ。

 しかし勇者アステルは、それに果敢に立ち向かっていく。


「ふんっ、雑魚が」


 手に持つ木の棒の一撃が魔物の首を薙ぎ払う。

 溢れた衝撃波で周りの木々が吹き飛ばされ、森の景色が、一瞬にして様変わりする。

 《ロードオブプラント》――森の王とも称される魔物だが、勇者の絶技には敵わない。


 この世に比肩し得ない強大なる力。それを備えし者の名は、勇者アステル。

 毒液も腐食酸も、幻惑の鱗粉も、その類まれなる彼には無力だった。

 人は言うだろう――彼こそが、化け物すら打ち滅ぼす最強の化け物だと。

 常人ならとても敵わない、偉業を行いし勇者は、けれど――今。



「……まずいな。迷った」



 森の中で遭難していた。


「そもそもこの森広過ぎるんだよ! 右も木! 左も木! 上も前も後ろも木とか! 木、木、木ばっかで見飽きたわ!」

「ですよねー」


 虚空に向かい無理難題を言う勇者アステルと、木に寄り掛かり欠伸をするキティアナ。

 森と言うものは無慈悲だ。どれほど勇者が最強でも迷わせる魔の領域。

 もう六時間も延々と森を迷い続けている。さすがに疲れてくる。方向音痴というわけではないが、この森は異常すぎる。

 

 何故ならこの森には魔物が住んでいる。アステルも恐れる、最強の魔物がいるのだ。


『今日の採取クエスト、、皆で採ろうぜ! これで目的間近だ!』

『今日は帰りに女神の宿に寄っていこうよ! 汗、流したーい』

『うはああ~魔物の素材たんまり、ここは稼ぎ場だね!』


 ――『冒険者』という凶悪な存在が、アステルを森に迷わせる。

 正しくは森のあちこちで戦ったり騒いでいたため、アステルはその度に避けまくった。


 そうして森の奥地を彷徨ううち、未開の地で迷った。

 もはや出口は全く判らない。


「くそ、ぐるぐる同じ所回ってもう飽きたわ! そろそろ見知った光景が恋しい……」

「でも、あれですよね、私と二人っきりですし楽しみは減りませんよね」

「うるさいよ、事あるごとに俺の服を嗅いだり恍惚と見てくる変態ストーカー娘といても楽しいわけあるか」


 一応、森の地図はあるのだが、ここは奥地過ぎて記載されていない。来た道を戻ろうにも、目印も何もないため無限に続く木々があるだけだ。

 気がつけば日も暮れかけ、空腹も覚え始め、いよいよアステルは途方に暮れる。


「もうこれはあれですよ、私と一緒に今日は野宿しましょうよ。私の温かい体を抱き枕に、眠っても良いですよ? 何ならこの髪の毛を取って食事に――」

「どこの世に女の髪の毛ぇ食って飢えを凌ぐ勇者がいる! それと抱き枕は論外だ。俺は他人に触れられん。――くっ、落ち着けアステル。森で遭難などよくある事だ。先月も十二回、今週も四回、俺は遭難を繰り返す猛者だ、まず落ち着こう」

「本当に猛者ならそもそも遭難しないと思いますけど……」


 キティアナのツッコミは気にしない。

 アステルは背中に背負った荷物袋へ手を伸ばす。この中にはかなりの旅具がある。


「まずは野営の準備だ。暗くて寒い森の中で寝ると精神をやられる。だから火を起こそう! ゆっくり眠れるテントを張るべきだ」

「ええー、私を抱き枕にした方が楽ですのに……」


 キティアナがぶつくさ言っていたがそれも気にしない。

 アステルは旅のボロマントを外し、即席の寝袋代わりにする。そして地面の上に雑魚寝し、夜を明かすことを決意する。

 目を瞑り、キティアナに構わず夢の世界に入り込もうとするが――。


「よしみんな、今日はここで野営しよう!」

「ふー、疲れた。《結界》と《探知》の魔術も忘れずに!」



「――どうして他の冒険者がこんな奥地にやって来るんだよォォォッ!」



 他のパーティたちが、なぜかアステルの近場に来てキャンプをし始めた。

 その後も何度か野宿の場所を変えるが、その度にアステルの近場で他パーティがキャンプする。

 その度に、奥へ奥へ進むうち、ますます奥地へ迷うアステル。

 もはやどちらが出口か全く判らない。


「あの、勇者様……もう今日は木の上にでも寝るべきでは?」

「駄目だ、俺は柔らかい布がないと眠れん! 寝心地も重要だ!」

「……まあ私は勇者様といれて幸せですけど」


 幾多の魔物を討伐しながら、他パーティから離れるアステル。

 途中、大型の狼魔物を倒した。ふわふわの毛皮だ。寝具にちょうど良い。

 アステルは、これを臨時の寝具にする事にした。


「クク……巨大な狼型の魔物を寝具にするのも俺の特技だ。まあ寝心地良すぎて《マンイーター》に食われた事もあったがな!」

「さすが勇者様! 狼の毛皮が寝具とか豪華です!」


 蔦で大木にくくりつけ、魔物の手足を縛り、背中で横になるアステル。

 キティアナが一緒に寝ようとしたので同じ物を作ってそっちに寝かせた。

 自分の寝具に寝そべる。ちょっとしたハンモック気分だ。ふわふわの毛皮と、適度な暖かさが快適。


「ふう、これでやっと寝られる……今日は朝までゆっくりる寝よう……おやすみ」

「おやすみなさい、勇者様!」


 アステルは、ハンモックの上で目を閉じる。久々に感じる、安心と充足の睡眠だった。


 

 ――ただし、十五分だけだったが。


「おーい皆ぁ、こんな所に大型の魔物がいたぞ、早く狩ろう!」

「あれ? そっちに巨大な狼が吊るされてるぞ? どういう事だ?」

「凄い上手いハンモック作成だ。ちょっと聞いてコツを伝授してもらおう」



「クッソぉぉぉ、どいつもこいつも邪魔して! せっかく寝ていたのに来るなよ! そしてキティアナ、貴様はいつの間に俺のところへ潜り込んできたァァァァ!」



 アステルは気づくとしがみついてくるキティアナを押しのけながら悶えた。

 もう限界だ、こうなればやけくそだ、土の中で寝る事にした。

 途中、ムカデや虫の幼虫が鼻の中に入ってきたが、根性で朝まで寝た。

 キティアナも後から追ってきて土の中で寝た。猫人族侮れない。


 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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