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第2話  勇者は武器屋が苦手なようです

『へいらっしゃい! 灼皇大剣売ってるよ、さあさ見ていった!』

『水獣の加護が施された霊剣フロシア! どうですか安くしておきますよー!』

『雷獣から造った雷槍ヴォルデア! 豪雷石製、金貨五十枚でさあ買ったっ!』


 《武器》とは!

 冒険者の相棒であり、命の次に重要な要素だ。


 鋼の剣、灼熱の大槍、変幻自在の水剣――魔族を打ち倒すべく多数作られている道具。

 ある物は鉱石で作られ、ある物は魔族の素材で作られ、ある物は伝説の金属で作られる。


 その種類は千差万別、『魔術具』という、特殊な効力を持つ武具も存在する。

 冒険者の生と死を左右する、大事な要素だ。そのため冒険者はどんな店で選ぶか、いくつ買うか、様々な観点で頭を使う。


 しかし――。


「お、今日は道端に凄く良い棒切れが落ちてる。ほう、あっちの尖った枝も良いな。ん、あっちは尖った大岩か――よし、今日の武器調達はこれだな!」

 

 勇者アステルは、そもそも武具屋に行かない。

 

 正しくは、行く時はあるが、買う事は絶対にしない。

 以前、一度だけ街の武具屋に入った事もあるが、


『はい、いらっしゃいませー、どのような武器をお探しですか?』

『す   け   』


 声が小さくて店員に聴こえなかった。

 何とか品物だけは渡したが、うっかり銅貨を落とし、大惨事だった。


 もう内心は動揺で爆発寸前、店員の心配そうな顔や、後ろの客からの「早くしろよー」の圧はトラウマものだった。

 以来、アステルは武具屋へ通うのをやめている。


 今ではその辺に落ちている『石ころ』や、ただの『木の棒』が冒険の友だった。


「GAUUOOOっ!」「RUUU、UUUッ!」

「ふん、邪魔だ」


 その日、女神の宿屋で大量の食料と感謝の手紙を受け取ったアステルは、街を完全にスルーし、山道で紅蓮に燃える魔獣を相手に戦っていた。

 背後から巨大蜘蛛型の魔物三体が迫るが、即座に骨で削ったブーメランで一掃。

 正面から来る蛇型の魔物は木の棒で粉砕する。

 見るも鮮やかな手際――けれどアステルは浮かない顔だ。


「……くっ、最近魔物の数が増えているな。この調子で出てきたら武器が足りん」


 切実な問題だった。アステルは最強の勇者だが、その強すぎる力に耐えきれず、武器はすぐ壊れてしまう。

 一応、故郷の師匠譲りの霊剣はあるが、それは魔王への切り札だ。

 だから普段は拾った武器を使っているが、それも一撃で壊れてしまう。


「ちっ、やはり木の棒は脆いな。骨のブーメランも耐久がな……何か落ちてないか?」


 拾った武器では消耗が激しい。さっき使った武器も、一発で粉々になってしまった。


「どうするか……木の棒や石ころはもう限界だ。魔物も粉々に打ち砕いてしまったし、このままでは戦えん……どうにかして戦う方法は……」


 悩みに悩んだ末、アステルは名案を思いついた。


「そうだ、『夜中に』街へ入り込もう!」


 そもそも人が多いから緊張するのだ。ならば、人のいない夜に行けば良いはず。

 アステスはこれ名案とばかりに、ほくそ笑んで街に向かった。

 


 そして数時間後。


「――くそったれが! 店、閉まってるじゃねえか!」


 アステルは一つ忘れていた事を思い出した。

 夜中になれば店は閉まる――コミュ障な彼はそんな事も失念していたのだ。


「くそ……武器がなければ上手く戦えん! かといって朝になれば人が出てくる。ど、どうすればいい!?」


 このままでは朝になって多くの人で溢れてしまう。

 そんな中、武器を買うなんで出来ない、軽く死ねる。

 ――今からでも店員を起こすか? いや駄目だ、人に話しかけるなんて魔王を倒すより難しい。何か、何かないか――と悩んでいたとき。

 


 店の奥から、怪しげな覆面を被った男が、店から出て来てアステルと目が合った。


 

「――ぐああああああ!? 人だ――っ!?」

「何だ貴様は……っあぐあ!?」


 アステルが放った拳は悪漢の頬を殴り、遥か彼方までふっ飛ばした。


 数分後。


「ありがとうございます! ありがとうございます! おかげで助かりました!」

「い、いや……俺は偶然通りがかっただけなんだが……」


 店に押し入った強盗に手足を縛られ、身動き出来なくなっていた店員は、助けてくれたアステルに、しきりに感謝のお礼を繰り返した。


「いやー、お手柄でしたな、勇者様!」


 騒ぎを聞きつけた『衛兵』が、事情を聞きアステルを褒め称える。


「奴は最近、この辺りをはびこっていた《暁のグレイサー》という強盗でしてね。我々としても困っていたところなのですよ」

「あ……いや……俺はそんな、大層な者を倒したつもりはなくて……」


 それだけなら良かったのに、店の店員(若い女性)はきらきらとした目で見てくる。救われた事もあり店員も衛兵もアステルを尊敬の眼差しを向けてくる。


「奴は強盗しては大量の金品を盗み、店員を無力化していくのです。これまで何人もの店員が涙を飲んだことか……これはあれですな、懸賞金を授けなくてはなりませんな!」

「いやほんと……っ! そんな大層なことはしていないから……っ! やめてくれ……!」

「何を言いますか勇者様! 貴方の大手柄ですぞ? ……ああ、そうです、いっそ街で大々的に公表してはどうでしょう? 都市長の前で、盛大な『表彰式』をしていただくという形で、」

「やめてくれ! 本当そういうの間に合ってるから! 俺そんな事したらぶっ倒れるから!」


 違うんだ、俺はたまたま通りがかっただけで、強盗が怖くて殴り飛ばしただけなんだ! と説明しても信じてもらえず。

 アステルは、シャイで硬派な勇者という印象を相手に与えるだけとなった。

 そしてアステルはその日、大量の金貨と、『炎獄竜の大剣』という大仰な名前の武器まで貰ってしまい、送り出された。


「いいのか……これで……」


 たまによくあるアステルのエピソードの一つ。



お読み頂き、ありがとうございました。

次回の更新は今日、18時になります。

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