第23話 勇者はやっぱり放って置かれないようです
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
さて、本作はこのエピソードをもって一区切り、書き溜めしていた部分を全て投稿し終えたので毎日連載は一旦終了とさせて頂きます。
私自身、他作品も手掛けてる関係上、続きを出せればと思っているのですが、体調や諸々のこともあってすぐに再開、というわけにはいきません。
ここまで読んで頂いた方々には申し訳ないのですが、ご了承していただければ有り難いです。
(準備が整い次第、二部や番外編など投稿したいとは思っております)
ここまで読んでくださった方々、ブックマーク、評価を入れて頂いた方々、ありがとうございました。
作品の質の向上やモチベーションなど色々な形で励みになりました。改めてお礼を申し上げます。
そして、アステルやヒロインたちの物語を面白いと思ってくださった方々、楽しみにしてくださった方々、ここまでお読み頂き、本当にありがとうございました。
最後のエピソードとなりますが、楽しんで頂ければ嬉しいです。
砂漠。
灼熱にしてうだるような暑さの猛熱砂だった。
降り注ぐ陽光は地獄の如く照りつけ、まさに容赦ない。
骨まで溶けよとばかりに注がれる陽光は、まさに地上を焼き尽くさんばかりだ。
そんな地帯を、無謀にもたった独りで進む勇者アステル。
もちろん脱水症状にやられ、喉は干上がり、ぶっ倒れる寸前。常に喘いでいた。
「ぐおお、死ぬ! 駄目だ、これはヤバい!」
先日、新たな旅立ちを決意したのが運の尽き。メモリーオーブの反応を知って、この『リアス大砂漠』まで駆けつけたまでは良かったが、灼熱、豪熱、熱波で死にそうだ。
「ふっ、案ずるな勇者アステルよ。たかが水筒をなくした程度、どうって事はない。俺は、世界を救った男だ。これしきでは負けん!」
そう強がったのが三時間前。
「まあ砂漠といっても久しぶりだしな! 早めにオーブを見つけよう!」
そう粋がったのが二時間前。
「やばい死にそう……」
それが一時間前だった。
瞬く間に水分を奪われ疲弊し、その様相はまるでゾンビの如く。
呻いては進み、呻いては進み、亀の歩みだった。
予備の水もあったが、例によって他人に気を取られ落とした。
やがて疲弊し、もうそろそろ冥府の川へ意識を持っていかれた頃――。
「祠……っ!?」
前方、数百メートルのところに祠を発見した。
アステルはその内部まで死に物狂いで這ったが、
――その中には、キティアナとネリネが、ワクワクした顔で待ち構えていた。
「ぐあああっ!? なぜ貴様らここにーっ!?」
「お待ちしていましたよ勇者様! さあ冒険しましょう! 地の果てまで冒険しましょう! このキティアナ、一番弟子として、どこまでも付いていきますよ!」
「うふふ、あたしもここでサポートするにゃ! 恋人の記憶を取り戻すための旅なんて、ロマンチックにゃ! 疲れたらマッサージを――あわよくば『愛人』としての地位を確立する気満々にゃ!」
「それを口に出して言うこと事がネリネ様の残念なところですな」
横から冷静に突っ込むセバス。もちろんその言葉はアステルの耳に入らない。
「いらないから! そういうの本当いらないから! どうして貴様らは余計なことばかりするんだよ!」
そのとき、見知らぬ三人組たちがやって来た。
「お初にお目にかかります勇者殿。私は《賢者》バウスラ。あなたを『監視』するためギルド協会より派遣された者です」
「同じく《聖女》のミスラですわ。あたし達はギルドより魔王に勇者がたぶらかされていないか、確かめに来ましたの」
「我が名はレオン。同じく監視者にして、《剣聖》の座を与えられし者。――これより我ら、貴方が食事中の時も、沐浴の時も、就寝の時も見張るのでそのつもりで」
「そういうのうんざりだから! 間に合ってるから!」
魂の叫びを発するが、もちろん彼らには聞いてもらえない。
アステルは思わず発狂しそうになり、逃げ出しかけた――その直後だった。
「……アステル。この人たち、誰? まさか、愛人?」
アステルの『影』から出現したヴェルステラが、野生児状態のまま、ぼそりと呟いた。
「ステラー!? なぜ、どこから湧いて!? 野生児状態!? 待てこいつらは……っ」
「――アステルを困らせる奴を複数確認。――敵、排除する」
「よせステラ! 鎌を仕舞え顔が怖い鎌を仕舞え鎌ぁ!」
アステルのそんな魂の悲鳴も空しく、キティアナとネリネがここぞとばかりに抱きついてくる。
大きな胸と柔らかい感触。そして甘い香り。
「私、キティアナが勇者様に付き添います! 弟子としてどこまでも行きますから!」
「あたしこそ愛人として相応しいのにゃ、勇者様のお隣はあたし! ネリネにゃ!」
「もうお前らどこか行け! 休憩出来ん! 水が飲めん! こ、こら、腕に絡みつくな、すり寄るなぁぁぁぁぁ!」
もはや収拾がつかなかった。右にはキティアナが尻尾をばたばた振って興奮して。
左では、ネリネが長い耳をぴくぴくさせて抱きついてくる。
さらに監視者三人が、それを生暖かい目で見つめて、いつの間にやらゲーリッヒも優しい目で見守っていて、そして野生児にして魔王、婚約者でもあるヴェルステラは、
「アステルは誰にも渡さない! 彼は、わたしの大切な夫!」
成長した体を自慢するように正面から抱きつく。その結果、猫耳娘が頬を紅潮させ、エルフお嬢様がすり寄り、野生っ娘魔王が抱きついていく。
「勇者様っ!」「勇者様こっち来て!」「アステル、大好き!」
「ああああああっ! もうステラ以外の奴は帰れよ! 俺は人が苦手なんだ! 独りで旅したいんだよ! どいつもこいつも近寄っ――」
その瞬間、アステルの声が止まった。
まるで彫像にでもなったかのように、叫んだ顔のまま、ぴくりとも動かない。
「え、あ、アステル……?」
石像のように動かない彼に、ヴェルステラがちょんと指で突いた。
すると、アステルは固まったまま――ドサアアッと地面に倒れた。
「あ、アステルーっ!?」
「え、え? どうして? 何が起こったのにゃ!?」
「お静かに! キティアナ殿――判りますか?」
ストーカーであり、アステルを知り尽くしたキティアナが素早く屈み込み、アステルの状態を確認した。
「――どうやら、気絶したみたいです」
『えええええ!?』
「勇者様は、過剰に人に囲まれまくった結果、心臓が停止したみたいですね」
『えええええええ―――ッ!?』
ヴェルステラがアステルをゆさゆさと揺さぶったが、全く何の反応もなかった。
「大変! アステルが目覚めない!」「勇者殿、勇者殿ーっ!?」「ヒール! ヒール! どど、どうしよう!? 目を覚まさないにゃっ!」「アステル、起きてアステルーっ!?」
――その頃、夢うつつの中、アステルはぼんやりと岸辺に立っていた。
目の前には壮麗な『お花畑』。
そして澄み渡った綺麗な『大きい川』だ。
その向こう、凄い形相で父と母が、『こっちに来るな! 戻れ! 戻れっ!』と必死に叫ぶのが判った。
「お。父さんと母さんじゃないか。なぜ慌てているんだ? ――フ、成長した俺に驚いているのか?」
待ってろ、今そっち行くから――アステルはそう言って、足を踏み出した。
両親の悲鳴がより激しくなった。
――世界は、平和に、穏やかになった。
けれど勇者アステルの周りでは、いつも騒ぎが絶えない。
世界に悪が滅びないのと同じように、笑顔もまた消えない。
その喧騒の象徴たる《勇者》は、自然と誰かを惹き寄せる。
けれど人見知りなあまり、人に囲まれて死にかけた勇者――そんな者がいるなんて、誰も思わない。
「アステル、起きてアステルーっ!?」「にゃああ! 魂が抜けてるにゃっ! 薬草、とっておきの薬草を持ってきてっ!」「勇者様、勇者様――ッ!?」「アステル――ッ!?」
――コミュ難だからソロ旅したいのに、勇者の周りにはいつも誰かがいて、放ってくれない。




