第22話 勇者は恋人と未来を歩むようです
「大忙しであります!」
魔王城、大広間では、多くの魔族達が忙しく働いていた。
魔獣、小鬼、死霊、淫魔族――多様な魔族達が右へ左へと走っていく。
破壊された屋根や床はもちろん、壁画や扉、壊れた数々の物が直されていく。
数千の魔物達……それらがひしめく中、ゲーリッヒは声高に叫んでいた。
「床は特別に綺麗に仕上げるのであります! 装飾の布は各隊で分担を! あ、飛翔族は補修! 素材集めに奔走するのであります! スライム族と植物族は模様替えを! ……ちょ、淫魔族! 他の種族を誘惑しては駄目であります! 石像族、置物のフリしてサボらない! ……えーと、それから料理の準備に、扉の修復に、壁の補修、部隊の再編に……ぬわ――っ! 手が足りないでありますううぅぅぅぅぅう!」
ゲーリッヒが悲鳴を上げる。
アステルによって、ほとんどの幹部が倒された今、指揮出来るのは彼だけだ。
ゲーリッヒは馬車馬の如く働き、それでも何とか仕事をこなしていった。
――全ては、アステルとヴェルステラの『結婚式』のために。
『ステラ、話があるんだ』
あの後、アステルはヴェルステラへ求婚を申し込んだ。
勇者となり世界を平和に導いた暁には、彼女へプロポーズすると決めていた。
めちゃくちゃ口ごもり、『結婚してくれ』の、たった数文字を言うのに、一時間以上も掛かったが、ヴェルステラは泣いて喜んだ。
『アステルさん……ありがとうございます』
思わず飛びついた彼女に、アステルが胸で窒息死しかけた事は言うまでもない。
その後、ヴェルステラは各国へ飛んだ。人類との『終戦協定』を結ぶためだ。
何体かの新幹部を連れ、あちこちへ訪問。各地の王族貴族と会い、終戦の旨を説明した。
そうしてアステルとの婚約も伝えた今、魔王城で結婚の準備が行われている。
「補修の第五部隊は急いで! 作業遅れているであります! だから石像族! サボらないで! スライム族は物溶かさない! ――ああもう忙しいであります! マジ死ぬであります! ですがこの不肖ゲーリッヒ、我が主のため、尽力するでありますよ!」
決意もあらわに叫ぶゲーリッヒ。
しかし無情にも、他の魔族が次々と報告をしてくる。
「ゲーリッヒ殿! 装飾用のリボンが足りませぬ、あと五〇〇〇本の補充を!」
「祝福のラッパがあと三〇〇本足りないです! 至急、代用品を……つ」
「くそぉ、死霊族と悪魔族が喧嘩しています! 魔王様の壁画、艶やかな前かがみか、半ケツの見返り美人かで紛争が……っ! いかが致しましょう!?」
「ゲーリッヒ殿ぉ! 聞いてください! 街でヴェルステラ様のフュギュアが売られてるんですが、これ買い占めてもいいですかね!?」
「好きにしろであります!」
「そう言えばゲーリッヒ殿、魔王様のスリーサイズってご存知ですか? ウェディングドレスの寸法取るのにどうしても必要で」
「救援乞う! 救援乞う! ゲーリッヒ殿、城の第五区画が崩れぐあああっ!」「ゲーリッヒ殿、淫魔族が問題を!」「ゲーリッヒ殿!」「ゲーリッヒ殿」「ゲーリッヒ殿ぉ!」
「あああああああっ! 少しは自分で考えろでありますぅぅぅ――――――――ッ!」
ゲーリッヒは昼夜も問わず頑張った。
その結果、後日過労でぶっ倒れるのだが、それはまた別の話。
平和が訪れれば勇者へ駆けつける者たちもいる。
「風の噂で聞いたのですが! 勇者様ご結婚なされるとか!? おめでとうございます、おめでとうございます! あの、つきましては私も参加させて頂きたく! その、栄えある弟子一号としてですね? ぜひ参列をですね? えへ、えへへ~っ」
「うそ!? 勇者様ご結婚するのにゃ!? 早くするにゃセバスっ、あたし達も特等席で見守るのにゃ! あわよくば花のブーケを受け取って、勇者様の第二夫人に……にゃふふ、にゃふ、にゃふふふ~!」
「お嬢様、お嬢様、思考がダダ漏れでございます。仮にも貴族の令嬢を名乗るならば、もう少し威厳を……無理か」
「だから! 勝手に入ってくるなよ! 貴様ら! 何勝手に人の住まいに入って来てるんだストーカー共が!」
一難去ってまた一難。
アステルの周りには、弟子入りや友好を求めたキティアナやネリネ達が、アステルが住む魔王城に入り浸るようになっていた。
世界各地の街にて。あちこちで勇者と魔王の噂でもちきりだった。
「勇者殿がご結婚らしいってよ。本当なのか?」
「それがどうも、勇者殿は女魔王をたぶらかしたとか。最高のテクとキスで、魔王の身も心も骨抜きにしたってさ」
「マジか! 映像で確認したが、魔王さんえらい美人だった! うらやましい!」
「……いいなぁ、俺もおっぱいでかい魔族のお姉さんと結婚したいなぁ」
「しかし、勇者と魔王の結婚か……この先どうなるんだ? 冒険者もそうだが、色々と変化が生じるのでは?」
「諸君、案ずる事はない! 我らギルドはこれからも奮戦するだろう。魔族の一部は、魔王城から離れ暴虐を尽くしている。各地へ渡る『魔族の過激派』を討滅するため、我ら冒険者の戦いはこれからも続く!」
「――陛下。すでに国民の多数が城へ殺到しております。勇者と魔王のご婚姻は本当なのか、偽報なのかと。――加えて、『魔王って美人だ写真くれ』、『魔族のエロいサキュバスお姉さん紹介してくれ』との声が絶えません。この現状、もう人類滅んだ方がいいのではないでしょうか」
「ふ、それくらい大目に見てやるがいい。彼らも嬉しいのだろう。勇者と魔王の、至上初の終戦協定がな。そして『共存協定』を立ち上げた勇者殿を、祝福しようではないか。彼が築いた未来のため……暖かく見守るべきだ」
「そうですね。ところで陛下、新しく美人のスライム娘と、サキュバスをメイドに雇ったそうですが、何に使うつもりですか?」
「違う! そ、そんな目で見るな! 余は、人間と魔族との架け橋のため、新人を雇ってだな? 決してやましい目的があるわけではないぞ? 本当だぞ!?」
人類は案外と順応性が高かった。
そしてヴェルステラの『共存協定』も、好意的に受け入れられていった。
「魔王様、先日の『反魔王派』の拠点鎮圧、お疲れ様でした」
魔王城、玉座の間にて。ヴェルステラは配下の報告を受けていた。
「お疲れ様でした、苦労をかけましたね」
「いいえ、とんでもありません。――新しい態勢のもと、皆ヴェルステラ様のご意向を叶えるべく尽力しております」
「ありがとうございます。人と魔族の共存のため、頑張りましょう」
「はい。いつか、勇者殿とヴェルステラ様が遠慮なくラブラブ出来る時間を作るため。我らは誠心誠意、この身を捧げ」
「そ、そういう事は言わなくていいですから! きちんと働いてくださいね?」
「おめでたの時には世界中にお触れを出して回りま――」
「気が早いです!」
朝も昼も休憩無しに、ヴェルステラは職務に勤しんでいく。
時には配下にからかわれ、時に崇拝され。
様々な人や、雑務に追われながら、彼女は魔王として仕事をこなしていった。
そして夜は、アステルとの優しい時間だ。
「あの……アステルさん、久しぶりに、料理を作ってみました」
「お、本当か。久しぶりだな。――旅の途中、俺は塩と川水と魔物の肝で、空腹を凌いでいたからな……それと比べればこれは神々の料理に等しい」
「……あの、普段どんな生活してたんですか、うわぁ……うわぁ……」
あまりの食事事情に、ヴェルステラがドン引きしていた。
「……すまんな、ステラ。本来なら俺も『協定』の挨拶回りに出かけるべきだったのに」
あの後、ヴェルステラはアステルの《人形》を伴い、各地の国へ回っていた。
アステル人形は《模倣》の魔術で作られ、かなり精巧だった。仕草はおろか、声もそっくりだ。よほどアステルを知る人でなければ気づかないだろう。
「気にしないでください。アステルさんが人前に出ると、『あ う 』しか言えなくなる事も、体にジンマシン出来て倒れたりすることは全部知っています」
「さすがに人の目に晒され続けると俺、死ねからな。魔王城で留守番、本当にすまん」
アステルは改めてヴェルステラに感謝する。
「人形は粗相しなかったか? 影武者がトラブル起こしてないか心配でな……」
「大丈夫ですよ。本人より、凄く勇者していましたから。――出迎えの貴族にはきびきびと意見を述べ、気配りも完璧。――真面目で、精悍な勇者。それが世間一般に浸透したアステルさんのイメージです」
「おい待ってくれ。それってもう俺いらないのでは? おいステラ、なぜ目を逸らすんだ、おいステラ?」
今は別の部屋で待機させている人形だが、そのうち本物に取って代わるかもしれない。
アステルはやばい、これどうしよう、と思うしかなかった。
「ま、まあそれより料理食べてみてください。冷めてしまいますよ」
「話を逸らしたな……まあいい、いただきます」
アステルは手を合わせ、ゆっくりと食事を食べてみる。カボチャとニンジンのスープ、鶏肉のソテー。リンゴやブドウのパイ、苺のシャーベット、鰊と鮪のクッキー、どれもが香ばしく、味も豊かだった。
「美味い! 美味いぞステラ! 焼き加減が足りなかったり、生煮えだったり、毒草がまるごと入っていたりと、山奥で暮らしていた料理のままだが、超美味い!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、野生児料理でごめんなさい……っ!」
魔王となっても、ヴェルステラは料理が苦手なままだった。
「何を言うステラ! 俺は旅の途中、魔物の血とか吸って飢えを凌いでいたくらいだぞ? 大抵の料理は美味しく食える!」
「アステルさんの胃袋がどうなっているか心配です」
「ちなみにだが、魔物の血は個性が強いのも多くてな? 体内で劇薬に変化するのもあれば、溶岩のように胃をグズグズ溶かしてくる奴もあって、」
「これからはわたしが美味しい料理作りますから! アステルさんは安心してくださいね!?」
ヴェルステラは今後、早く料理上手くなろうと固く決意した。
「――ところでステラ、ちょっと気になったんだが……」
料理を食べ終わり、軽く雑談を興じていたアステル。
気になっていた事を訪ねてみる。
「あ、はい、なんでしょう?」
「お前って、三年の間にずいぶん成長したよな。尻とか、胸とか、超セクシーになった」
「え!? いや、あの……そ、そうかもしれませんが、あまり見ないでください……」
確かにヴェルステラ体は、ここ三年でずいぶんと成長していた。
元から大きめだった双丘はさらに実り、腰もくびれ、かなり女性らしくなっている。
さらに衣装も扇情的、胸元はVの字に大きく広がり、際どく谷間が覗いていた。
おまけに、スカートもスリットもかなり深い。太ももやその上まで覗いている。
「その衣装、どうなっているんだ? 戦闘中も思ったが、どう見ても穿いてないとしか思えん。胸なんか下乳見えてるし……誘ってるのか?」
「違いますから! これは……その、魔力の運用効率が上がるので……作ってくれた元幹部曰く、これが最も良い格好らしいです」
――それたぶん騙されているぞ? 大丈夫か俺の嫁? とアステルは思ったが口にはしなかった。
可愛いし華やかな衣装だったので、内心その元幹部を褒め讃えていた。
「でもアステルさんこそ、逞しくなったじゃないですか?」
「ん? そうか?」
「最初、知ったときは驚きました。アステルさん、こんなに逞しくなっただなんて……あの、少し、触ってみてもいいですか?」
「いいぞ。好きなだけ触ってみろ」
ヴェルステラがほのかに頬を染めて近寄った。
部屋の中央に移動し、アステルの体をヴェルステラがゆっくりと撫でていく。
「わ、すごい」
「ふふ、気が済むまで触るがいい。自慢の肉体をな!」
上半身をさらけ出したアステルの体を、興味深げにヴェルステラが触れていく。
「す、凄いです、わたしの指が跳ね返されます。この胸、この胴、肩! 頑強かつ立派な形をしていて見惚れます!」
「はは、くすぐったいな」
「決して重厚ではない質感、けれどその内に秘められた筋肉の強靭さ! 首も胸筋も、凄くたくましいです!」
「ん?」
「髪は滑らか、首筋のラインに至っては芸術的なまでの曲線美! ……ゴクリっ。これが、これこそがわたしのアステルさん! ああ、思わずうっとりします。この脚、この手首、このお尻!」
さすさす。
頬をうっとりと染め、撫でるヴェルステラ。
「あの、ステラ?」
「肘、踵、足首の硬さなんか凄さときたら! ハアハア……脇腹とつむじと頬の感触っ腹筋なんてとても……そ、それに、腕や太ももに至っては手触り最高です! へその魅惑的外観も良ければ膝の裏も、柔らかさの中にしなやかさもあって……っ」
「ちょっとステラ!? どこ触ってんだよせ――!?」
「アステルの筋肉! 凄い。全て確かめたい。至福」
「戻ってる!? 野生児に戻ってるからステラぁぁぁ!?」
「アステル。なにゆえ、抵抗するのか。わたし、あなたの体、好き」
「ぎゃあああああぁぁぁぁ――――!?」
その後、アステルはヴェルステラに襲われ、悲鳴を上げた。
「えー、あのー。魔王様、アステル殿……ちょっとよろしいでありますか?」
やがて、数十分後。夜も深まりフクロウや虫達が音を奏でる頃。
無粋なクマの声が部屋の外から聴こえてきた。
「ゲ、ゲーリッヒ!? い、いたんですか!?」
「はい、いたであります。何やらお二人が熱ーい夜を過ごしているようなので、私としては扉の隙間からそっと覗いていたのですが……いつまでも終わらず、どうしたものかと、」
「言ってください! 言えば応対しますから! ずっと聞いてたなんて……も、もうっ」
ヴェルステラは恥ずかしそうに、ベッドのシーツで顔を隠してしまった。
「まあ、とにかく入れゲーリッヒ。立ちっぱなしはなんだろう?」
アステルが軽く手招きする。
「ありがとうございます勇者殿! 私は、唯一残った幹部でありますゆえ! 誠心誠意、執事として支える次第であります!」
「お、おう……」
「その事については、ありがとうございます、ゲーリッヒ。指揮など担ってくれて。頼もしいです」
華やかに笑うヴェルステラに、ゲーリッヒは照れる。
しかしすぐにかしこまると、
「それで……用というのは魔王ヴェルステラ様の――『記憶』に関してであります。
「記憶、ですか?」
「はい。――昨夜、城の宝物庫をいくつか漁っていたところ、書物を発見致しました。――内容は、転生神殿の――『失われた記憶を復活させる』方法について」
「え!? 記憶の!? ほ、本当ですか!?」
アステルとヴェルステラが意気込んで詰め寄る。
「はい。魔王城に残された記録によれば、第五十八代目の《魔王ゼルベルド様》が、多くの資料を残しております」
それが本当なら、朗報だった。
現在、ヴェルステラの記憶は完全とは言い難い。
アステルとの決戦で、彼女は想いを取り戻したが、記憶はまだ断片的だった。
二人で暮らしていた事や、出会いなど一部は戻っているが、記憶のほとんどは足りていない。
およそ、二割ほどしか戻っていなかった。
その影響は、ヴェルステラのアステルへの態度にも出ている。
キスで抱きつく時も、夜、膝枕をする時も、どこか壁を感じてしまうのだ。
おかげであの日以降、二人は体を重ねる事も控えていた。
「しかしゲーリッヒ、そんな事あり得るのか? 転生神殿は、『記憶』が対価だろう?」
「はい、その通りであります。転生神殿とは、記憶を対価に蘇らせる事が出来る神殿。――しかし正確には、失った『記憶』は、完全に消失するわけではないのであります」
「どういうことだ?」
ゲーリッヒは、アステルの問いに、資料の羊皮紙を広げる。
「これをご覧ください。――曰く、転生神殿とは、『記憶』を物体化する神殿だと。そして世界各地に、『拡散』する事が示されているのであります」
「記憶の――拡散だと?」
「はい。対価にした『記憶』は、消えるわけではないのであります。記憶は《宝玉》と呼ばれる物質となり、世界中に散らばると――そう、明記されてるであります」
ゲーリッヒの報告に、アステルは羊皮紙を凝視したまま尋ねる。
「すると何か? ステラの『記憶』は、俺達の手で取り戻せると?」
「はい。不可能ではないと進言致します」
アステル達はにわかに歓喜の表情を浮かべた。
失われていた記憶。ステラだった時の思い出。それが取り戻せるなら、これほどの朗報はない。
「――歴代の魔王様には、転生神殿を重要視した方もいたのであります。強大な力の神殿ですからな。無視は出来なかったのでありましょう。しかし何かの加護か、転生神殿は壊す事も出来ず……長らく放っておかれましたが――ともかく『記憶』が、『宝玉』となり、世界中へ散らばる事は事実らしいであります」
「その宝玉の名称は? 数は? どんな形状をしている?」
「数は不明。形や色も、様々な種類があるので判りません。ただ……名称は、はっきりしているのであります。『叡智の神玉』――あるいは俗称として、《メモリーオーブ》と』
「《記憶の宝玉》……」
ヴェルステラとの大切な記憶が封じられた宝玉。その名をアステルは自分に刻み込む。
「それがあれば、取り戻せるんだな? ステラの記憶を」
「はい。おそらくは」
「よし、ならば取り戻そう! 今度こそステラの全てを、世界中に散らばった記憶を取り戻すんだ!」
「はい、わたしも、全ての記憶を取り戻したいです」
ヴェルステラも賛同した。
「アステルさんとのラブラブな日常を。毎日ちゅーちゅーキスしたときの記憶を。貴方との甘い記憶が抜け落ちているなんて、由々しき事態です」
「由々しき事態じゃないわ! 恋人として理想的な愛情を向けてくれるのは嬉しいがな、その発言は控えろ!」
アステルは悲鳴を上げたがヴェルステラが優しく微笑んで語る。
「ふふ、冗談です。……でも、寂しさはあります。心は、アステルをずっと好きだと訴えています。でも、まだ全然足りません。虫食いのように、所々が穴だらけなんです。……そんなの我慢できません。だからアステルさんとの大切な思い出を、早く取り戻したいです」
「ステラ……」
ヴェルステラは優しくアステルの手を掴み、アステルはその手を柔らかく握りしめる。
「すぐに捜索隊を作りましょう。ゲーリッヒ、ただちに記憶を取り戻すに隊を編成してください」
「了解しました! 他の上位魔族にも招集をかけ、早急な捜索をするであります!」
忙しくなりますな、と笑うゲーリッヒに、アステルが拳を握った。
「よし! 必要があれば俺も出よう! 秘境に行くなら戦力は不可欠だからな。俺の力があれば――あ、ちょっと待て。俺は独りでやる……人目につくと死ぬ」
ヴェルステラがくすくすと笑った。
「大丈夫です、そんなアステルさんのために、ソロ旅の道順も選定します」
「はは、ありがとうステラ嬉しいよ……はは、悲しい」
気のせいか涙が出てくるが忘れる事にする。
「私もお二人のために死力を尽くすであります! さあ、忙しくなりますな!」
「結婚式はもう少し延期ですね。全てのオーブが終わったら、今度こそ行いましょう」
「出来るさ。いや、やってみせる。今度こそステラの――『記憶』を取り戻し、真の夫婦になるために!」
「わたしも、本当の意味で、アステルさんのお嫁さんになるため、がんばります」
アステルは、強く頷く。
また毒キノコでぶっ倒れる光景が浮かぶが、固く決意する。
世界には、まだ秘境と呼ばれる場所がいくつもある。
《海底神殿》、《地底魔城》、《天空宮殿》――。
それに、《聖獣》や《神獣》、《妖精》――人のように、自然発生した者ではない、かつて神が創ったとさせる生物もいる。彼らがいる《秘境》にもオーブはあるだろう。
世界が平和になっても、アステルの旅は、いや彼らの旅は――まだ終わらない。




