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勇者撃沈  作者: 丁太郎
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06 勇者 vs 商人

 勇者、聖女、賢者、剣聖 4人揃った勇者一行。

 各国を巡り勇者の認定を受けていく。

 残る国は3つとなっていたある日、モンスターに襲われていた女商人を助けたのだった。


「助けて頂き、誠に有難うございます」


 私達に丁寧に礼を述べてくる女商人。


「いや、気にしないでくれ。君しか助けられなかった。済まない」


 そう、彼女のパーティーは彼女以外は全滅だった。

 アリシアの方を見たが、彼女は首を振った。

 そうか、生存者は他にはいないようだ。

 今のアリシアの力では蘇生は出来ない。


「いえ、この方々は私が護衛に雇った冒険者でした。私を最後まで守ってくれたのですが……」


 アリシアが祈りを捧げ、魂を正しき場所に導いていた。

 アリシアは優しい。

 敵であったモンスターにでさえ、戦いが終わったなら穢れを払いその魂に祈りを捧げる。


「とりあえず、町まで送っていこうか?」


 マリーが商人に提案する。


「ええ、お願いします」


 こうしてアリシアの祈りが終わり次第、商人を町まで送ることになった。

 ちょうど彼女の目的地と私達の目的地が同じだった。


「私の名前はルイジアナと申します。宜しくお願いします」


 流石は商人、礼儀正しい。

 私達も名乗った、できれば勇者である事は黙っていたかった。

 私の意を汲んでくれたのかアリシア、マリーは普通に自己紹介してくれた。


 しかし超ナルシスト野郎、剣聖でやはりバレた。

 ここでも名前は名乗らず剣聖で通したからだ。


「剣聖様!ということはレオン様が勇者様なのですね」


「そうです。レオン様は勇者様です」


 アリシアが間髪入れずに目を輝かせて答える。

 ふう、はやりこうなるか。

 しかし、あの日以降、たまにアリシアが私の名前を呼んでくれるようになった。

 それが嬉しい。

 少しは距離が縮まっただろうか。




 町につく頃にはすっかりルイジアナとアリシア・マリーは仲良くなっていた。


「ルイはこれからどうするの?」


「うーん、兎も角町に戻りたいわ。こうモンスターが多いと交易も難しいし、もう終うしかないかな、なんてね」


「ルイ、もしよかったら一緒に来ませんか?」


 また、アリシアがとんでもないことを言い出した。


「え、アタシ戦えないけど」


「私もほとんど戦えないですよ。大丈夫。結界もはれますし、勇者様はお強いので」


 アリシアは堂々と自分も戦えない宣言をした。

 まあ、アリシアに戦わせるなんて事は私が絶対にさせないが。


「ダンジョンとかに行く時は町にいてくれればいいよ。交渉とか物資調達とかでサポートして貰えると助かるかな」


 マリーがアリシアの意見を支持した。

 たしかに経済面での能力を持つ仲間がいるのは旅を維持する点からみれば大変心強い。

「破産したので魔王討伐できませんでした」ではあまりにみっともない。


 各国から援助金を貰えるが、旅は兎も角お金がかかる。

 だから私達も冒険者ギルドに登録し、依頼を受けて資金稼ぎをする事もあった。


「ルイジアナさんさえ良かったら考えてみてはもらえませんか?」


 ルイジアナさんの年齢を聞くのは失礼だから推測なるが、私よりは年上だろう。


「勇者様にまで……わかりました!不詳ルイジアナ、勇者様パーティーのサポートをさせて頂きます」


「美しいレディーに申し訳ないけど、マネージャーと呼ばせもらうよ」


 また剣聖が変なことを言い出した。

 名前を呼ばないスタイルは相変わらずだ。


「剣聖は名前を呼ばせない代わりに呼ぶ事もしないんですよ。慣れてくれると助かります」


 仕方がないのでフォローする。


「え、ええ。マネージャーで構わないわ。よろしくね剣聖さん」


「ああ、よろしくマネージャー」


 こうして商人ルイジアナが仲間に加わったのだった。




 あれから数週間後。

 彼女は我々パーティーに無くてはならない存在になっていた。

 彼女は中々やり手の商人で交渉上手だった。

 我々の旅の経費は彼女のお陰で大きく圧縮された。


「レオンさん」


「何かな、ルイさん」


 今、私達はとある町で食事中。


「1日2杯迄でお願いします」


「え、せめてもう1杯は?」


「もう、勇者様、飲みすぎですよ!」


 むうアリシアはルイの味方か!


「アリシアに心配されてますよ。これも目的達成の為です。勇者様の1杯を控えて頂ければ、1年で剣1本は買えるのですよ」


「それはそうかも知れないが、唯一の楽しみなんだ」


 必死に食い下がる私。

 2対1、状況は不利だ。

 剣聖は酒を飲まない。

 味方になってはくれないだろう。

 因みに食事の時は口だけ見える仮面を付けている。


「まあ、レオンの楽しみ奪うとモチベーション下がるし、それくらいはいいんじゃない?」


 お! マリーが珍しく私の味方をしてくれた。

 これで2対2、イーブンだ。


「マリーのジュースは制限つけませんよ。お酒と違って安価ですからね」


「ゴメンネ、レオン。私はそっちにつくわ」


 う! さすが商人。

 マリーの好物ジュースの制限を暗にちらつかせて寝返らせた。

 3対1、状況は極めて不利。

 しかしこれは負けられない戦いだ。

 勇者の意地を見せなければならない。


「レオンさん。アリシアがお体を日々心配しているのです。この戦い後の事もありますし」


「もう、ルイったら!」


 アリシアの顔は真っ赤だ。 


「え?、戦いの後?」


「そうですよ、戦いの後、レオンさんは夢がありますか?」


「そう言われると考えたこと無かったな」


「一緒にいてほしい人いないですか?」


「え、それは……」


 彼女の言いたいことが判ってしまった。

 みるみる顔が熱くなっていく。


「レオンさんを心配してくれる方の為にも飲み過ぎには注意しないと」


「レオンー 顔真っ赤だよ」


「これは、酔っただけさ」


 つい、言ってしまった一言。

 だがこの一言は致命的で、その失言を見逃すルイでは無かった。


「1杯で酔えるなら、深酒しない方がいいので1日1杯でも十分ですね」


「え? それは流石に」


「それでは仕方ありません。特別に2杯迄ですよ」


「ああ、有難う。2杯飲めるなら御の字だ」


 こうして私の楽しみは1日2杯までとなった。

 あれ?


 了



ーーーーーーーーーーーーーーー



Winner:商人


決まり手:商人スキル『選択条件スライド』


当初 2杯or3杯 だった選択肢が、より勇者に不利な 1杯or2杯に巧みにスライドされた為、勇者はまんまと2杯で満足してしまったのだ。

商人を論破できる者はこのパーティーにはいないと思われる。

なんかこう

可哀想になってきた

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