04 勇者 vs 賢者
魔導大国ワーロックで勇者の認定を受けた勇者一行。
そこで『賢者』の啓示を受けた者を紹介された。
大魔王討伐の旅に加わった賢者と親睦を図るため、城下のとある食事屋でささやかながら歓迎会が行われていた。
「凄い! 8歳にして賢者だなんて!」
アリシアは賢者を褒め称える。
そう、賢者は8歳の女の子だった。
名前をマリーン、マリーと呼んでと本人から言われている。
「それ程でもないよー」
満更でもない感じのマリー。
出会って直ぐにアリシアに懐いてくれた。
「それでマリーはどんな魔法を使えるのだ?」
「汚らしい男が気安くマリー呼ぶな!どうしても呼ぶなら様をつけてよね!」
私には全く懐いてなかった。
敵意丸出しだ。
男性嫌いなのだろう。
「マリーちゃん。勇者様は素晴らしい方よ。これからは仲間なんだから酷く言わないでほしいな」
「お姉ちゃん、ゴメンネ」
謝る先が間違っている気がするが、8歳の子供のやることだ。
いい大人の私が問題にするのもどうかと思った。
それにしてもアリシアは相変わらず優しい。
「勇者様、レオンって名前だっけ?お姉ちゃんに免じて普通に話しかけるのを許可するよ。様はつけなくてもいいけど、私も呼び捨てにするから」
随分と上から目線の子だな。
「ああ、わかった。よろしくマリー」
「わたしは宜しくしたくはないけど、あんたの事は助けてあげるよレオン」
「もう、マリーちゃん。照れちゃって可愛い♡」
そう、上から目線のセリフは真っ赤な顔をして発せられているため、却って微笑ましかった。
男性嫌いと言うより接し方が分からないだけなのだろう。
「お姉ちゃんの方が可愛いよ!食べちゃいたい!」
ん? なにか危険な感じがするな。
まさか、まさかだよな。
「そ、それで得意な系統とかは?」
このまま行くとアリシアが危険な気がする。
話を元に戻そう。
「ん? ああそうだった。得意属性は全部。賢者のスキルでね。唯一回復系が使えないくらいだよ」
「それは凄い。期待しているよ」
「ま、任せてよね。それよりお姉ちゃん」
「マリーちゃん何?」
「アーンで食べさせて♡」
「もうマリーちゃんったら」
マリーは私の質問にさっさと答えて、アリシアにべったり甘えだした。
なんとか止めさせたいが割って入る隙がない。
賢者……なかなかやる!
これは強力なライバルが出来てしまったな。
しばし食事を楽しんでいたが、いつの間にかジョッキが空になっている。
私は酒のお替りを頼んだ。
「もう、勇者様ったら飲みすぎですよ」
アリシアが私を窘めてきた。
「あと一杯だけだよ」
「程々にして下さいね。あまり酷かったら『キュア』掛けちゃいますから」
「それは勘弁してくれ。気をつけるよ」
折角、ほろ酔いなのに消されてしまっては勿体ない。
「少し外しますね」
「ああ」
「お花摘みね」
「もうマリーちゃん!いちいち言わないの‼」
アリシアは恥ずかしそうに顔を赤くして席を立った。
私とマリー二人きりになってしまった。
気まずいな。
しかし、意外にもマリーの方から話しかけてくる。
「レオンさ」
今までの甘えた子供の表情とは全く違って、真面目でとても冷たい表情。
これがマリーのもう一つの顔なのだろうか。
「どうした?」
「お姉ちゃんに惚れているでしょ」
「どうしてそれを!」
秘中の秘を会って間もない子供に指摘され、いつもの冷静さが吹き飛んでいた。
そして思わず素直に認めてしまった。
私はつくづく未熟者である。
精神鍛錬が足りない。
酒を含んでいたら吹き出しただろう。
それも計算づくでの発言かも知れないが。
「図星だったか!そうじゃないかと思ったんだよね」
ニカっと笑うマリー。
どうやらカマを掛けられたようだ。
「このことは…」
「大丈夫、お姉ちゃんには言わないよ。でもさぁ、もう少し粘ってくれてもいいんじゃない?チョロすぎだよ」
「ああ、反省している」
「レオンの弱点はお姉ちゃん。これを魔王軍に知られたら大問題だね」
「返す言葉もない」
「逆に早々にくっついちゃえば?」
「そ、そうなんだが、解決になっていないんじゃ?」
「今よりは冷静に対処できるでしょ」
「面目ない」
「残念だけど私は女の子だからさ。お姉ちゃんに甘えさせてくれるなら譲ってあげるよ」
「そ、そうか!」
「顔真っ赤だよ。ほんっとわっかりやっすーい」
マリーに誂われているが上手い返しが出来ない。
もっと、ちびちびやるつもりだったお替りの酒を一気に飲み干してしまう。
カー!っとなる。暑い!
そう、顔が赤いのは酒のせいだ。
「あ、そうそう」
マリーはまた冷たい感じの表情に戻った。
なにか企んでいそうだ。
「今度は……何だ?」
私は恐る恐る尋ねる。
「次の国に『剣聖』がいるじゃない?」
「ああ、そう聞いたな」
「すっごいイケメンでモテモテなんだって。こりゃ、頑張んないともってかれちゃうぞー」
マリーはニッコリと満面の笑みを浮かべた。
理解できてしまった。
この子は、ドSだ!
今までの態度は全て演技だったのだ!
「お待たせしました。って勇者様!顔が真っ青です!大丈夫ですか?今楽にしますね」
戻って来たアリシアは私の顔色に驚き、そしてキュアを掛けてくれた。
悪魔と天使の連携によって、私のほろ酔いは消し飛んだ。
これも計算づくなのか?
賢者マリー恐るべし!!
了
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winner 賢者(完全勝利)
決まり手:コンボ『聖魔連携アタック』
だらしがないぞ!勇者!
次こそ勝つんだ!




