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 境の森。グランスール王国とワイエルシュトラス帝国との国境に広がる森であり、その広大な自然は、古来より不可侵地域とされていた。何故なら、そこは精霊が好む環境であり、代々主と呼ばれる精霊の王が森を支配していたからである。当代の主はルツとも顔見知りであり、温厚で農作業を好むような、純朴な精霊だったのだが、その姿は見えず。

 ──()()()()()()()()()()()()()()()()()

 燃えているのではない。木々はそこに存在しているが、そのすべてが赤い。炎というよりは、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()は、草の一本まで余すところなくその存在を主張している。それだけでも異常だと見て取れるのに、指揮官であるリシャルトは先程から自分の聴覚が信じられずにいた。


「……指揮官。やはり、魔物の声がしません。ルツが感知魔法を使用しましたが、余程奥地へと進まない限りは魔物と遭遇することはないようです」

「そう、か……」


 あの野郎、と思わずにはいられない。無駄に先見の明がある同僚と団長がやけにいい笑顔で見送りに来ていた理由はこれだろう。今頃、ケーキをつまみながらにやにやと戦況を伺っているのだと思うと、一言文句を言わねば気が済まなさそうだ。

 さてどうする、とリシャルトは自分の脳をフル回転させて作戦を組み直す。出来れば、グランスール王国の部隊と合流したいところだがそうはいかない。カルロからの連絡で、彼らが此方より半日近く早く出発したのが発覚した。何も考えずに森に突入したのならば、もう魔物と遭遇してもおかしくない位置にいるだろう。地面を踏みしめる音ですら響きそうなこの場所でなら、少しでも声を上げればすぐに居場所がわかりそうなものだが、何故か、声はおろか、剣戟の音ですら聞こえてくる気配がなかった。まさか、もう……と最悪の考えが何人かの脳裏をよぎり始めた、その時。


「────!!!」

「っ!今のは……グランスールの奴等の声だな?」

「そう考えてまず間違いないかと……ルツ!」

「いや、俺がやるよりはステカの方が早い。だよな?」


 ルツの声に頷いて見せたステカは、魔道具を盾の形に変化させると、地面に突き立てる。途端、ぶわりと地面から風が巻き起こり、彼女の足元に小さな芽がいくつか生えた。地属性の魔力を媒介としてこの森のすべての植物と同調し、他者の位置を割り出す魔法。使用するには多大な魔力と相性が必要だが、彼女はそれを丹桂としての権能で補っていた。そうかからない内に、いた、とステカが小さく呟く。同時に、盾の一部を子狼の姿に変えると、リシャルトに投げ渡した。


「おい、ステカ!」

「逆探知された!場所はその子が知ってるから早く行ってください!」


 言い終わるや否や、ざあっと赤い蔦が彼女を取り囲む。後は任せた、そう告げようとしたステカの目に入ったのは、真っ赤な空間ではまぶしいくらいの、銀色だった。それが、アイゼアの髪だと理解するより早く、蔦が二人を覆い隠す。引きずり込まれる前に、咄嗟に掴んだ手は、かすかに震えていた。


 唖然とするリシャルトたちの目の前で、蔦は地面へと沈み、とぷん、と水に落ちたような音を残して、辺りは再び静かになる。なぜ、と呟いたのは誰なのか、それはわからない。だが、彼らはまずやらねばならないことがあった。一刻も早く仲間を救出するために、彼らは森の奥へと走り出した。

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