プロローグ
ーあの時のことをー
「大変言いにくいんですが」
ー今でもー
「貴方の命は」
ー鮮明にー
「あと」
ー覚えているー
「1年ほどです。」
『ー終点、終点です。お荷物の方お忘れないようにお願い致します。次の駅が終点です。』
どうやら俺は寝てしまっていたようだ。
降りようと思っていた駅はとうの昔に通り過ぎてしまっていたようだ。
寝起きで少しボーっとしている頭で今日は何をして暇を潰そうか考えてみる。
特に目的もなく、勿論用事があるわけでもなく。
そんな非生産的で暇すぎるこの週末の何気ない
いつも通りの1日をいつものように怠惰的に過ごす。
俺にはそれくらいの、なんの意味もなく、
理由すらつけ難い休日がお似合いだ。
そんなくだらない、否、くだらなすぎることを思いながら俺はこの電車の終点である聞いたことも見たこともないような無人駅に独り降り立つ。
〈孤独〉と〈怠惰〉を足して2で掛けて、そこから
〈個性〉と〈積極性〉を差し引くと
ちょうど俺になる、と俺は思っている。
27歳、私立中学国語教諭、
何にも縛られない気高い孤高の存在
これら3つが俺を表す主な3つのキーワードである。(ちなみにぼっちじゃあないぜ)
なんとまぁ普通でつまらないことだろうか。
ちなみに趣味は遠出と音楽鑑賞である。
俺には昔から個性がない。
「個性が」というより「色が」といったほうがわかりやすいし詩的かな。
『十人十色』というより四字熟語を知っているだろうか。
一人はそれぞれ色があって、それが誰かと一緒なんてことはないんだよ、的なあれだ。
しかし俺にはその色がない。
強いて言うなら灰色だ。
他の人の色を取り込むだけ取り込んで最終的に
自分の色をなくしてしまった、そんな風な色だ。
しかしそんな俺の人生にも昔、一回だけ。
たった一回だけれど色がついたことがあったんだ。
それはひどく曖昧な組み合わせで、でもそれぞれの色がはっきりしていて。
確か、赤色と橙色と黄色と緑色と水色と青と…
あとなんだったかな…
あっそうそう、それだよそれ。
紫色だ。
にしてもよくわかったね。
まぁいいか。
さっき電車で寝てしまっていたせいかどうやら足に
力が入らないみたいなんだ…
ちょうどいいから僕の話し相手になってくれないかい?
いいのかい?
ありがとう。君はやっぱり優しいね。
いつもそれくらい優しかったら女の子にもモテモテなのにね。余計なお世話だった?
今から話すのはね…
あぁ。僕の名前かい?
僕の名前は
月谷 崇人さ。