闇から光へ
冷たい雨の日。 ある魔女の格好をしている百六十七センチの女性が廃墟の近くまで寄っていた。 なぜ彼女がそんなところにいるのか、彼女自身も分からない。 しかしある音が彼女の注意を引き付けた。 それは強い雨の中でも弱々しい音だった。
彼女は耳を澄まして音が発生する方向を探った。 すると音は声に変わった。 子供の泣き声に聞こえた。 彼女はそっと近づいたら……そこには地面に倒れている子供がいた。 服はズタボロで、体の至る所まで怪我をしていた。 そして子供は泣きながら呟いた。
「うぅぅ……痛いよ……パパ……ママ……どうして僕がこんなめに……うぅぅう……」
その時、彼女の赤い瞳が光った。 興奮してるではなく、人間の子供が必死にもがく姿に感動していた。 すると彼女は泥まみれの子供に声を掛けた。
「坊や、其方は生きたいのかい?」
そしてそれに気づく子供が振り返る。 すると――、
「ほほぉ……これはえぐいのぉ……まさか両目が抉られたとは……」
彼女が見たのは目ん玉が抉られた子供だった。 血は涙の代わりに暗い穴から流れている。 しかし問題は別にあった。 声すらまともに出せない子供は自分の顔を隠し、後ろへさがった。
「其方の目、魔法で抉られたんだな……しかも強引な方法で。 違うか? どうじゃ? 儂のところに弟子にならないかい? 儂は魔女、もし其方が魔法を習得したら運が良ければ、其方の目を奪った者と再会するかもしれんぞ? くっく……」
その誘いは魅力を感じた。 それは……ちっぽけな子供ですら感じていた。 子供はゆっくりと立ち上がり、手を前へ伸ばす。 すると子供は自分の願いを言い出した。
「光、を……くだ、さい……!」
それを聞いた彼女は微笑んだ。
「良かろう! 面白い子じゃっ! いいでしょう。 儂の目をくれてやる」
――それは、俺と師匠の出会いだった。 そして十五年後……。
俺は師匠の下で魔法を覚えた。 必要となる魔法を全部覚えた。 人を殺す魔法、癒す魔法、全部。
今の俺は再び見えるようになった。 あの日、師匠から貰ったこの左目が俺に再び世界を見られる機会を与えてくれた。
そして時間が経つと、俺は何故か復讐と言う概念を徐々に忘れ去っていた……。 今振り返れば、この十五年間、俺はずっと師匠の隣にいた。 楽しいこと、辛いこと……。
拳を握るとあの時の景色がこの抉られた右目に浮かぶ。 そう思い込んでる時、左目はいつも師匠のことを思い浮かぶ。 美しい黒髪、透き通る白い肌と悪さを企んでるようなあの微笑み……ずっと俺の心のどこかで支えていたと気付いた。
「これ坊や、その本は上に置くのじゃ!」
「あ、はい!」
そして俺は未だに師匠の雑務をやらされている。
片方の目を俺にくれた師匠に心から感謝してる。 長い時間をかけて俺に色んなことを教えてくれた師匠に恩返しを。 そして俺を復讐から救い出し、人間があるべき正しい感情を導いてくれた大好きな師匠に愛の告白を告げる。
「師匠! 大事な話があります!」
「ん? なんじゃい坊や? くっく……」
師匠は何故かいつもより顔が赤くになってこっちを見上げていた。 すると俺はすぐに自分のミスに気付いた。
――あぁぁそうだった……師匠は他人の思考が読めるだった……。