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臆病とトウソウ  作者: トリカブト
転生と三話天下
3/5

転生と三話天下ー3

「僕が王都の武術大会に?」

「うん、テオ様のご提案でね。一度広い舞台で自分の力量を感じてみるといいんじゃないかってね」

「そうですか」

「勿論出場するのは少年の部だ。少年の部では最年長だし、君の実力からしてもそれなりにいい成績を残せるとは思うよ」

「分かりました。武術大会はいつ頃?」

「3か月後だね」


 12歳の春、突如オルコス先生から王都の武術大会への参加を勧められた。

 勧められたというか、父上の名が出ている時点でほぼ決定事項と違わないのだが。

 武術大会とは王国内各地から強者が集い、その武芸を競う毎年恒例の行事だ。武術大会という名前だが、無論魔術の使用も許可されている。

 基本的には騎士団からも出場者の出る本戦がメインだが、12歳以下が出る少年の部、13~15歳までの青年の部も本戦の前日に行われる。

 去年までは父上が文官なこともあって、別に武術大会など出なくていいと仰っていたのだが、やっぱり最近鍛錬に身が入っていなかったからだろうか。


 10歳の時に固有能力を使えるようになってからも、ほぼ毎日内政の勉学と体術や固有能力の鍛錬を行っていた。週に一回与えられる休日以外はどちらかの先生が来て付きっきりで授業をするのでサボりようも無いのだ。

 勉学については所々前世の知識が予備知識としてあったお陰もあり通常より早いペースで習得し、既に一般常識や礼儀作法、領地経営の知識と計算能力等は身に着けた。

 特に数学に関しては前世でそれなりに得意であり数学の研究も前世の方が進んでいたため、軽く異世界チートの気分を味わえたものだ。

 武術についても神様との約束通り才能があったらしくメキメキと力をつけた。

 既に一般兵相手なら大人相手でも圧倒出来る。



 ただこうなると人間というのは弱いもので、「もう十分必要な能力は身に着けられただろう」と思ってしまうのだ。

 慢心とはまた違う、どちらかと言うと怠け癖のような性質の感情。

 無論、才能や事前知識に頼って鍛錬を怠れば、平凡でも努力を続けた人間に後れを取ることもあるだろう。

 だが勉学や鍛錬などと一口に言っても、やってる本人からすれば面倒なものなのだ。

 一般知識や礼儀作法は別にしても、それ以上の専門知識は研究者になるわけでもなくどうせ使わない知識だと思うと興味が沸かないし、武術も痛いし疲れる。

 この前なんて先生との模擬戦で全力でかかってこいと言われ、体中の魔力が空っぽになるまで本気を出したのに一本取るどころか何度も打ち据えられた。

 別に先生相手だから負けたこと自体は仕方ないし特になんとも思わないのだが、魔力が空っぽになり指一本動かすのも億劫なあの感覚はそう何度も味わいたくない。


 まぁそういうわけで既に身に付けるものは身に着けたのだし、という事で最近は勉学や鍛錬の時間は減らして貰っている。

 先生方はもっと修練を積めば文武共にもっと上の段階を目指せると仰っているが、正直そこまでしなくても十分生きていける。

 前世の記憶で激動の時代がなんだと言われた気もするが、きっとあれは夢だろう。最初の頃こそ何か争いの火種はないかと戦々恐々としていたが、エルネスティアと周辺諸国の関係も良好。魔獣達が特別活発になるという話も聞かない。

 不思議な記憶のお陰で色々楽はさせてもらっているが、その記憶が現実味の無い夢だと認識するには時間はかからなかった。


 そうやって出来た自由な時間で最近乗馬を始めた。

 以前商人に貰った仔馬も大きくなり、彼に乗って遠乗りするのが最近の趣味だ。

 馬に乗って領内の様々な村を訪れ実際の人々の暮らしを見回っているのだ。

 そうやって領民と顔を合わせて親近感を持って貰い、何か問題があれば下手に動く前に領主である僕達に知らせて貰えるようにする。

 例えその実、やってることが散歩や食べ歩きにそう違わなくても、専門知識について勉強したり痛くてしんどい鍛錬をしたりするよりも、余程今後の領地経営の為になるはずだ。

 別に辛い目に会うことが絶対正しいわけなんて道理は無いのだし。


 それもあり父上も最近サボり気味な鍛錬の事にもあまり強くは言ってこなかったのだが、おそらく王国内での自分の立ち位置を知ることで何かの刺激になると考えたのだろう。

 可能性があるなら休まず更に上を目指せ、いつの時代どんな世界でも親はそういう厄介な希望を子供に押し付けるらしい。


「さて、そうなると今日からまたキッチリと鍛錬の時間を取って頂きますよ。アルフレート様はまだまだ伸びしろがあるのですから、3か月あればあと一段階上の力をつけれるでしょう」

「そうかもしれないけど、前みたいに魔力が尽きてぶっ倒れるのは勘弁して欲しいですね」

「うーん、あれが一番手っ取り早く魔力の最大保持量を増やす手段なんですがねぇ……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 武術大会は三位という結果だった。

 準決勝までは順調に進めたのだが、準決勝で対戦した今回の優勝者がべらぼうに強かったのだ。確かカシウスとかいう名だったか。

 地方領主の息子らしく今まで全くの無名だったのだが、今回初出場にして彗星のごとく優勝を掻っ攫っていった。

 先生に言われてなるべく使わないようにしていた切り札である固有能力も、幻術だと見抜いたわけではないだろうが彼は一発で対応した。

 最初は上手く使えてなかった幻術も、今ではオルコス先生すら一瞬対応が遅れる程になっているというのに。

 余程の力量差が無いとバレないと言われていたのだが、逆に言うとそれだけの力量差があったのだろう。

 準優勝の奴もそれなりに強かったが、あいつなら僕も勝ててたかもしれないのにな、なんて思う。

 いずれにせよ、初参加にしては善戦出来た方だろう。



 そんな風に今回の結果に総評を下しながら街を歩いていると、突如声をかけられた。


「よう、お疲れさん!」


 その馴れ馴れしい、少年のような声に振り返ると、


「あれ、えっとカシウス君だっけ? こんなところでどうしたの?」


 そこには決勝で戦った、というか僕がぼろ負けした例の彼が居た。

 別に負けたこと自体はそこまで気にはならないんだけど、同年代とは思えないその強さを思い出しちょっと僕の声が震える。

 手も足も出ないというか、勝ち筋が一本も見えなかったからな。何をすればあんなに強くなれるのか想像もつかない。


「試合も終わって暇だからブラついてた。あとついでに君を探してたんだよ」

「ぼ、僕を? 何か用かい?」


 そんな彼がついでとは言え何故僕を探していたんだろうか。彼が興味を持つ事柄と言えば、彼との試合で1回だけ使った幻術の事くらいしか思いつかないが。

 とそんな僕の戸惑いに気付いてか気付かいでか、いやこの顔は気付いてないんだろうけど、グイグイと差し迫る感じで話しかけてくるカシウス。


「あのズバッてジャンプした直後に俺の懐に入ってきてたのあれ何? 瞬間移動?」

「え、えっと流石にそれは企業秘密としか……」

「まぁそれはそうか。因みに俺の強さの秘訣は訓練だ!」

「はぁ……」


 やっぱり幻術の事を聞きに来たようだ。だが、それにしてはあっさり追及を止めるカシウス。

 というか、訓練するだけで彼ほど強くなれるのだったら農民でもオークを狩れる世界になっているだろう、等と突っ込みを入れたかったが止めておいた。


「まぁ詳しくは話せないけど一応あれが僕の固有能力ということで。えと、それが聞きたかったの?」

「いや違うぞ!」

「そうなんだ」

「そうだ!」


 擬態語をつけるなら「ニカッ!!」とでも付きそうな満面の笑みで言い切る彼。


「……(ニカッ!!」

「……(オロオロ」

「……(ニカドヤァ」

「いや何しに来たのさ。そんな笑顔でどや顔しながらこっち観察しないでくれる!?」


 満面の笑みはそのままに、どこかこちらの動きを探るような目つきに思わず声をあげる。


「うん、やっぱりお前はまだまだ凄くなれそうだ。今回の決勝の相手だった奴は強かったけど、多分ありゃあの強さで頭打ちだったからな」

「へぇ、そんなこと分かるのかい?」

「なんとなくだけどな!」

「それはまた光栄なことで」

「ってことで今日から俺と君はライバルだ!!」

「はい!?」


 いきなり声をかけてきて突然のライバル宣言、元気有り余ってるというより無茶苦茶だな彼……。


「いや、ゴメンだけど僕は武術を極めるつもりは無いんだよ。父上の領主を引き継ぐつもりだし……」

「えぇー、それは困るぜ。今回の試合でライバル見つけてこいって師匠に言われてんのにさ」

「いや困られても困るんだけど」


 何故か普通にショックを受けたような顔をするカシウス君。どうしろってんだ。

 気まずそうに見つめ合ってたが、すぐに彼は後ろに振り返った。


「ま、いっか。我が戦友(ライバル)よ、飯食いに行こうぜ!」

「勝手にライバル認定するのはこの際もう知らないけど、僕の名前はアルフレートだ」

「そんじゃアルフレート、飯食いに行こうぜ!」


 残念ながら僕を開放してくれるわけではなく、更に引っ張り回すつもりだったみたいだが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そうそう、それでカリーナちゃんが作ってくれたリストバンドがこれなんだ」

「……ちょっと、俺らが着けるには可愛すぎないか?」

「いやまぁそうなんだけど、でもカリーナちゃんが作ってくれたってだけでその恥ずかしさも消し飛んじゃうね」

「まぁリストバンドよりその惚気の方が恥ずかしいもんな」

「はっはっは羨み給えよ若い君」


 大袈裟に笑いながら同い年のカシウス君の背中を叩く僕。

 結局お昼ごはんを一緒に食べつつ色々な話をしてて分かったのは、彼は少々元気過ぎる所はあるけど基本的にはいいヤツだということだった。

 特に若干引きつつも嫌がらずに僕の惚気を来てくれる所は素晴らしい。

 そのせいでなんか最初と今とで押し引きの立場が逆転しちゃってるけど気にしない。



 午後の本戦も3回戦に入ったらしいので、食堂から出て闘技場へ向かう途中とある商人を見つけた。

 その横には数人の男女。その首には、値札。


「何度見ても胸糞悪いよな。いくらこの国じゃ合法だって言ってもよ」

「違いないね。話には聞いてたけど見たのは初めてだ。まさかこの祭りの日に大通りで商売してるとまでは思わなかった」


 その商品達、奴隷たちの年齢は様々だった。年老いたものは安く、若い者程高い。

 特に若いエルフらしき少女には、桁一つ違う値段が付いていた。


「のう商人よ、いくらエルフの少女といえ少々値段を付けすぎじゃないかの?」

「ほほぉ、彼女に目をつけるとは旦那様もお目が高い。ですが彼女の顔をよく見て下さい。整った顔には気品すら感じ、それに胸も大きい。相場より高値をつけているのも確かではありますが、一部の方にとってはそれに見合う逸材と考えております故」


 見ればデップリとした身なりのいい男が奴隷商相手に値引き交渉をしていた。

 服装からしておそらく隣国であるノークス王国の貴族だろう。武術大会を見にノークス王国からも観光客が来ていた。

 本来なら武術大会を他国の人間に見せるというのは、その国の戦士のレベルを知られる危険な行為でもあるのだが、ノークス王国と我がエルネスティア王国は友好関係を結んで久しい。もはや警戒心など互いになくなっているのだ。


「しかしいくら豊満な胸を持っていようと、おそらくこの娘、少女という程度の年齢だろう? 愛玩用にしては幼すぎないかね?」


 そう言いながら無遠慮に少女の胸に触れるデブ貴族。少女は小さく悲鳴を上げたが抵抗することはしなかった。


「えぇ確か歳は13歳ですね。幼い方が好みだというお客様もいらっしゃいますが、旦那様の好みとは違われましたか?」

「ま、まぁそういうのも悪くはないとは思うが…… 事実この3日誰も買い手が付いていないではないか! やはり高すぎるのだ!」


 一瞬目を泳がせるもすぐに怒鳴り返す貴族。3日も前から目をつけていたらしい。


「そうですねぇ、でしたらエル金貨10枚でいかがでしょう?」

「はてさて、手持ちには後1枚足りんのじゃがのぅ…… 領地に取りに変えれば2週間はかかるわい」

「仕方ないですねぇ、でしたら」

「エル金貨10枚で買おう!」


 思わず僕は叫んでいた。人の人生に値段を付けて、あまつさえその価値を値切る様子を見て。

 それにあの貴族の目、完全に彼女を人間として見ていなかった。ただの性欲を満たすためのモノを見る目だった。


「ふむ。失礼ながら、しかとエル金貨10枚ご用意頂けるのですかな?」

「え、えぇい小僧! 人の商談の途中に割って入るでないわい! ならワシも」

「勿論2週間も待って貰わなくても、3日で用意します」


 震える手を後ろに隠しながら、それでいて声はなるべく震わせずそう啖呵を切る。

 デブ貴族は手持ちがないと言った以上何も言えず、オロオロと商人を見ていた。

 一方の奴隷商は無遠慮に僕の頭の先から爪先まで見て、おそらく服装からしてそれなりに裕福な貴族の息子だと判断したのだろう。一転して相好を崩しこう言った。


「かしこまりました。でしたらそちらの坊ちゃまにお渡し致しましょう。毎度ご贔屓に」



「いやぁ、中々やるじゃねぇか! いたいけな奴隷の少女を救う貴族の坊ちゃま! 格好いいねぇ!」


 本気で褒めるように言うカシウス君。言葉だけ聞くと皮肉のようだったが、彼の場合その言葉に裏表は無いことはそろそろ分かってきている。


「だけどそんな大金用意出来るのか? 貧乏貴族のウチじゃ、どうひっくり返ったって用意できっこないけどよ」

「小さい頃から貯金してきたのが実家にあるんだよ。まぁ本当は少し額面足りないんだけど、そこは父上に頭を下げる」

「うわぁ本気だねぇ…… 因みに彼女を買ってどうするんだ? まさか本当に……」


 引くわーとばかりにカシウス君が口を手で覆う。あのデブ貴族と一緒にするんじゃない。


「そんなわけ無いでしょ! 今まで僕の面倒も父上達のメイドであるハルノアさんに見て貰ってたけど、そろそろ僕専属のメイドが欲しいと思っていた所なんだよ。変な意味じゃなく!」

「本当かねぇ? 思春期の俺らにとっちゃ、身銭を切って変なおっさんから助けてくれた恩がある専属で従順で巨乳なメイドなんて、妄想するに余りある」

「君こそさっきの貴族と同じ思考じゃないか! 僕にはカリーナちゃんがいるんだ!」

「あ、そこで惚気に戻るのか。ブレないなぁお前は」


 馬鹿みたいに騒いでいたカシウスも何故か呆気にとられた後納得するように頷いて黙ったので、僕らはそのまま闘技場へ向かった。

 その翌日、領地に戻って父上に話を付け、無事に三日後に彼女、クロエを引き取ることが出来た。

 父上にも「なるほど、カリーナちゃんを放ったらかしにするんじゃないぞ」としたり顔で言われたけど、違うそうじゃないんだ。

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