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燃え盛る部屋で

作者: 橋本ちかげ

もう今さらおれのことを考えても無駄だ

君になんの得もない

最後まで彼はそんな言い方をした

久しぶりに意味のないドライブだった

意味のないと言われた過去を

ふと思い出していた

冬晴れが気持ちよくて つい海まで出てしまった

たぶんそのせいだ

2月の海風は強くて やっぱり寒かった

電線や信号ががたがたと揺れて

どこかでがんがんと雨戸が揺れる音がした

それでわたしは石油ストーブの匂いと温められた古い木の床を思い出していた

わたしはそうやって強風に脅かされながら

海の近くに 住んでいたのだ


もう今さら

最後にあいつが言ったんだ

わたしはそれすら

気づいてもいなかったな

顔をあげるのも嫌になるほどの

容赦ない海風から二人守られて明日が今日になる

ただそんな途中だった

わたしは知らなかった

もう彼の気持ちはここに住んではいなかったこと

彼は毎日 出発を待っていたのだ


「ストーブ暑すぎじゃないのか」


あの日寒がりの彼は言った

たぶん けんかを吹っ掛けたかったのだ


「これじゃ、火事の部屋に閉じ込められてるのと変わらない」


彼は窒息しそうだったのだ 早く新鮮な空気のある部屋に逃げ込みたかった

そうやって彼は出ていった


でもそれからも相変わらず

彼から連絡がある

たぶんその部屋も火事なのだろう

「今どうしてる?」

あなたと同じ相変わらずだ

窒息しそう

同じ空気が巡り回って 繰り返して

ただうざったく

息苦しくて


今なら思う

あれからも

わたしたちは ずっと

あの燃え盛る部屋で

酸欠しかけながら

ダンスをしていたんだ

 



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― 新着の感想 ―
[良い点] 既に居心地がいいからなんとなくそのままになっている、を越えた倦怠感といき(生きと息の両方) 苦しさ。 情熱が去り、違う世界へ踏み出すための言い訳探し。 冬の海風は厳しい。人生そのもの。…
[良い点] 息苦しさが私を襲う ひたすら逃げたいと 消費した酸素の様に 戻らない二人の関係 その舞いはただ苦し [一言] 切なさよりも、辛さが苦しさが来る作品でした。息苦しさは確かに劇中の様に感じ、…
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