彼の気持ち
友達連中が、皆、彼女というものを作っていたから、自分も作ってみた。
優しくしてやれば、うれしそうに笑う。
気持ちよくしてやれば、その倍も気持ちよくしてくれる。
当たり前の人間関係以上に、彼女ってやつは、いいものだと思った。
だが。
1つだけ許せないことがあった。
奴は、俺の一人の時間というやつを、奪おうとしたのだ。
一人で過ごす時間を、全てなくそうとしたのだ。
一日の大半を一緒にいるのは、全然構わない。
彼女ってやつは、そういうものらしいから。
それでも、誰にでもあるだろう、一人でいたい時ってものが。
例えば、一人で出かけたいときに、ついてこようとする。
一人で静かに本でも読みたいときに、側にいようとする。
ゆっくり一人で寝たいときに、隣にいようとする。
‥‥信じられない。
お前は何様だと、何のつもりだと、怒鳴りつけたかった。
一人になりたいときに、一人になれない。
これは、彼女がいる代償なのか。
欲しくて作った彼女ではない。
そう思い始めていたとき、彼女は、あまりうちに来なくなった。
ほっとした反面、何かを気づかれたのかと、思った‥‥
言いたいことを、全部告げるのは、フェアじゃないような気がしていた。
たった、それだけのこと。
二人でいる時間が長かったからこそ、一人でいたい時間を欲した。
それは、間違いだったのか。
贅沢すぎた望みだったのか。
いつでも側にいたものが、なくなった喪失感。
そこにいるのが当たり前だった存在が、いない景色に、愕然とする。
それこそが、身勝手な思い‥‥
「あなたのことが、全然分からないわ。私は、ずっと一緒に、そばに
いたかっただけなのに」
彼女からの、それだけのメールが、最後だった。