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相談

 藤堂とアキラが笹本のレストランへ駆けつけた時に美里は優雅にお茶を飲んでいた。

「美里」

 ほほえみ返した美里を見て、藤堂はほっとしたような表情になった。

 美里のしくじりを知らされる日がいつかくるかもしれないと思うのは美里には内緒だ。だが彼女よりも狡猾で強い殺人鬼は必ずいるだろう。

「あれ、仕留めてないじゃん。老いぼれたな。引退したら?」

 とアキラが言った。

 優雅にティータイムを楽しむ美里のすぐ横には弱った獲物がうずくまっていた。

 その横には、さあ、早く解体しよう!とばかりに張り切ったゴムエプロンと長靴を履いた笹本と助手が数人いた。

「だってそんな簡単に殺しちゃっていいのかしらって思って。こんな鬼畜にそんな安らぎを与える役は嫌だわ」

 美里の目線の方には横たわった少女の遺体。

「これはひどいな。子供によくこんなまねが出来るもんだ」

 殺人鬼を妻に持つ藤堂が眉をひそめた。

 こんな無残な姿で発見されて世間に晒されるよりは、行方不明の方がいいのではないかと美里は思った。だから一緒に連れてきた。

「子供は駄目でしょ? 子供は殺しちゃ駄目よ」

「まあ、たまについ殺っちまいたくなるようなガキもいるけど」

 とアキラが言い

「そういう時はもう少し育つのを待たなくちゃ。クズに育つのを」

 と美里が言って笑った。


「美里君が活け作りを提案してくれてね」

 と笹本が言った。だから早くやらせてくれ! とうずうずしながら笹本が口を挟む。

「活け作りねえ。実を言うと誰よりも笹本さんがアレだよな。俺なんか繊細だから生臭い物には触りたくない」

 とアキラが言って笑った。

 藤堂が美里の横に座り、

「俺もコーヒーもらえる?」

 と言った。

「じゃ、俺、オレンジジュースで」

 とアキラも続き、いつでも笹本のそばに控えているギャルソンがにっこりとうなずいた。


「で? 解体ショーを見せる為に呼んだのかよ」

 とアキラが言った。

「そうじゃないわ」

 と言って美里はアキラを見た。

「今度こそあんたの元カノ、殺すわよ。それが嫌なら帰ってあげなさいよ」

「エイミ?」

 と言ってアキラがぴんっとオレンジジュースのグラスを指で弾いた。

「そう、手下みたいな男がアキラを連れ戻しに来てる。うろうろするだけならまだしも、こんな風に挑発されるのは不愉快だわ」

「挑発って? 君、罠かもしれないのにこの男をやったのか?」

 と藤堂が言った。

 美里は肩をすくめたが、

「やってないわ。死んでないでしょ」

 と真顔で答えた。


「挑発に乗ってんじゃねえよ。さすがだな。俺みたいなチキンにはとうてい真似出来ねえ。殺戮ショーを実況でもされてたらどうすんだ。馬鹿じゃねえの」

 とアキラが腕組みをしてからそう言って笑った。

 笹本は今にも振り上げそうに持っていた大きな肉切り包丁を一度シンクの上に置いた。

「一応、安田君をつけてある。あの家はこの男の持ち家らしいが、どん底の生活らしくてたいした物もない。隠し撮りの機材も見られなかったし、もちろんパソコンや携帯電話のの類もなかった」

「その場で撮影して持ち去られたらどうにもなんねえだろ。ネットで検索してみなよ。出来の悪いやらせじゃねえ、本物のスナッフ動画、大人気だろうぜ。この店ももう特定されてるかもよ。最近の素人はたちが悪い」

 とアキラが意地悪く言ったので、笹本の顔色が変わった。

「それは困るな!」

 慌ててポケットから携帯電話を取りだして検索を始めた。

「目的はアキラ君なんだろう? 美里をそんな事に巻き込んだら絶対アキラ君は戻らないだろうってことくらいは分かるんじゃないか? 普通に考えればな」

 と藤堂が言った。

「向こうも人肉でデザート作るやつに普通とか言われたくねえだろうよ」

「何だよ、その言い方。そもそも君が原因だって理解してるのか? エイミのとこへ戻って結婚式でもあげてやれよ。俺達は呼ばなくていいから」

「ケ」

 とアキラは横を向いた。

 藤堂は腕組みをして不愉快そうにアキラを睨んでいる。

 アキラの為に美里が危険にさらされるなど、冗談ではない。

「どうしてエイミのところへ戻らないんだ? 彼女の事が好きなら戻って結婚してやれ、それが嫌なら殺してやれ。その方がエイミの為だ」

 と藤堂が続けて言った。

 美里が首をかしげて藤堂を見た。

「普通の女の子なら失恋はあきらめるものだ。どうあがいても手に入らないなら他の男と出会いまた恋をするだろう。だが俺たちは普通じゃない。エイミは君を手に入れる為には美里を殺すだろう」

 藤堂が美里を見ると彼女は肩をすくめた。

 アキラはふてくされたような顔で黙っている。

「一回戦は美里が勝った。だがエイミは君を手に入れるまで何回も戦いを挑んでくるだろうさ。君がエイミの気持ちに答えてやれない、だが美里の側にいたいというなら殺してやれ。出来ないなら二人で永遠に追いかけっこして遊んでればいい。だがこの街からは出て行ってくれ。君がいるだけで美里が危険なんだ。美里を殺しても君が手に入らないなんて事は考えない。彼女はそういう人種だ。そうだろ?」


 藤堂の厳しい言葉の後に美里もアキラも黙ったままだった。

 それぞれに思惑はあるだろうが、二人とも何も言わなかった。

 ただアキラは少しだけ笑った。

 それは叱責された事への自虐的な笑みではなく、それどころか藤堂に対して余裕のある表情だった。


「これは……」

 と携帯電話の画面を見る笹本がつぶやいた。

 三人が振り返る。

「どうしたの? 笹本さん」

 と美里が言い、

「店、晒されてた? 大急ぎで逃げなきゃ」

 とアキラが言った。

「いや、そうじゃないが。巨大掲示板で店の名前が出ている。変わった料理を出す店だからぜひ行くべきだと書き込みがあるな」

「人肉料理?」

「いや、そこまでは書いてないが……殺人犯の名前が出てる。昔、人を殺して食った有名な殺人犯の名前が。その頃にこの店があったら自ら殺人を犯さなくてもよかったのに、と書いてある」

 ヒューとアキラが口笛を吹いた。

「どうする?」

「もちろんしかるべき場所へ訴えるし、それなりに動くさ。こちらもいろいろ手段はあるからね……だが、これがアキラ君の彼女の仕業なら脅しだろうな。アキラ君が戻らない限り次は本当に殺戮ショーを公開されるだろう」

 と笹本が言った。


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