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だるま女

 どうして生きているんだろ。

 どうして死なないんだろ。

 どうして、あれ? 何がどうしてだっけ?


 次にどこを切るかって言われたら、絶対首から上にしてもらおう。


 転がっているだけの半生だ。

 毎日いろんな男がきて、あたしの上に乗っかる。

 怖い物見たさで高い金を払わされた、と誰もが言う。

 でもあたしはそんなお金を見た事がない。 

 もらえないもの。

 あたしの世話をするだけでぜーんぶ飛んでいくって、おかみさんが怒るくらい。

 ご飯も排泄も身体のケアも自分じゃ何もできない。

 出来るのは上向きで寝ていることだけ。

 寝返りさえ出来ない。

 身体が痒くてもかけない。

 そうゆう身体だから。


 

 最初は左腕だった。

 切ったら三百万くれるって言うから。

 彼氏が借金払ってもお釣りがくるって、ハワイに行こうって、豪遊出来るって。

どうしてそんなにお金をくれるのかって聞いたら、切断ショーだって。

 人前で切るとこ見せたら金になるって。

 人の身体を切断してるのを見たい人がお金払って見に来るんだって。

 変わった人間がたくさんいるよね。

 麻酔もしてくれるから痛くもないし、すぐに処置してくれるからぜんぜん大丈夫って。


 そしたらさ、左腕の肩から指の先までぜんぶなくなった。


 そんときは痛くなかったよ。

 麻酔が切れるまではね。

 でも麻酔が切れて熱が出たのに彼氏は三日も帰ってこなくて、一人で悲しくて泣いちゃった。麻酔が切れた後はすごく痛かったし。痛み止めでも飲んどけって言われて飲んだけど、あんまり効かなかった。時々だけどクスリをやってたからかな。でもそれだってやばいクスリだなんて知らなかった。やばいクスリって覚醒剤でしょ? 覚醒剤って注射器で注射する奴でしょ? 彼氏にもらったのは錠剤だったもん。


 その彼氏はすぐにいなくなった。ハワイも豪遊も嘘だったし、お金もぜんぜんもらえなかった。二度とあんな男にひっかっかるもんか、って思った。


 でも男運は最高に悪いみたい。

 その次は右足でそのまた次は左足、最後は右腕。

 切断ショーの値段はだんだんあがっていく。

 最後の右腕には八百万だって聞いた。もちろんあたしにはいくらも入らないし、お金をもらっても使う手がない、買い物にいく足がない。


 どうしてそんな事をしてまで金をつくるのかって聞かれたら、頼まれたら断れない性格だからかなとしか言えない。どの男も絶対にこれからはずっと側にいて守ってくれるって言うから、つい信じちゃう。

 でも麻酔から覚めた時にはもう誰もいない。

 でもそれまでは最高に優しいんだよ。



「み、美貴ちゃん、お風呂に入ろうか」

 と言いながらジョニーが入ってきた。

 ジョニーはあたしの世話をしてくれる人だ。

 お風呂に入れてくれたり、髪をといてくれたり、ご飯を食べさせてくれたり。

 客が来る前には化粧もしてくれる。

 ジョニーはちょっと不細工で、頭が悪そう。中学校を中退してるとは聞いた。

 ニキビ面で背が低く、足も短い。

 ジョニーなんて全然似合わない呼び名なんだけど、俳優のジョニーなんとかが好きなんだって。

 ジョニーはあたしの世話係のようなもので毎日あたしの身体に触るけど、絶対にあたしとやろうとはしない。押さえつけられたら逃げようもないのに、ジョニーは絶対に必要以上はあたしに触ろうとしない。

 多分だけどね。

 半日はあたし、意識が朦朧としてるから、その時はわかんない。

 本当言うと、こんなに心の中でしゃべってる半分も言葉にならないんだ。

 ジョニーやおかみさんの言うこともあんまり難しいことは分からない。

 おかみさんは「どうせ何言ったって、わかりゃしないよ」ってよく言ってるし。

 そうなんだ。

 毎日、毎日、だんだん分からなくなっていくの。

 あたし、馬鹿だからかな。

 どうしてあたし、生きてるんだろ。


 でもジョニーはあんまりあたしのことを言わない。

 高い金を払った客にはだるま女とか芋虫とか言われるけど、ジョニーはあたしのことすごく丁寧に扱ってくれる、ような気がする。

 あ、でも、ジョニーは好みじゃないな。

 ジョニーがやりたいならやってもいいけど、恋人にはごめんなさい。

 あたし、きれいな人が好き。



「今日は天気がいいから中庭にでよう」

 とジョニーが言った。

 あたしの髪も体もきれいに洗ってくれて、全身にクリームを塗ってくれて、顔にも化粧水をたっぷりつけてくれる。

 下着とガウンを着せてくれて、ひょいとジョニーはあたしを抱き上げた。

 たまにはお日様に当たらないとね、ってジョニーはあたしをよく中庭につれてってくれる。中庭にはやっぱり女の子が出てきて、ひなたぼっこしたり雑誌を読んだりしてる。

ここにはたくさんの女がいて、皆が客を取ってる。

 全身痣だらけの子もいるし、がりがりの骸骨みたな子もいる。逆に二百キロくらいありそうな太った子もいる。

 普通のご飯が食べられない子もいるってジョニーが言ってたけど、じゃあ、何食べてるの?って聞いたら、笑って教えてくれなかった。

 でも知ってるんだ。

 うんこ食べるてるんだって。

 信じられないよね? っていうか、うんこって食べられるんだ?


 もちろんあたしみたいな手足がないのもいるし、普通の女の子もいる。

 割とかわいい子もいるし、おばさんみたいなのもいる。

 共通してるのはぼんやりした目と動作。

 多分、あたしもあんなもんだろうな。

 あ、もう一つ、みんな早く死にたいって思ってるんじゃいないかなぁ。

 ここからは出られない。

 死ぬまで客を取るだけ。

 客を取れなくなったら死ねるのかな。


 時々自殺騒ぎを起こす子がいる。

 リスカが多いけど、首つりもある。

 たいていはすぐに見つかってひどく折檻されるだけ。

 あたしの世話役にジョニーがいるように、女の子には世話役が一人ついてるから。

 あたしと違って世話してもらわなくてもいい女の子が大半だけど、逃げ出さないような見張役なんだろうね。あたしは逃げたくても絶対に無理。だからジョニーみたいなおとなしい男の子がついてるんだと思う。

 

 そんなことを考えてるうちに、またどうでもいいやって気になって考えるのをやめる。

 お日様が暖かくって、すぐに眠くなってしまう。

 あたしはジョニーに抱っこされたままうとうととなる。

 その遠くの方から、

「やられた! 灯油かぶって火をつけやがった!」

 って声がしたけど、あたしはそのまま眠りに落ちていった。

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