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第8章

済みません、暫し休載。8月17日(月)再開予定です。

8.

寮の食堂を縦に貫く様な、長い無垢の木で作られたテーブル。その上に並ぶ、シャンデリアの明かりを反射して煌めくクリスタル・ガラスで出来たグラスと、銀の食器。頭上から照らしているシャンデリアに灯るのは、燃え尽きる事のない魔法の灯りで、背の高い凝った彫刻の入った、重厚な食器棚が置かれた部屋の隅まで明るく照らし出している。

漸く大学の寮に辿り着く事が出来たわたしは、ジェニフィー嬢始め夏季休暇中にも関わらず女子寮に残る女子大生たちの、些か熱烈過ぎる歓迎で迎えられた。

如何やら首のない、もとい、なくは無いが騎士のおじさま向けの『誘惑』の効果が持続していたらしい。

暫し、台風が過ぎ去ってくれるまで、わたしは揉みくちゃにされながら、食堂まで連行されることとなった。


「そ、それじゃあ、アルティフィナさんが遅れたのは、この大学の下にある迷宮に迷い込んでしまったからだと言うのですか・・・?」

わたしの正面に座るピンク掛かったきれいな金髪の女の子が、そうわたしに訊いた時。

和気あいあいと始まった寮の晩餐の席が、一瞬にして氷ついた。

誰かが落としたらしいフォークが木のテーブルの上で小さく跳ねる音が、しんとした食堂に響いた。

この世界の大学は、元いた世界の大学と大学院を合わせた様なものらしく、年齢層がかなり広い。つまり下はどう見ても女子高生(ひょっとすると中学生)から、上は妙齢のお姉様まで、よりどりみどり・・・、じゃなくて、10才近い年齢差がある。

夏休みで数は少ないとは言っていたが、それでも10人近い女の子たちが、ぴたっ、とその動きを止めてわたしに熱い?視線を向けている。

えーと。

これは・・・、空気よめ、って事かしら?


「この王城は、元々この地にあった地下迷宮の上に立てられたそうです。地下迷宮を封じる為に建てられた、砦が元になって城が作られたのだとか。王城の城壁は、元々外の敵の攻撃から守る為のものではなく、地上に開いた迷宮の入口を囲む為の物でした。やがて地下第一層が攻略され、第二層へ通じる入口が一か所しかない事が分かったので、そこに扉を作って魔物を第二層から下に閉じ込めたのです」

隣に座ったジェニフィーさんが、わたしを見つめて話始めた。他のみんなも、食事の手を止めてジェニフィーさんの説明に聞き入っている。

うん、わたしってば、何か禁句を言っちゃったみたい。

ジェニフィーさんがやたら真剣そうなので、思わずわたしも手にしたナイフとフォークをテーブルに置く。

「街が作られ王城が建ち、地下第一層の場所を広げて作られたのが、王立ルトビア魔法学大学校なんです。大学もこの寮も第一層にあるのですが、勿論、第二層へ通じる扉は厳重に閉められていて、誰も入る事が出来ないはずなんです」

ふーん、そっかぁ。

普通の人はそもそも迷宮には入れないから、迷ったりしない訳かあ。

じゃあ、わたしが迷っちゃったのも仕方ないわよね?

わたしだけ、方向音痴な訳じゃないって事が、証明されたわよね?

否、そうじゃなくて。

多分、魔族のわたしには、そんな厳重な封印とやらが通じないのかもしれない。これはまずい、大学のある第一層でアルネリーゼ嬢を探すと、知らぬ間に第ニ層に入り込んでしまうのかもしれない。

気が付かないうちに入り込むリスクのある、地下迷宮・・・?


「ひょっとして、アルネリーゼさんが消えてしまったのも、寮に幽霊が出るっていうのも、その迷宮の存在が関係あるのかもしれないですね」

わたしがそう指摘すると、テーブルを囲む何人かが『ああ、そうか』と言う様に頷いた。皆、幽霊話には、思い当たるところがあるのかもしれない。

わたしが寮に辿り着けたのは、首なし騎士のおじ様の案内があっての事だ。普通の人間だったら、一旦迷い込んだら簡単には第一層に戻ってはこられないだろう。


「だとしたら、だとしたら、アルネ先輩は魔物に食べられちゃったんじゃ・・・」

ピンクっぽい金髪の女の子が、唇を戦慄かせて、そう呟いた。

何か、お人形さんみたいで可愛い。

『そんなに心配しないでも、大丈夫よ。さぁ、お姉さんと、お着替えしましょうね? あなた、こっちのワンピースが似合いそうね。えっ? 何でワンピースに着替えるのに、下着まで脱ぐ必要があるかですって? えーと、ほら、きっと、下着の色もあなたの髪の色に合せてピンクに変えた方が似合うわ。下着は外から見えないから関係ない? そうよね、だから、わたししか見ないから問題ないわ! さあ、じゃあ、着替えの続きをしましょうね?』

思わず、頭の中で妄想のドラマが上映された。

登場人物は、ちょっと怯えた表情が食べてしまいたいくらい可愛い、ピンクっぽい金髪の女の子と、わ、た、し。


「アルティフィナさん、どうかアルネ先輩を助けて下さい!」

テーブルを回り込んで駆け寄ったピンクっぽい金髪の女の子が、わたしにしがみ付いてきた。

わぁ、ついに妄想が現実に?

良いわぁ、やっぱり、女の子最高。

一旦体を起こして、椅子をずらして向き直ったわたしを、ピンクっぽい金髪の女の子が頬を赤らめ正面から見詰める。

「済みません、思わず、勝手に抱き着いたりしてしまって。私は、アイリーン。アイリーン・ドゥ・ルトビアと申します。どうか、アルネ先輩、アルネリーゼ先輩を助けて下さい!」

アイリーン嬢がわたしの両手を取ると、僅かに声に恥じらいを残しつつも、可愛いのに凛とした澄んだ声が食堂に響いた。

あ、この子、この国の第四皇女だ・・・。


済みません、暫し休載。8月17日(月)再開予定です。

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