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なんて言おうと暑いものは暑い

作者: 七尾里緒

フリーワンライ参加作品です。

使用お題「嫌いじゃないだろ、素直になれよ」「時間切れ」

 私はあいつが嫌いだ。毎朝うちの前で犬のように「待て」をしているあいつを見るたびに、私はそう暗示をかける。




「…ねえ、あんた暇なの…?」

「いやー、そんなことないよ? 部活とか毎日あるし」

「じゃあなんで毎朝毎朝こう迎えに来るのかな?」

「えーりりは嬉しくない?」

「うん」

「即答かよ」

「ストーカーだと思うくらいには引いてる」

「そうなのか」

「そうなんだよ…」

 脱力する通学路。おはよう、と真っ白な歯を見せてストーカーもとい青木が声をかけてきたから今日も諦めて一緒に登校する。凜華という私の名前を呼び捨てにするあまりか、りりと許した覚えもない呼び方をして、朝は何故か必ず迎えに来る。しかし学校ではクラスが違うからか、あまり声をかけてこない。昼休みも友達と無事(?)過ごせている。相手が部活をしている一方こちとら帰宅部だから帰りは楽しく帰れるのだが、うっかり委員会や勉強をしに残っていると、予定も行っていないのにふらりと現れて送られる。解せぬ。迷惑っちゃ迷惑なのだが、最初の方は気にも留めず許していたのだからこちらも分が悪い。ただ周囲から生暖かく見守られている状況はいただけない。仲のいい友人にはきちんと被害報告をしているのだが、およそ学年の大半には付き合っていると思われている、らしい。特に恋愛に興味もないし、もてたい願望もないし、いいっちゃいいのだが…いやよくない。万一好きな人ができた時に困るから、事実を広めておかねばなるまい。そう溜息を吐けば、青木は少し困った顔をしてどうした? と尋ねてくるのだ。

「イケメンはずるいよな」

「突然どうした」

 実は青木と私はもともとけっこう仲が良かった。だからこそいつの間にかこんな距離を許していたのだが。うっかり、ついだ。気楽に話もできるし、冗談も、愚痴もためらいなく言える相手。こんなことになる前なら、そしてちゃんと告白されていたら勢いでコイビトになってしまっていてもおかしくないくらい。

「いやー、青木そこそこ顔も整ってるのにストーカーって勿体ないなって思ってたとこ」

「ほめてもらえて光栄だな」

「絶対後半拾ってないでしょ」

「全部込みで褒め言葉じゃないの?」

「ストーカーって褒め言葉だっけ……?」

「だって」

 青木はそこで立ち止まる。振り向く。一歩分の距離を以て私たちは対面する。

「それだけりりのことが好きってアピールじゃん」

 そこそこのイケメンが、こんな風に気障なことやってしまっては、うっかりかっこいいと思ってしまう。そこをなんとか隠して、ドン引きして顔をひきつらせた。

「青木、アウト」

「ナ、ナンダッテー」

「退場!」

「せめて学校までは行かせてくれください」

「よろしい」

 こんな中身のない会話をしているうちにいつの間にか学校には着いてしまう。クラスごとの下駄箱の前で別れるまでがルーチンだ。

「じゃ」

「うん、バイバイ」

 まるでストーカーだなんて思わせないようなあっさりさで離れていく。ああ、なんか無駄に疲れた。入れ違いになるように、仲のいい友達に声を掛けられる。

「おはよー」

「おっはー。今日も仲良くご一緒でしたね!」

「やめてくれ、あれはストーカーだといってるでしょ」

「またまた~照れちゃって」

「顔赤いぞ!」

「暑いからじゃない? もう汗だらだら」

「………ここまでくると青木可哀想だよね」

「………うん」

 急にどんよりし出す友達。見目が苦しい。もしかして体調悪いとか?

「え、熱中症? 水分取ってる?」

「凜華…あんたはもうそのままでいいよ」

「うん、暑いからみんな気をつけようね…」

 教室はもっと暑いだろうか。せめて風通ってるといいな。そんなことを思いながら教室に向かう。ちなみに青木の姿はもう下駄箱にはない。

天然怖い、とその背に囁いている友達の苦労は知る由もない。


***


 夕方になれば、いくら夏とはいえその暑さは弱まってくれる。だから終礼を終えても私はなんとなく残っていた。過ごす場所は図書館のいつもの席。ここは空調がいい感じにあたるのでお気に入りスポットの一つだ。

 ぼんやりと本を読んだり、残っていた課題をやったり。気づけば下校時間も間近で慌てて片づける羽目になった。その理由はただひとつ。

「急がないと、あいつが来る」

「…そんなに俺のこと、嫌い?」

「嫌いじゃないけど、よくわかんないんだよ、ね……」

 手遅れでした。見上げるとめんどくさかったのか、ジャージ姿のままの青木が私の向かいの席にお座りになっていた。汗臭い。そのことを茶化すか迷って、口を閉じる。見たこともないような表情で、まるで別人のようで。

「とりあえず、急ぐよ。もう図書館閉まる」

「わかってる」

 いつもの応酬なんてないまま、短く答える。急がなければいけないのは本当だからだ。手早く荷物をまとめて、そのまま校門の外までダッシュ。着いた時には、せっかく秘書の為に残ったというのに、制服越しに汗がにじんでいた。

 ぽつぽつと夕焼けの中を歩く。ああ、さすがに怒ってるのかな。でも私、ストーカーの被害者だし…あの言葉は嘘では、なかった。

 軽口を叩こうにも叩けないまま、無言で歩き続ける。薄っすら空に夜の色が差している。綺麗だ、なんて場面にも似合わず思ってしまう。このまま夜になって、明日前みたいに、せめて今までみたいな気楽な関係になっているといい。こっそりのぞく一番星に向かって溜息を吐く。なんて浅ましい願い。

 そしてそれは唐突だった。

「時間切れ、もう待てない」

「なに、」

「ねえ、答えて」

 いつぞやのように、でも冗談のかけらもにじませないで。

 見たこともないような真剣な顔で青木は立ち止まって。振り向いた。

「俺のこと、嫌いじゃないんでしょ。素直になってよ」

 まっすぐな眼差しは痛いぐらいに突き刺さる―――かっこいいな。

「嫌いじゃ、ないよ」

「じゃあ何?」

 なんだろう。冗談ばっかりの好きは聞き飽きた。それさえなければ私はこいつのことを、

「好きになってたと思うよ」

「…好きじゃないの?」

「たぶん、好き」

 でもあんたから聞き飽きたからなんかもうわかんなくって。

 そう笑って見せたら青木の顔が見えなくなった。息が苦しい。見えないけれど私は今抱きしめられているんだろう。

「俺は大好きだよ、ずっとこうしたかった」

「そんな風に言ってくれればよかったのに。そうすれば」

 そうすれば。

「私もきっと好きになる」

 囁くようなその言葉は突っかかるような嗚咽に溶けていく。なんだか急に青木のことがかわいく思えてぎゅうぎゅうに締められている腕を抜き出してそっとその背に回す。あったかい。むしろ暑い、暑苦しい。でも抱きしめられているのは嫌じゃない。

 なんだか胸の奥から笑えてくる。あーおかしい。

「青木、暑いよ」


 それは私たちの夏のはじまりのお話。


あんまり入れられなかったけれど、ストーカーは周囲から認められてる、合法範囲内です(笑)

凜華の予定把握とかもちろん友達が共謀して流してる。

青木の部活は体育会系、野球とか?

青木と凜華は無自覚の両片思いでした!

そこで青木が押せ押せ作戦を周りに勧められてのストーカー行為…本人は防犯と虫除けのつもりだったとか。


取りあえず両片思いが大好きでした、ありがとうございました。



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