シーム-04
6
《ゲーム》の舞台となる《迷宮》はいわゆる多層型のダンジョンで、B1F~B5Fまでを第一階層、 B6F~B10Fまでを第二階層……というように、5階刻みで階層が分かれている。(何層まで存在するのかは公式でも明らかにされていないが、ユーザーの間では第五階層、B24Fまでの存在が確認されているらしい)もちろんこの手のゲームのセオリー通り、階を下るごとにモンスターが強くなっていくわけだが、B5FからB6Fのように層が変わる場合はその彼我も顕著になるようだ。
僕らは今、シズの先導でその第三階層のB11Fを駆けている。潅木や湖沼といった緑や水が目立った第二階層に比べ、第三階層は岩場や砂地といったいわゆる《荒地》を主体に構成されているらしく、ダンジョンを照らす魔法光もどこか荒涼としていてそれらしい。僕らは本格的にこの層に足を踏み入れるのは初めてといってもいいのだが、シズはちょうどこのあたりが適正レベルなのだろう、走り慣れた道を進むように迷うことなく僕らを先導していく。
《オークの首切り場》と呼ばれるB11F北奥の一帯に、オークの集落があり、そこに仲間がひとり取り残されている──というのがシズが求める”助け”だった。シズはその仲間と二人でクランを組み、今はこの第三階層を中心に活動していたらしいのだが、その過程で受けたオーク関連のミッションが想像以上に難儀で(「オークの肉切り包丁を入手せよ」というミッションで、一定以上の確率でオークが落とすのだが、出ないときはとことん出ないアイテムらしい)、そうこうしている間にオークの集団に囲まれてシズは死亡、もうひとりの仲間はオークの群れの中で孤立してしまっているというのだ。なら最悪死に戻りをすればいいじゃないかといえば、そう簡単に出来ない事情がある。それが、LIFEというパラメータの存在だ。
このLIFEという数値は全プレイヤーキャラクターに等しく10ポイント与えられ、死ぬごとに1ポイントずつ減っていく。そして数値が0になると、そのキャラクターは花びらとなって散り、消滅する。LIFEに関しては今のところどんなアイテムでも回復することや最大値を増やすことが出来ず、0になったら文字通り、それで終わりだ。そして何よりもまして重要なことは──LIFEが0になりキャラクターが消滅した場合、そのユーザーは《ゲーム》にログインする権利をも、同時に失ってしまうということだ。
この一見シビアすぎるように思えるシステム──LIFEは、公式の発表によれば、β版独自の処置らしい。とかく《ゲーム》はクローズβがリリースされる前から異常といっていいくらい注目度が高く、事実500人枠のクローズドβには10万人を超える応募者が殺到した。いち兄の話によれば、その選に洩れた大多数の人間の不満はそれはそれは凄まじく、二次募集の要望が運営に殺到したのだという。(そう考えると、単純なコネで《ゲーム》を始めた僕としてはどうにも肩身の狭いものがある)テストサーバの限界上、500人という枠を超えられず、といって何も手段を講じなければ今後のセールスに関わると判断した運営が出した苦肉の策が、このLIFEというシステム──「クローズドβにおけるキャラクターは、LIFEが0になると消滅し、その消滅とともにログインの権利をも消失する。消失後の権利は抽選ののち、次の待機ユーザーへと移譲される」──なのだそうだ。
つまり、《僕ら》の命は10個しかない。
クローズドβのキャラはオープンβ、また本サービスに引継ぎは出来ないと公式に明言されているとはいえ、またPKやPVPによる死亡はLIFEポイントのマイナスに影響しないとはいえ、この《ゲーム》における《死》が、他のゲームにおけるそれほど楽観できるものでないことは、この一事だけでも明白だろう。
「クイは、もうLIFEがあまり残っていないんです。だから、出来るかぎり助けてあげたくて──」
クイ、というのが相棒の名前なのだろう、シズは走りながらそう言っていた。その気持ちは分かるような気がする。僕だって序盤のしくじりや、リザードマンやハーピーのおかげで LIFEはもう3ポイント失っているし、他のメンバーだって似たりよったりだ。オンラインだけでの付き合いとはいえ(ツユギは違うが)、これだけ息が合うようになってきた仲間がある日消えてなくなってしまうようなことがあるなんて、実際のところ考えたくもない。
「見えました、あの大きな岩場の向こうが、《オークの首切り場》です」
不意にシズが立ち止まって、僕らにそう声をかけた。もう小一時間ほどは走ったろうか、穴場めいた道だったのか、シズが先導してくれたこれまでの道はモンスターの影がほとんどといっていいほどなかったが、彼女の指さす赤黒い巨大な岩山の向こうは、その禍々しい色のせいか、さすがに不穏そうな空気が漂っているような印象を受ける。
目を凝らすと、岩肌をなぞるように細い道が頂上に向かって伸びている。その向こうにカルデラのように窪んだ一帯があり、そこにオークが集団で巣食っているというのがシズの話だった。
「オークか。データだけ見りゃ、一対一ならそれほど厄介な相手じゃなさそうだがね。ま、集落っていうくらいだ、よほどの数がいるんだろうが」
「20体以上は覚悟しておいた方がいいと思います。中には数レベル上のオークもいるみたいで──私も気がつかない内に倒されてました」
シズの返答に、ツユギが苦笑めいた表情で「マジかよ」と呟いた。さすがに尋常な数ではなさそうだ。ハーピーと違って《動かぬ大地》が有効な相手である以上、多少の救いはありそうだが──
「ま、なんにせよキツイ戦いになりそうだな。ノイズがいりゃもう少し前衛に厚みが出てよかったんだが」
「仕方ないよ。とにかくPOTを出し惜しみしない方向でいこう。こっちの回復と被るかもしれないけど、ヤバイと思ったら迷わず手持ちのPOTを使った方がいい」
僕の言葉に了解、とツユギは返し、カナリもこくりとうなずいた。そんな僕らに申し訳なさそうな視線を向け、シズが少し表情を暗くした。
「すみません、無理を言ってしまって」
「いいって。とにかく急ごう。今は少しだって時間が惜しいわけだし──」
尻尾までうなだれるシズにそう声をかけると、僕たちは頂上に続く道を登り始めた。シズもすぐに明るい表情を取り戻すと、軽々と僕を追い越して先導していく。
そんな彼女の後姿を見ながら、そんなにすまなそうな顔をしなくてもいいのに、と僕は思った。僕もツユギも、多分カナリも、そしてここにいないノイズだって、きっとこういうハプニングが楽しくて、《ゲーム》をやっているのに違いないのだ。
7
岩山の頂上は、たしかにゆるやかなすり鉢状の窪地になっていた。ゴツゴツとした岩が雑然と幾つか地面から突き出ているだけで、基本的に視界を遮るものは少ない。
「向こうです!」
そうシズが指さした先に、鷲鼻のように突き出たひときわ大きな岩があり、その根元から金色の光が洩れ出ていた。そして、その光を取り囲むように、ゆうに2 メートルはありそうな巨大なオークたちが群がっているのが見える。視界の中だけでも、17、8体といったところだろうか、オークたちはその光の中に侵入しようとして果たせず、豚に似た顔を醜悪に歪めている。
その光の中に、その少年はいた。ノイズのように機動性を重視しているのだろうか、軽鎧に身を固め、盾の類は持っていない代わりに、手甲で固めた両手の内、右手に水晶のようにきらめく片手剣を携えている。少年と形容したが、少女といっても差し支えなさそうな秀麗な顔立ちだ。光の加減でよく分からないが、短い銀髪に美少年めいたその容姿は、どことなく、《勇者》という形容を思わせる。ただ、今はその整った顔は疲労に歪み、彼は疲労しきったように肩ひざをついていた。光はそんな少年の左手から発している。この光はモンスター避けのアイテムだろうか? だがその光彩はもう明らかに弱々しく、今にもオークの集団の咆哮にかき消されそうに見える。
「クイ!!」
短く叫んで、シズは走りながら左手で緩やかに円を描くような仕草をし、口元で小さく何かを呟いた。瞬間、シズの全身が霞のように淡くゆらぎ、輪郭がおぼろげになる。味方単体の回避率を向上させる水属性の中位魔法、《眩ましの霧》だ。そのまま前傾姿勢を取り、両手を交差させながら腰元のベルトに手をやると、シズの両手に魔法のように小剣がひらめいた。そのまま一気に速度を上げ、彼女はオークの群れに正面から突っ込んでいく。シズの突進に気づいた何体かのオークが対象をシズに変え、彼女に群がろうと前進を始めた。光を囲んでいた他のオークも、新手の存在に気づいたのか、次々とこちらに向かってくる。
「おいおい、無茶しやがるなあ」
遅れて駆け出したツユギの呆れたような声をよそに、シズはまるで狩りに長けた若い豹のように、立ちはだかったオークの棍棒をかいくぐり、右手の小剣で浅黒い脇腹を斬り裂いた。続けざま、目にも止まらぬ速さで左手の小剣がうなり、鈍い悲鳴をあげたオークの首元と腹から、灰色の花が散った。
三体のオークに囲まれても、シズはまるでひるまない。背後に回った別のオークの一撃を素早し身のこなしで避けると、双剣が標的を変えてひらめいた。右、左、右、右、左。舞踏のように早く軽快なリズムで、シズを取り囲んだオークたちの体から次々と花びらが散っていく。
それにしても、なんという速さと手数だろう。パラメータの大部分をDEX(器用さ)とAGI(敏捷さ)に極振りしているのか、シズの一撃は鋭いがいかにも軽く、大きなダメージを与えきれていないように思えるが、圧倒的な手数の多さがそれを完全にカバーしている。さらに驚くべきは、あれだけの数のオークに囲まれて、決定的な一撃をまるでもらっていないことだ。《眩ましの霧》の効果もあるのだろうが、限界ギリギリまでの軽装をし、アイテム補正などで回避力の向上を突き詰めているのだろう。ある意味トリッキーなキャラ育成だと思うが、こういう育て方もあるのか。
「ツグミ」
杖を構え、魔法式を組みはじめたカナリの細い声が、僕の耳を打った。っと、感心している場合じゃない。僕も短剣を構えて土の魔法式を組み、詠唱を始めた。シズの後に続いたツユギも、僕ら後衛の壁になるような上手い位置でオークたちのターゲットを取り、槍を振るっている。
一瞬の判断のあと、僕はシズを対象に《湧き出る力》を発動させた。まず《動かぬ大地》でオークたちを足止めすることも考えたが、あれだけの手数を誇るシズの攻撃力を単純に向上させた方が、全体の殲滅効率の向上にもつながるだろう。
思惑通り、スピードはトップギアに入ったまま、シズの一撃一撃が明らかにオークの肉を深く斬り裂いていく。いつもと違う手ごたえに感じたのか、一瞬シズは目を丸くした。魔法の支援効果に気づいたのだろう、口元をほころばせると謝意をしめすように僕の方を振り返って片目を閉じた。
まさに縦横無尽、といったシズの動きにオークたちも翻弄されているのか、攻撃対象を見失ったオークの何体かが戸惑うような動きを見せ、逆に数が多いのがわざわいして、味方同士の行動を妨げ始めた。そうすると慣れたもので、ツユギは大きくバランスを崩した近くのオークの一体に渾身の力で槍を突き入れる。鈍い断末魔の叫びとともに、オークの喉元から間欠泉のように灰色の花弁が噴き出した。
「クイ、大丈夫ですか?」
オークたちが混乱する中、一足飛びに銀髪の少年のもとに駆け寄ると、シズが心配そうな表情でたずねた。
「シズ?」
銀髪の少年──クイは、そんなシズを見、そして僕らの方に怪訝そうな視線を向けながら、立ち上がった。さっきのタイミングでシズがPOTを使ったのか、その表情に数分前ほどの疲労の色はない。そして次の瞬間、少年の周囲を覆っていた強い金色の光が失われ、光の壁に行動を阻まれていた何体かのオークが少年に迫っていく。
「大丈夫、ツグミさんたちは味方です。私たちを助けてくれると──」
オークたちの何体かを、クイから引き離すように誘導しながら、シズが距離を取る。そんなシズに複雑そうな視線を向け、もう一度僕たちに鋭い表情を見せながら、
「……余計なことを!」
とクイは口惜しそうに叫んだ。そして、右手に持っていた片手剣を振り上げ、流麗な仕草でクイは魔法式を組み始める。次のせつな、剣を取り巻くように雷光がほとばしった。味方単体の武器に雷の追加効果を付与する風属性魔法、《属性剣・雷》だ。そのまま、クイは憤りをぶつけるように、近づいてきたオークの一体を雷光が走る片手剣で一閃する。
「──すごい」
僕は思わず感嘆の声をもらした。シズほどの速さはないが、クイも数体のオークを相手にしてまるで臆することがない。左手の手甲で棍棒の一撃を受け流し、その間隙に鋭い一撃を加えていくさまは、熟達した剣士のそれを思わせた。オークは土属性のモンスターだから、風属性のクイの属性剣はむしろ相性が悪いともいえるが、それでも追加ダメージは馬鹿にならないのだろう、袈裟懸けに斬られたオークが傷口を黒焦げにしながら、花びらを撒き散らし倒れ伏す。
なんにせよ、これで状況はずいぶん楽になった。クイが戦線に加わったことでオークたちの攻撃対象が3人にばらけたことが大きいし、ちょうどクイ、シズ、ツユギの3人がオークたちを三方から囲い込む形になって、その中央にオークたちが密集しはじめている。
カナリの《狂える炎》が発動したのは、まさにその瞬間だった。密集していたオークたちの中心で火球が炸裂したと思うと、赤黒い炎が瞬く間に拡散する。このレベル帯のモンスターにしては体力の高いオークのことだから、即座に全滅とまではいかないが、それでも巻き込んだ7、8体のオークの体力は大幅に削れたはずだ。
痛みに身をよじるオークたちを押しのけるようにして、無傷のオークたちが復讐の咆哮をあげて突進しようとする。途端、その動きが急速に鈍りはじめ、三体のオークがその動きを完全に止めた。次の魔法式を組み上げていた僕の《動かぬ大地》が発動したのだ。得たり、とばかりにツユギが距離を詰め、手負いのオークの一体を鋭い槍の一撃で刺し貫いた。
上手くいった。そう思った瞬間、僕は不思議な違和感にとらわれた。中央のオークたちの一体が、奇妙な動きをしているのだ。通常の個体とは違う、紫色の皮膚をしたそのオークは、まるで魔法式を組むように棍棒をゆらゆらと回している。まずい、あの動きは──
「オークメイジを!」
僕の警戒の声にすぐさま反応したのはシズだった。眼前のオークの鼻面に鋭い一撃を浴びせてのけぞらせると、ましらのように跳躍し、自分の腰ほどもある腕を振り上げて魔法式を完成させようとしていたオークメイジの近くまで一気に間合いを詰めた。そして間髪いれずに双剣で×の形を描くようにその肉体を斬り刻む。魔法の発動を中断されたオークは、苦悶の咆哮をあげて後退した。この状況で魔法を発動されたら事だったが、間に合ったか。それにしてもまるで曲芸のような動きだ。
「お見事」
そう呟いた僕の声が耳に届いたわけでもなかったろうが、続けて三度の連撃を叩き込んでオークメイジを完全に沈黙させると、シズは僕の方を振り返って陽気な仕草でピースサインをしてみせた。
ともあれ、どうやらこれで大勢は完全に決したようだ。カナリの《狂える炎》で深手を負ったオークたちはクイとシズが迅速に仕留め、《動かぬ大地》で行動を封じていたオークたちもツユギが掃討しつつある。カナリも今は一敵一殺に行動を切り替え、《炎の矢》で3人の手に余ったオークたちに確実にダメージを与えていく。見たところ、20体はいたオークたちの内、満足に行動できているオークはもはや3、4体といったところだろうか。こうなると、もう残敵掃討の段階といっていいだろう。そう思って僕が肩の力を抜こうとした瞬間──
「来るぞ!!」
クイの鋭い声が耳を打った。
と同時に、オークたちの屍骸が折り重なった中心に、巨大な黒点が出現する。モンスターが転移する前兆ともいうべきおなじみの現象だが、新手か、と思った僕は、その黒点のあまりの巨大さに目を見開いた。通常の3倍、いや、ゆうに5倍はあるだろうか。
「気をつけろ、《ネームド》だ!」
「《ネームド》──」
シズの声にも緊張の響きが混じる。とたん、黒点がさらに膨張したかと思うと、通常のオークをふたまわりも巨大化させたような、赤銅色の肌をした巨大なオークが眼前に出現した。左腕がなく、右腕が異常発達したように(なにしろ立った状態で地面まで届くのだ)肥大化したそのフォルムは、獣人というよりもはや悪魔めいた禍々しさを感じさせる。むき出しの乱杭歯に邪悪な笑みを浮かべたその頭上の空間に、《一本腕》という赤い文字が浮かびあがった。見るのは初めてだが、なるほど、だから《ネームド(名付けられた)モンスター》か。
《ネームドモンスター》、略称は、例えばオーク、という種族名だけでなく、この《一本腕》のように固有の個体名を持つ、いわゆるレアモンスターだ。ゾーンボス、エリアボスとも表現されるように、通常の同種族モンスターとは異なる外見、そして遥かに高いレベル、攻撃力、特殊能力を有する、いわゆる各階層におけるボス格のモンスターといえる。それだけに出現の条件も厳しく、レアアイテムを落とす確率も高い。
なるほど、合点がいった。いくら多勢に無勢だったとはいえ、十分に適正レベルと思われるオークにシズだちが不覚を取ったというのはどうも考えにくかったが(少なくとも逃げおおせることは出来たはずだ)、《ネームド》が相手であれば仕方がない。
《一本腕》は完全に転移を終えると、巨大な右腕で地面を叩き、エリア全体を震わせるような雄叫びをあげた。咆哮そのものに何らかの効果があるのか、全身に痺れが走り、わずかに体が重くなっていく。隣に視線をやると、カナリもわずかに表情をしかめて、自分を支えるように杖を地面に突き立てた。
「お前たちはもう少し距離を取れ! 《一本腕》の咆哮は範囲内にいるだけでAPを削られていくぞ!」
クイの叱責が飛ぶ。その鋭い声と、身も凍るような《一本腕》の咆哮に押しのけられるように、僕とカナリは後ずさりながら距離を取った。マニピュレータを見ると、たしかにAPがわずかだが削られている。さすがに《ネームド》ともなると、厄介なスキルを持っているようだ。
「お前たち、LVは? 少なくとも20はあるだろうな?」
片手剣を水平に構えながら訊くクイに、近場にいたツユギがうなずいた。実のところ僕とカナリはまだLV20に達してはいないのだが、まあ四捨五入すれば嘘ということはないだろう。
「ならこの頭数なら何とかなるか──。いいか、三方から攻める。シズ、君は中央であいつの注意を引き付けて。僕は右から。そっちの大きいのは左。後衛は臨機応変に援護を。いいか?」
続けざまにクイの指示が飛ぶ。大きいの呼ばわりされたツユギは苦笑しながら肩をすくめたが、べつだん異論はないらしい。元々これは彼らの戦いなのだし、バラバラに戦って各個撃破されるよりは、指揮系統は統一されていた方がいいに決まっている。
それにしても《ネームド》とは、と僕は内心でため息をついた。
ノイズには何て言い訳しよう。首尾よくいっても、敗走したとしても、きっと明日彼女には文句を言われ続けるに違いない。最悪LIFEを失うことになるだろうが、そうそう出会えるはずもない相手だ。《ネームド》とやりあったと聞けば、さぞ羨ましがることだろう。
黒い短剣を構えなおす。どうする? まずは《大地の守り》で守りを固めるか、あえて《湧き出る力》で速戦を狙うか──
高揚感とともに僕は思う。今夜は長い夜になりそうだ。




