第5話 秘密の共有(クールビューティー担当)
閉店したカフェふりーに、先程出会ってしまった月影彩芽を招き入れる。
彼女は今のところ黙ったまま、さっきまでぶひぶひと鳴いていた席に座っている。
あのー……無表情で俺の顔面に風穴でもあけるかのように見つめるのやめていただけませんかね。
「え、えっと……ど、どうぞー」
親父がサービスコーヒーを彼女へ差し出した。
さっき連れて来た時は、「あ、自由がこんな夜更けに女の子を連れて来てる。イケナイ子だ」とか調子の良いことを言っていたのに、彼女の異様な空気に当てられて気まずくなってコーヒーなんか差し出してやんの。
「ありがとうございます」
「い、いえいえー。ごゆるりとー」
あの爽やか系ゴリマッチョめ、そそくさと奥に引っ込みやがった。
「あ、あのさ、月影さんは……なにしてたんだ?」
ジーッと俺を一点集中で見つめてくるもんだから、間が持たずに俺から質問を投げる。
おかしいな、この子、キレのある言葉選びで間を取り持つモデレーター系美少女のはずなのに、なんで俺が間を持たしているんだよ。
「この店でロロック様のコスプレをして接客していたのは降井くんだと思い、閉店時を狙った」
なんともアサシンみたいなことを言ってきやがりますね、このクールビューティー様。
「なんであれが俺だってわかった?」
「同じ学校の制服」
彼女は自身の着ている制服を摘んで見せる。
「それと名前を名乗っていないのに私の名を呼んでいた」
それに、と更に加えてくる。
「コマチのコスプレをしていた人も同じ学校の制服だった。それらをふまえ、店の名前が『ふりー』だから降井くんだと思った」
くっ、色々とバレる要素が盛り沢山ってわけかい。
「名探偵だな」
「ふっ。これくらい当然」
名探偵という言葉に酔いしれているのか、ドヤ顔でコーヒーを飲んでいらっしゃる。
無表情で風穴を開けるような空気が少し和んだ。だから間を持たすためになんとなしに質問したんだ。
「月影さんはロロックが好きなの?」
これがいけなかった。
「ぶっひ!!」
彼女が口に含んでいたコーヒーがこちらにダイレクトアタックとなる。
「っほ!! ごほっ!! ごめっ!! なさっ!!」
壮大に咽せながら、俺に口の中のものを吹きかけたことを謝罪している。
「気にしなくて良いから、そっち優先しな」
多少着ていた制服が汚れてしまったが、そういうのは気にしないタイプだ。それよりも、そっちの咽せをなんとかして欲しい。
ごほ、ごほと数回咳き込んだ後に、「ううんっ!!」と喉を鳴らしてから、こちらを睨みつけてくる。
「えっと……」
なんだか蛇に睨まれたカエルみたく固まってしまう。ロロックが好きという質問がそんなにいけなかったのだろうか。自分の普通は相手の普通ではない。自分が怒らないことも相手に取っては地雷な可能性もある。ここは一度謝りを入れておくべきだろう。
「月影さん。ごめ──」
「お願いします!!」
学園の三大美女クールビューティ担当が思いっきり頭を下げた。
ガンッ!!
「いたっ!!」
勢い良過ぎておでこをテーブルにぶつけていた。
「お、おい。大丈夫か?」
「い、いや、ご褒美……」
「え?」
「な、なんでもない!!」
慌てて否定したあと、すぐにもう一度頭を下げた。
「お、お願いします……私がここでロロック様に雌豚発言したことを黙っていてください!!」
おいおい。自分で雌豚発言とか言っちゃってますよ。
つうか、なんだ。この子はそのことを黙って欲しかったから、わざわざ閉店後の店にやって来たのか。
「そりゃまぁ──」
「お願いします!! 学校でこんなことがバレたら私、友達になんて思われるか……」
「そうだよな。だからもちろん黙っ──」
「学園の三大美女が一人。クールビューティー担当の私が!! この私が!! ロロック様推しの雌豚だなんて、学校の人達に知れ渡ったら、私、生きていけない……」
自分で言っちゃってるよ、クールビューティー担当。
「もちろん秘密に──」
「私はロロック様を見たら雌豚になるの。普段はならない。本当に、本当なの」
「わかってる。だから──」
「お願いします!! どうか──」
「ええい!! こっちにセリフのターンをよこしやがれ!! この雌豚がっ!!」
「ぶひぃ♡」
ついついドS発言をしてしまうと、クールビューティー担当が豚みたいに鳴いちゃった。
「……もしかして、ロロック関係なく雌豚になっちゃう?」
「そ、そんなこと……ない……」
視線を逸らして否定するが、その顔がニヤけているのは止められないみたいだ。
「おい雌豚。秘密にして欲しかったら俺の話を聞け」
「はにゃぁ♡ そ、そんな強い言葉で……♡ もっと罵って……くだひゃい♡」
あ、この子本物だ。本物の雌豚だ。ロロック様関係ないじゃん。顔ふっにゃふにゃになってとろけそうになってんぞ。
「コホンッ」
手を頬に置いて、くねくねとしている彼女にわざとらしい咳払いをプレゼント。こちらの意図を察してくれたみたいで、すぐにいつものクールビューティーな表情に戻る。切り替え早いな。
「とにかくだ。月影さんがウチの店に来たことを誰かに言うつもりもないし、言う相手もいない。だから安心してくれ」
「……」
ジトーっと、今度は疑り深い目でこちらを見て来る。
「なんだよ」
「私、あなたのことをほとんど知らない。だから信用できない」
「そりゃ学校でも話したことないもんな。でも安心しろ。俺にあんたの秘密を喋る相手なんていない」
「……そういえば降井くんはいつも一人。修行?」
「友達がいねーんだよ!! 言わせんな、死にたくなるだろうがっ!!」
「かわいそう」
「追い討ちをかけてくんなっ!!」
ドMの天然ドS発言とか致死してまうわ。
はぁ、とわざとらしく深いため息を吐いてこの話し合いにピリオドを打つことにする。
「そういうことだから。安心してこれからも友達に雌豚を秘密にしたまま最高の高校生活を送ってくれたまえ」
そう言って席を立ち、彼女に言ってやる。
「家はここら辺? 電車か? 送るぞ」
「もしかして、まだなぶり足りないからって帰り道も罵ってくれるの? よろしくお願いします」
「罵らねーよ!! つうかよろしくなら普通に言えよっ!!」
学園の三大美女が一人、クールビューティー担当が全然クールビューティーじゃない件。
よりにもよってビッグネームの秘密を握る羽目になっちまったなぁ。




