第4話 たかだか数十歩で世界は変わる
長い髪をポニーテールにして眼鏡を外した色葉は、超絶美少女のコマチに扮してノリノリでロロックに絡んで来る。
「団長。こんな泥棒ネコじゃあなたを満足させられないわ。私とイチャイチャしましょう」
コマチはロロックの命を奪うためにロロック盗賊団に入った。それをロロックも容認し、彼女の実力を勝って副団長として置いている。少しヤンデレ気質なため、殺し合いをイチャイチャだとか、死ぬことを愛だとか、結構頭がぶっとんでいるキャラだ。
「きゃああ♡ 団長と副団長よぉ♡」
「団長と副団長の絡みキタコレ♡」
「コマチ様、かわいいー♡」
お客さんはコマチの登場に歓喜しているご様子だ。
「コマチ。今、俺を殺すよりも先にやることがあるのではないか?」
「そうね。メインデッシュは楽しみに置いておき、他の前菜から頂こうかしら」
俺と色葉はノリッノリで作中でロロックとコマチが言いそうな掛け合いをやり、分かれてお客さんのところに注文へ伺う。
「この泥棒ネコはどんな愛が必要なのかしら」
おいおい。お前は本当に色葉なのか。すげー変わりようだな。
色葉の奴は独特な注文の取り方をしてやがるが、それに対してお客さんも大喜びで注文をしている。
「待たせたなあやめ。さぁ注文を聞こうか」
月影彩芽はコマチのコスプレをしていた色葉の方をジッと見つめていた。
「ふっ。俺をシカトとは良い度胸だ、あやめ」
くいっと彼女の顎を持ってこちらに強制的に向けてやる。
「その口へ罰を授けてやっても良いんだぞ」
「……ぶ、ひぃ♡ しゅ、しゅみません……で、でも、ロロック様の罰ならご褒美です♡」
学園の三大美女が一人。クールビューティー担当のドM雌豚発言なんて聞きたくなかったぞ、おい。
「ふんっ。お前のような奴に罰なんて与える方が褒美になってしまいそうだ」
「そ、そんにゃぁ……」
「さっさと注文を言え。この雌豚がっ」
段々とロロックのキャラがわからなくなってきて、ドSキャラになってしまっている。しかし、そんなことなど月影彩芽は気にしていないのか、どんどん目がハートマークになっていっている。
「ロロック様ぁ♡ もっと、もっと、ワタシをいじめてくだしゃい……♡」
クールビューティー月影彩芽の雌豚発言は続くよどこまでも──。
♢
本日もカフェふりーは大繁盛で一日を締めた。
クローズ作業が終わり、「ふぅ」と一息吐く色葉に声をかけてやる。
「おつかれさん。後はやっておくから先に上がっていいぞ」
「え、あ、や、で、でも……」
さっきのノリノリの彼女はどこへやら。コマチの変身を解くと、相変わらずのおどおど幼馴染に戻ってしまう。
コマチの時はコマチらしい発言や雰囲気を醸し出しているってのに、ドレス効果ってやつだろうか。
ま、それを言うなら俺もロロックに変身したらドSキャラになっちまってるから、人のことを言えた義理でもなし。
「いくら家が隣って言えど、もう遅い時間だし送るわ」
「そ、それは……それに、まだ作業残ってて、悪いし……」
気を使ってまだ残ろうとしている色葉に対し、「色葉ちゃん」と親父が諭すように声をかけてあげていた。
「自由は店が家だから良いけど、色葉ちゃんは高校生の従業員だからもう帰らないといけないんだよ。それを守らずに働かせたらこの店がなくなっちゃうよ。だからこれは店長命令です。自由に家まで送ってもらいなさい」
「は、はい」
流石は店を持っている大人だ。そう言われたら色葉も帰らないといけないと思い、素直に立ち上がった。
「帰るぞー」
そう言ってやると色葉はコクリと頷いて俺の後ろを付いて来る形で店を後にした。
カフェふりーは住宅街にある町のカフェって感じだ。そこから、数十歩進んだ先にある普通の一軒家。
「ほい、ご到着ー」
あっという間に色葉の家に到着する。
送る意味はあまりないのかもしれないが、なにが起こるかわからない世の中だ。隣だからこそ送ってあげても店に支障は出ないから良いのかもしれない。
色葉が、「じゃ、じゃぁ……またね」と一言呟いてから家に入ろうとしたので、つい、「色葉」と呼び止めてしまう。
彼女は素直に振り向いてこちらを見てくる。
「い、いや、最近、テンション高めだから、さ。店が楽しいのかと思って」
この前までの色葉なら、送り届けても無言で手を振るだけだった。しかし最近は一言、二言さよならの挨拶をしてくれるようになり、テンションでも高いのかと思って彼女へ問う。
「ば、バイトでも、コスプレできて、本当に最近、楽しいよ。晴天さんのおかげ」
「そっか。趣味のコスプレがお金に繋がるってのは嬉しいことだよな」
「あ、あと……その……自由くんのおかげで、楽しい、よ」
「俺?」
尋ねるとコクリと頷いてから胸の内を曝け出してくれる。
「自由くんが色葉の趣味を否定せずに肯定してくれるから。一緒になってコスプレしてくれるから。だから、本当に最近、楽しい」
そういうと、「いや……」と手をぶんぶんと振ってくる。
「今までも楽しかったんだよ。自由くんといるのは楽しいけど、最近はもっと楽しいというか……」
その言葉を発し、自分が何を言っているのか理解をしたみたいで、顔を瞬間的に赤く沸騰させた。
「ち、ちがっ……今のは、なんだか……」
「感謝してるのはこっちの方だぞ、色葉」
相手が、あわあわしているところに自分の本音を突き出した。
「色葉がいてくれたからウチの店は経営できているんだ。色葉のコスプレ趣味のおかげで俺と親父は生きていけていると言っても過言じゃない。だからさ、その、ありがとな」
途中で恥ずかしくなり、ぽりぽりと頬をかきながらの礼を言うと、色葉もあわあわするのをやめてニコッと微笑んでくれる。
「また明日ね。自由くん」
「あ、ああ」
お互いに手を振り合うと、色葉は家の中に入って行った。
「また明日ね、か。引っ込み思案の色葉とは思えないセリフだ」
好きなことを堂々とできる毎日というのは人生を充実させるものなのだろう。俺もコスプレをして少しその気持ちに触れられた気がする。
幼馴染が少しずつ明るくなっていくのとは反対に、すっかりと暗い夜道を歩いて行く。
たかだか数十歩。それだけの距離。
「やっぱり降井くんだったのね」
「え……?」
店の玄関に手をやると、聞こえてきた声に振り返ってみせる。
「月影彩芽……」
ほんの数十歩しか外に出ていないってのに世の中本当に予測ができないな。




