第3話 放課後のコスプレカフェはアリーナ状態
「自由くん。い、いくよ……」
「あ、ああ……優しく、頼む……」
「きょ、今日は、激しく、しちゃおっかな……」
「激しくって……?」
「えい、えい……!!」
「や、激しい……!!」
カフェふりーのバックヤードには色葉の激しい声が響き渡る。俺は彼女にされるがまま。色葉のリビドーを受け止めるだけの道具に過ぎない。
「はぁ……♡ はぁ……♡」
「お、おい、色葉……?」
「はぁ……♡ はぁ……♡ やばいです……好きです……♡」
色葉が息を荒くして興奮気味に言ってのけるので、バックヤードにある姿鏡で自分の全身を見てみる。
「いや、いつもの『ロロック団長』じゃない?」
「ち、違います!!」
「あ、そっか。学校の制服を着てるからいつもとはちょっと違うか」
「そこじゃないです!! 今日は額の紋章を赤くして激しさを増したのです!!」
言われて額の方に注目する。
「あ、確かに……いつもは黒色だけど、赤色だな……」
なんとなしに自分の額に描かれた紋章に手を持っていく。
「えへへ……ロロック様が目の前にいる……じゅる……あ、やべっ、よだれが……」
「腐女子歓喜のロロックに変身してなんとも複雑な思いだわ」
カフェふりーはコスプレ喫茶として変貌を遂げ、売上はうなぎ登りに上がって行った。それというのもコスプレが大好きな色葉のおかげである。
彼女のメイク技術はかなりのもので、俺みたいな男でも簡単に漫画の登場キャラに仕立ててくれた。
カフェふりーで特に人気を博したのは、少年漫画の『かりゅーど』に出て来るロロック盗賊団団長のロロックというキャラだ。冷徹無慈悲だが、高いリーダーシップとカリスマ性から、作中の盗賊団の仲間はもちろん、読者の心をも盗んだイケメン盗賊様だ。特に女性人気が高いキャラで信者も多い。
そんなキャラに変身して、最初は信者達にボロカスに言われると思ったんだが、これが大ウケ。今では看板ウェイターとして店を支える大黒柱になっている。
「自由ー。ごめーん」
親父がバックヤードに申し訳なさそうな顔をして覗いてくる。
「お客さんが一気に増えたから出てくれる?」
「ちょっと待て。まだ制服だから着替える」
「ごめん。時間ないから制服のままでお願い!!」
おいおい。ロロックが高校生の制服の恰好とか大丈夫なのかよ。今度こそ信者達から反感を買うぞ。
「ロロック様の制服姿……でゅふ……♡ さいこーかよぉ♡」
あ、大丈夫そうだ、これ。色葉の気持ち悪い反応で信者達も納得してくれると自信がついて、俺はそのままホールに出た。
きゃああああああ──♡♡♡
店のホールに出た瞬間、黄色い声が鳴り響く。まるでコンサートでお待ちかねのアイドルが登場したかのような歓声。これが降井自由に向けられたものではなく、ロロックに向けられたものだとしても、承認欲求の満たしが俺の脳内を駆け巡ってしまう。
「ロロック様ー♡ 注文聞いてくださーい♡」
「こっちー♡ こっち来てくださいー♡ ロロック様ぁ♡」
「ああーん♡ ロロック様ー♡」
お客さん達がロロックを求めて甘い声を出し続ける。それに応えるのが俺の仕事でもある。
「騒ぐな。注文なら一人ずつ聞いてやる。だから安心しろ」
きゃああああああんんんんんんんんんんんんん♡♡♡
これはロロックの名言だ。ピンチの時に慌てふためく盗賊団の仲間達に放った、『騒ぐな。お前達なら一人ずつ救ってやる。だから安心しろ』をパクったセリフ。盗賊団から盗んだセリフを放つだなんて皮肉が効いてるが、これによってカフェのボルテージが上がる。ここが本当にカフェなのかどうか忘れそうになるな。
いや、まぁ俺もノリノリなんですよ、はい。だって仕方なくない? こんなに注目されることなんて今までなかったもん。脳汁ぶっしゃー出ちゃってますから。
盛り上がる店内で、承認欲求を満たした脳汁垂れ流し状態で一人ずつ注文を聞いて回る。
「なにが望みだ?」
「名前、名前呼んでください♡」
「名は?」
「かおるですー♡」
「かおる。お前はなにが望みで俺になにをしてくれる?」
「ぶっ♡ やばっ♡」
かおるさん(おそらく主婦)がその場で昇天した。少し刺激が強かったのだろう。
「ロロック様ぁ♡」
「こっちもぉ♡」
「少し待て」
「あぁぁん♡」
その後も、まり(おそらく大学生)、みゆ(おそらく専門学生)、はな(おそらく平日休みの社会人)、あんな(おそらく漫画家)達に注文を取っていく。
「次はお前だな。案ずるな。お前も俺と同等の存在だ。遠慮はいらんぞ」
「は、はい♡」
「……ぶっ!!」
次のお客さんにも同じように接客をしようとした際、吹き出してしまった。
「ロロック様?」
あやめ(おそらく同じ高校で学園の三大美女と謳われる一人。クールビューティー担当)が心配そうにこちらを見つめてくる。
なんでこんなところにいるんだよ、学園の三大美女が一人、月影彩芽。
「い、いや、なんでもない」
仕切り直すようにあやめ(おそらく同じ高校で学園の三大美女と謳われる一人クールビューティ担当)の頬に手を置いてやる。案ずるな。こちとら脳汁垂れ流しの無敵の人状態じゃい。
「そう心配そうな顔をするな、あやめ。お前は黙って俺に守られていろ。それだけで心配は安堵に変わるんだ」
同級生特別サービスとして、更に名言を送ってやると、「は、はい♡」と目をハートマークにして俺を見つめてくる。
いや、俺もロロックとして学園の三大美女の一人を見つめているんだけどさ、やっぱヴィジュ最強だわ、この子。見ているだけでこちらが照れそうになるくらいの見た目だ。美少女って言葉がぴったりだな、おい。
「そこまでよ」
彼女と見つめ合っていると俺の手を振りほどいた女性の声が聞こえてくる。
「この泥棒ネコ。団長とイチャイチャして良いのは私だけなんだから」
俺と月影彩芽の間に割って入ったのは、ロロック盗賊団の副団長コマチのコスプレをした色葉であった。ただし彼女もまた制服姿でのご登場である。




