第25話 しあわせなぶらっくあうと
体育祭が行われる時期は大体秋のイメージなんだけど、案外、梅雨の時期にやる学校もあるみたい。この学校では今の梅雨の時期くらいに行われるもんだから、今まで秋にそういう行事をやっていた身としては少々の違和感がある。
梅雨の時期にやるもんだから天候には恵まれず、生憎の空模様。どんよりとした灰色の雲が天空を埋め尽くしている。
それだってのに──。
『紅組勝つぞー!!』
うおおおおおお──っっ!!
まぶしっ!! 曇ってんのに青春の光を放つ陽キャグループが眩し過ぎる!! 俺みたいなぼっちは浄化しちまう眩しさだっ。
曇ってんのにサングラス必須の青春エネルギーの原因は紅組テント前。全学年の偶数クラスの陽キャ共が、円陣を組んでエンジン全開で青春の雄叫びをあげているからだ。
「なに熱くなってんだよ」
「体育祭とかただだるいだけじゃん」
「だよな」
同じテントの偶数クラスの陰キャ達は陽キャの雄叫びを浴び、ひがみを放っていた。
いや、お前らさ、そうやって誰かと一緒に暗く愚痴を言えるのも恵まれてんのよ。わかってる? こちとらぼっちだからね。ひとり三角座りだからね。三角座りってなに? 体育座りだろうがって? ええい!! 三角座りは三角座りだいっ!! とか、もはや妄想で会話するしかないから。
いや、ぼっちの俺にも救いはある。
幼馴染の存在だ。
「色葉──」
同じ属性の色葉と絡むことにより、この暗黒の三角座りから脱却できる。そう思っていた時期が俺にもありました。
「七式さん。がんばろうね」
「は、はい」
あんの闇堕ちメシアめっ。白昼堂々と学園の三大美女である雪村さんと絡みやがって……。くそっ、色葉にも絡む相手がいるのに、このままじゃ俺は真性ぼっちになっちまう。こうなったらいつも色葉が俺に向ける呪術師みたいな目を今日は俺がしてやる。
「(ぶつぶつぶつぶつ)」
あ、ね、全然効果なさそう。つうかそもそも色葉のやつ、こっちに気が付いてないわ。
「……?」
色葉にはまったく効かない俺の呪術は、隣にいる雪村さんに飛んでいったみたい。こちらの視線に気が付いた雪村さんは、一旦、視線を逸らしたが、すぐにニコッと微笑み、誰にも見られないようにこっそりと手を振ってくれる。
ナニソレカワイインデスケドモ。
や、今までただのド変態としか思ってなかったけど、冷静に考えたらとんでもない美少女だもんね、きみ。普段ド変態発動させてる美少女が弱味を見したり、さっきみたく恥じらったり、かと思ったらこっそり手を振ったり──あんた普通にかわいいな、おい。
「なぁ降井」
学校ではあまり呼ばれることのない俺の名字が聞こえてくる。
嫌な予感がして振り返ると、そこにはクラスの陽キャ男子達が目の前にいた。
「話あんだけど、ちょっとツラ貸してくれや」
学園の三大美女からのこっそりお手手ふりふりの代償は、陽キャ達による呼び出しでした。
♢
学園の三大美女と絡んだ代償というのはいつか来るとは思っていた。ここ最近、ぼっちの俺如きが学園の三大美女と絡んでいたらそりゃ目立つわけで、イケメン陽キャ集団が黙っちゃいないよなとも思っていた。
人気のない校舎裏。集団による呼び出し。あははー、俺、これ、死んだわー。
「なぁ降井」
俺を呼び出した陽キャイケメンが俺の名前を呼んで来る。果たしてこの後にどんな処刑が待っているのか……。
「雪村との二人三脚代わってくれよ」
「……え?」
予想外な処刑内容に間抜けな声が漏れてしまう。お前最近調子乗ってんな、しばき回してやる!! なんてのを想像していた。
「つうか、代わるべきだろ。つり合ってねぇもん」
「そうだ、そうだ。なんで降井みたいなやつと雪村が組んでんだよ。おかしいだろ」
いや、これはこれである意味処刑だな。イケメン陽キャ集団による俺への罵倒。
月影さーん!! 代わってー!! 今ならもれなくイケメン陽キャ集団から罵倒されるチャンスだよー!!
「なぁ? 聞いてんのか?」
月影さんなら喜んで代わってくれただろう事案だが、現実問題、ここに月影さんはいない。いつもみたいに気配を消して現れてくれないかと内心願うが、それは叶わないみたいだ。
「や、すぅ、それ、わぁ……」
ここで彼に代わればこの状況から抜け出せるだろう。しかし、彼は一度雪村さんに断れているイケメン様だ。ここで俺が首を縦に振っても雪村さんが納得しないと思うんだが。
「そんな反応いらねぇから、さっさと頷けよ」
「めんどうだな。代われったら、代われ」
ひぃぃ。こぇぇ。
陽キャ達が力付くで来ようとしている。暴力反対っ。
「ちょっとあんたら!! なにしてんの!?」
聞き覚えのあるギャルな声が聞こえてきて、俺達男子は敵味方関係なくその声の方を見た。
そこには学園の三大美女、ギャル担当の水瀬有紗が、体育祭用の盛り盛り巻き巻きイケイケな髪型でご登場なされた。
「複数で一人を脅すとかだっせーことすんなよ」
言いながら俺の前に立つ水瀬有紗。なにこの子、めちゃくちゃかっこいいんですけど。
「いや、俺等は体育祭で勝つための効率を上げるためにだな……」
「そ、そうだよ。紅組のためを思ってな」
「うんうん」
「は? なにそれ」
男子達の言い訳を前に、ギッと彼等を睨みつけた水瀬さん。
「話聞こえたけどさ、佳純と二人三脚したいなら本人に言えよ。数の暴力で降井くんのこと責めるとかカッコ悪すぎ。そんできもい言い訳並べて情けないとか思わないのかよ。つうか、そんなだっせー男と佳純は組みたくないって言うけどな」
はっきりとドキつい正論を叩きつけると、流石に学園の三大美女様には逆らえないみたいで、「行こうぜ」と陽キャイケメン達は去って行った。
「ふぅ……」
水瀬さんは一息吐くと、さっきの睨みが嘘みたいな笑顔を向けてくれる。
「大丈夫? 降井くん」
「あ、うん」
「あいつら根暗過ぎだよね。好きな子と二人三脚出れなかったからって、降井くんに八つ当たりして、数で責めるとかあり得ないんですけど」
イケメン陽キャグループを根暗呼ばわり。流石は学園の三大美女様は一味も二味も違う。
「水瀬さん。ありがとう。助かったよ」
「いやいや、あんなん目撃したら助けるのが普通っしょ」
そう言ってくれる人間は多いかもしれないが、それを実行できる人間は少ない。だから水瀬さんには感謝の言葉しか見つからない。
「正直、ビビってて、俺、なにも言えなくて……だめだな、俺。水瀬さんみたく、ガツンと言い返せないと……」
なんか自分で言っていて情けなくなるな。
「……」
でも、それでも感謝の言葉は伝えないと。
「俺も、水瀬さんみたく強く、なりたいな」
「……♡」
「次、こんなことがあっても俺はさっきの水瀬さんみたく──」
「ああん♡ もう我慢できない♡」
パフっと布腰に柔らかい感触があった。
体操服に染みついた少しの汗の匂いと、それを上回る女の子の濃い匂い。それらが合わさった極上の香りはまさに至高。って、なんで俺は雪村さんみたいな感想を言っているんだ。
「いいんでちゅよ♡ 降井くんは今のままで十分♡♡ ママがいつでも守ってあげまちゅからね♡♡♡」
水瀬さんが急にばぶみを感じている。なぜだ? 今の会話で? 俺、感謝を伝えただけだよね?
「ちょ、まっ」
水瀬さんの谷間で溺れていた俺はなんとか顔を上げて呼吸する。
「なんで、ばぶみを発言させてんだよ!!」
「だってぇ♡ ママに守られる、よわよわ男児がママに強くなるとか宣言すんのたまんないんだもん♡♡」
「誰がママだ!!」
「あ、お姉ちゃんが良かった? じゃあわたしのことはありさお姉ちゃんでいいよ♡♡ ぎゅ♡♡」
「ぶふっ」
このギャル、巨乳過ぎて谷間で溺れてまう。このままだと幸せな死が待っているが、まだ死にたくない。
「ふふ、お姉ちゃんのおっぱい気に入ったでちゅか♡♡♡ もっと堪能していいよ♡♡♡♡」
テンション爆上げ中の彼女は、俺の反応のどこが気に入ったか知らんが、ギュッと止めの如く、強めに抱きしめてくる。
俺はより深くギャルの谷間に沈み、そのまま幸せなブラックアウトを果たした──。




