第24話 ラスボス変態様はデレ方もラスボス級
クローズ作業を終え、雪村さんを家まで送るのも慣れた頃だってのに。
「なぁ、まじですんの?」
「まじでするよ。私と二人三脚のペアになったでしょ」
「そりゃ、そうだが……」
雪村さんに誘われて体育祭の男女混合二人三脚のペアには確かになった。
俺みたいなぼっちが雪村さんと組むと何を言われるかわかったもんじゃない。特に、雪村さんを誘った男子から睨まれるかも。だけど、断ったら断ったでこの変態はなにをやり出すかわかったもんじゃない。騒ぎ立てて、公共の場で俺の匂いを嗅いでくるやもしれん。そっちの方が周りからやっかみを受けるかもしれない。どちらにせよ、目立つ行動を取るならば、一緒に出た方が良いかなと思ったまでだ。
……ま、まぁ、俺もこんな美少女と二人三脚できれば、嬉しいというか、なんというか。中身変態だけど。
そ、それに!! 体育祭は必ず一個以上競技に出なければならない。二人三脚に出ることでノルマ達成となるんだ。
そんなわけで、雪村さんと二人三脚のペアになったのはまぁ良いとして。
「こんな夜中に住宅街で二人三脚の練習とか不審者過ぎるだろ」
この子ったら、「一緒に帰るついでに二人三脚の練習して帰ろう」なんてぬかしやがった。親父に縛るもんよこせって言ったのはこのためらしい。
「あははー。こんな可憐な不審者なんていないよー」
「自分で言うなっての」
こちらのツッコミを笑ってスルーしやがると、そのまま肩を組んで来やがる。
「ぐっほ♡ しごおわ男子の濃厚フレーバー♡♡ 沼り確定♡♡♡」
「やっぱそれが目的か、この変態クソ野郎」
「ちっちっちっ。私は女の子なので野郎ではありません。変態クソアマと言うべきだよ☆」
「じゃかましいっ!! さっさと離れんかいっ!!」
「残念。私達の絆は固く縛られています」
「くっそ!! こんなもん──だああ!! 団子結びで固く結びやがって!!」
「さっ。練習、練習」
まんまとラスボス級の変態の罠にかかってしまった俺は、抵抗できないまま、彼女と夜中の二人三脚をするしかないみたいだ。
「いくよー。せーの」
いっち、にっ、いっち、にっ。
二人三脚なんてほとんどやったことないってのに、案外できるもんなんだな。
いっち、にっ、いっち、にっ。
「──っと、ここらで一旦、ストーップ」
彼女が制止を促すので、呼吸を合わせてその場で立ち止まる。
「案外良い感じだな」
「そうだね。練習いらないくらいかも。自由くんの汗のスメルも良い感じだし」
「や、やめろやっ。それはつまり臭いってこったろうがっ」
「ナイスメル♡♡」
親指ぐっ、じゃねーんだよ、ちくしょう。そりゃ汗くらいかくだろうが。くそー、スキンケアめっちゃしないといけないな。
「ふぃ、それにしても二人三脚ってゆっくり走ってるけど疲れるねー」
彼女も汗をかいてしまったのか、パタパタと手で顔をあおいでいる。
「雪村さんも汗かいてんのか?」
「そりゃ、さっきまで働いてた分も合わせてめっちゃかいてるよー」
「その割にめっちゃ良い匂いしてるけどな」
そもそもこの子ったら、なんていうか、美少女特有の匂い? 女性フェロモンっていうの? 男にとって魅力的な匂いをぷんぷん撒き散らしてんだよな。あんまり女性に匂いのこととか言わない方が良いと思ってたから言わなかったけど、俺はこんだけ言われてんだから多少の返しは許されるだろう。
「っ!?」
俺の本心の言葉に雪村さんは瞬間沸騰したみたいに顔を真っ赤に染め上げた。
「や、やや、べ、別に、私は、そんな……良い匂いとか、では……」
な、なんだぁ? 急にわたわたとしているぞ。
えっと、もしかして、この反応……。
「雪村さんっていつも良い匂いだよな。仕事終わりの汗だくでも良い匂いだし」
「そ、そんなこと、ない。そんなこと、ないよー……」
急激にしおらしくなっておられる。
この子ったら、人の匂いを嗅ぐ性癖があるくせに、自分が言われるのは照れるタイプの変態だ。
「ナイスメル☆」
いつものお返しだっと言わんばかりに親指でぐっとしてやる。
「ぅぅ……自由くんのばかぁ」
唸り声を出しながら、ポカポカと殴ってくる。
「おーおー、殴る度に雪村さんの濃くてフレーバーなフレグランスが俺の鼻にダイレクトにくるぞー☆」
「も、もうっ!! 私の匂いの感想言うの禁止っ!! こ、これ以上やると、学校でいきなり抱きついて匂いフェチ全開にするよ!?」
なんとも独特な脅しに対し、それは俺の学園生活が敵だらけになる予感がしたので、コクコクと頷いた。
「わ、わかればよろしい」
「で、できるだけ雪村さんの匂いは嗅がないようにするさ……」
ぼっちがリア充共にしめられる未来は避けたいからな。
「あ、や、えっと……」
雪村さんは髪の毛を耳にかけながら、顔を赤くしたまま言ってくる。
「べ、別に、匂いを嗅ぐのは、良いんだよ? じ、自由くんに、なら、嗅がれても、その、嫌とかじゃ、ないし……」
「へ?」
「ほ、ほら!! 練習の続き、するよ」
雪村さんは相当焦っているのか、息を合わせずに先に行こうとするもんだから、転けそうになる。
「きゃ!!」
「危ない」
俺は動いていなかったため、咄嗟に彼女を抱きしめて転けずに済んだ。
「大丈夫か?」
いつもなら、「この匂い、たまらん♡」とかぬかす彼女の様子がおかしい。
「あ、ありがとう、ごさいます……」
もう恥ずかしさでどうにかなってしまいそうな彼女の顔は、赤というより紅蓮に染まっていた。
助けるために抱きしめた彼女の体は熱を帯び、汗だくなのが制服越しにわかる。
こりゃ、本気で照れてんな。
今宵は雪村さんの弱点と、デレたみたいな破壊力が半端ないことを知れた夜となった。
こんなギャップ卑怯だぞ、おい。




