第18話 どうも、翼の生えたエンジェルです☆
「おかえりなさいませー。ご主人様☆」
学園の三大美女、変態担当の雪村佳純がメイド服で出迎えてくれた。ちなみにだが、清楚系の見た目とメイド服の相性は効果抜群らしく、どちゃくそ似合っており、ヴィジュアル最強と言っても過言ではなかった。
「な、なんで、ここに雪村さんが……」
しかし、見た目に騙されるなよ、俺。こんなに天使みたいな姿をしていても、中身は悪魔。それもラスボス級なんだ。注意しろ。警戒しろ。用心しろ。なにをしてくるかわからないんだ。相手を信じるな。
「今日から入ることになった新人の雪村佳純さんだよ」
玄関であんぐりしている俺に対し、親父が彼女の隣に並んで状況を説明してくれる。
「雪村佳純です。どうぞ、よろしくお願いします」
さっき、水瀬さんに用があるって言ってたのはウチの店の面接だったのか。
くっそ、このメイド、さっきから鼻をひくひくさせてやがる。
「さっき面接をして、条件とピッタリだったんだ。それに即入れるってことで、今日からお願いしたんだよ」
えっへんと手を腰に当てて、偉いでしょなんて鼻息を鳴らす親父。
「こんのダメおやじっ!!」
「ええええええぇぇぇぇぇぇええええええ!?」
俺の反応が予想と違ったのか、リアクションが大きい割に、その内容はかなり薄いものとなってしまっていた。
「ばかっ!! 注意しろ。警戒しろ。用心しろっていつも言ってるだろうがっ!! この子は一万円を俺に握らせてレジ締めを混乱に陥れた張本人だぞ」
「な、なんだってええええええ!?」
わざとらしいリアクションをもらった後に親父はキョトンとした顔になる。
「まぁ、別にレジ締めにそこまで命かけてないから、別に気にしてないけど」
「それは、確かに……」
「それに、雪村さんはシフトに結構入ってくれるみたいだから大助かりだよ」
「ばかっ。面接に来る奴なんて基本はそう言って後から、『やっぱ土日はかったるいんで無理っすーさーせん』ってパターンしかないんだよ!! 飛ぶことを前提に考えて面接に挑んでんだよ。面接に来る奴は基本、翼の生えたエンジェルなんだよ!!」
「確かに、見た目はエンジェルだもんね」
「どうも、エンジェル雪村です☆」
「だああああ!! 褒めちゃったじゃねーかっ!! ばかっ!!」
「今のところ、ばかは自由だよ……」
呆れた様子の親父の後ろから、こちらにトコトコとやって来る人影が見えた。前髪で素顔が見えない幼馴染の色葉だ。彼女はそのまま二人の間を通り抜け、俺のところにやって来る。
メシアだよ、メシア。今、俺には色葉が救世主にしか見えない。
「お、おい、色葉。お前、俺を救ってくれるんだろ? 頼む、学園の三大美女の中でも一番やべぇ奴がバイトとして潜り込んで来やがったんだ。助けてくれ」
自分でも大袈裟に言った自覚があるが、こちとら死活問題だ。さぁここで俺に救いを手を差し伸ばしてくれ、メシア!!
「さいこー、です……っ!!」
「……あん?」
「自由くんっ……さいこーなんです♡♡」
あ、だめっぽい。俺に救いの手なんて来なさそう。
色葉は荒い鼻息で前髪を靡かせながら彼女は興奮した様子で語り出した。
「雪村さんのコスプレは、『きのう雇用したメイドがやばい』というアニメのコスプレなのですが──」
「きのう雇用したメイドがやばいんじゃなくて、今日雇用した変態がやばいの間違いだろ」
「雪村さんがメイドの恰好をすると、『あなたは冥土様ですね』のコスプレにも見えるんです」
興奮状態の色葉は、ラスボスに絆されて闇堕ちしたメシアになっちまってる。俺を救う言葉が出てくる気配が微塵も感じられない。
「つまりですね、雪村さんは一つのコスプレで二つのコスプレを果たしていることになるんです。一度で二度おいしい。一石二鳥。もう、うはうはさいこー。怪しい本の終わりに、このブレスレットを買ったおかげで金持ちになって彼女が二人もできました状態です」
闇堕ちメシアは闇が深そうな例えを闇が深そうな笑顔で語ってらっしゃる。
「こんなに可能性を感じる人材は他にいません!! 是非ともウチのエースとして働いてもらうべきです」
「お前は俺を学園の三大美女から救ってくれるんだろ? 学園の三大美女と一緒に働いたら俺が死ぬ可能性があるぞ」
「自由くんの死という犠牲は無駄にはしません!!」
こんの闇堕ちメシアは幼馴染より趣味を取りやがった。薄情者っ!!
って声を大にして言いたいが、もうね、むんふーと興奮の鼻息で靡く前髪から色葉の顔がチラついてんだけど……これでもかってくらいに顔を真っ赤にしてんだよ。大興奮という言葉を考えた人は、今の色葉みたいな人を見てその言葉を作ったのだろうなぁ。昔の人ってすげぇや。
「わ、わかった。わかったから、落ち着け、な?」
「もちろん、自由くんのコスプレにも力を入れるし、自分の限界にも挑戦するから任せてねっ!!」
「あ、ああ……」
「広がる……可能性がひろがりゅぅぅぅ♡♡」
七咲色葉。お前もまた違ったベクトルの変態だ……。
今の色葉とは話にならないと思い、視線を親父にもっていく。
「真面目な話、雪村さんはシフトに結構入ってくれるみたいだし、色葉ちゃんのメイク力を存分に発揮できるみたいだからお店としては助かるよ。バイト経験は初めてみたいだけど、自由とも色葉ちゃんとも同じ学校でクラスメイトみたいだし、そこはまだ教えやすいと思うんだ。そもそも、バイトの面接に来る人が少ない中、せっかく来てくれた人材なんだよ」
親父の言う事はもっともだ。店のことを考えるなら、俺個人の意見なんて通さない方が良い。
でもなぁ……。
「よろしくお願いします、ご主人様」
この美少女さん、さっきから鼻をクンカクンカして下心しか見えないんだけども。
「……学校終わりの匂い、やっべぇ……♡」
見えないんですけども!?




