第14話 他力本願はだめ。自力でいかないとな。その結果……
「どうすっかなぁ……」
学校の自分の席で項垂れる。
昨日、カフェふりーは『ふぁいと•すてみ•らいと』のコスプレイベントであった。そのイベントの時、学園の三大美女が一人、ファシリテーター系美少女。清楚担当の雪村佳純が来店していたのだが、芽宮幸四郎で接客するや否や、お前の匂いを嗅がせろって来たもんだ。そして俺に一万円を握らせると、クンクンと容赦なく俺の匂いを嗅いできた。
いきなり匂いを嗅がれるのにはびっくりしたが、それよりも、なんの注文もしていないのに一万円という大金を出されたことが問題である。
親父も、「多分ないだろうけど、後でイチャモン付けられても困るから、返せるなら返して。レジ締めも合わなくなるしー」って言っていたからな。
返したいんだけど、どうやって返すか……。今までだと、月影彩芽や水瀬有紗は俺の正体に気が付いていたため、向こうからこっちに口止めをしに来た。今回、雪村佳純は俺の存在に気が付いていたのかどうか……。
手っ取り早いのは、月影彩芽や水瀬有紗に事情を話して一万円を雪村佳純に返してもらうことだが……。雪村佳純がウチのカフェに来たことにより、自分の秘密が喋られたと勘繰られて、また悪絡みをされても困る。
だったらここは──。
「な、なぁ、色葉」
ちょいちょいと色葉の背中を突くと、ビクッとしてからこちらを振り向いた。
「な、なに……?」
「ごめんごめん。昨日の一万円の件なんだけど、色葉から渡してくれない? 向こうが色葉の正体に気が付いているかどうかわからないけど、色葉はカフェの常連でマスターから頼まれたとか適当に言って返してくれよ」
頼むと、前髪で良く見えないが、やたらと怒った風な顔をした様に見えた。
「それを色葉が行うのは様々なリスクがあります。せっかく他の二人は色葉がカフェで働いていることに気が付いていないのに、それだと色葉もコスプレしていたことがバレる可能性があります。色葉がバレたことによるリスクは自由くんにも属すると思われます。それに色葉は所詮バイトだし、金銭のことは責任者、ないしは経営者の家族が管理するべきかと。そして、あまり学園の三大美女の話を色葉にしない方がよろしいかと存じます。あと、幼馴染もののアニメを視聴することをおすすめします。以上」
はっや!! 弾丸で放たれた言葉と共に、ぷいっと前を向いてしまった色葉に、とりつく島もなさそうだ。つうか後半の幼馴染プッシュはなんなんだよ。
はぁ……。やっぱり自分で行くしかないか。
♢
「でさー──」
「それは傑作」
二年四組の教室の中心で談笑している水瀬有紗と月影彩芽。そこに向かうぼっちの降井自由。
「あのさ、二人とも」
ぼっちの俺から学園の三大美女に話しかけるなんて恐れ多いが、今回は仕方ない。
「降井くん……?」
話を止めて月影彩芽がキリッとこちらを見て来る。だが、その脚をプルプルさせているところを見るに、おそらくドMを発動させているのだろう。悪いが今回はロロックとして接しないから、その脚プルをやめろ。
「どったの?」
月影彩芽とは反対に、水瀬有紗は至って通常に見える。まともなギャルとか超良いよね。
「なにか用でちゅか? んー?」
前言撤回。この子も俺が神崎海斗と思って脳がバグってやがる。悪いが今日はばぶみを感じるわけにはいかないんだ。
「雪村さん、知らない?」
「佳純?」
水瀬さんが予想外の反応を示した。一体、なにを期待していたのやら。
「佳純は戻っていない」
俺の質問には月影さんが答えてくれた。それに続いて水瀬さんが補足をくれる。
「佳純って体育終わり、いつもどっか行ってんだよねー」
「ジュースでも買っている可能性がある」
「ジュースか……ありがと」
礼を言ったところで、自販機の方へ向かおうとすると、ガシッと俺の肩が強めに掴まれる。
そして耳元で水瀬さんの声が囁かれる。
「ね、次はいつイベすんの?」
彼女の顔を見ると、我慢できないのか、ママの顔になっている。
「い、いやー、それは……」
「あ、ごめんね。学校であんまこの話すんなって言ったのあーしなのに。でも、我慢できなくて、つい」
そんなに俺の神崎海斗コスは彼女に効いたのだろうか。
ふと、月影彩芽を見ると、顔こそクールな無表情を貫いているが、脚が釣り上げた魚みたいにビチビチしている。それ、反応でバレバレだぞ。
「呼び止めて、ごめんね。佳純に用があるんでしょ、休憩時間もあんまりないし、サクッと行っちゃってー」
水瀬さんにトンッと背中を押されて俺はそのまま自販機のところへ向かった。
♢
雪村佳純を探すため、月影彩芽、水瀬有紗の助言通りに自販機のある更衣室付近にやって来たのだが、そこはもぬけの殻であった。
休み時間も残り少ないし、仕方ないから別の機会に金を返すかと思い、この場を去ろうとした時であった。
「物足りない……物足りない……」
そんな声が聞こえて来て、ふと男子更衣室の前を見ると雪村佳純がなんか知らんが仁王立ちで立っていた。
「あ……」
目が合うと数秒俺と見つめ合ってマジで恋する5秒前。
「見つけましたー♡♡」
そして駆け出してくると、そのまま俺に抱きついて来た。




