第13話 一番まともと思っていた人間が一番やばい奴と知った時の絶望感
さて、コスプレカフェとしてめきめきと客足を伸ばして来ている我が店も、コスプレ第三弾となった。
第三弾ともなると、バックヤードで色葉が俺にメイクを施してくれるのも慣れたもの。
あっという間に『ふぁいと•すてみ•らいと』の主人公、芽宮幸四郎の完成だ。
「相変わらず完成度が高いメイクだな」
姿鏡に映る自分の姿が完全に芽宮幸四郎なもんで、感嘆のため息が出てしまう。
「え、えと、じ、自由くん。こう、幸四郎は、正義感の強い誠実なタイプの主人公だから、ね」
「おっけー、おっけー。誠実ね」
今までのロロック(ドS)や海斗くん(ショタ)とはまた方向性が違うキャラね。
「そういえば、この作品に幼馴染っているのか?」
「ふぇ!?」
軽く聞いたつもりなんだが、色葉は壮大にキョどり出した。
「な、ななな、なんで!?」
「いや、この前幼馴染がどうとか言ってたからさ」
「!?」
更にキョどり初めて、色葉は限界値まで顔を赤くした。
「な、ななな、なんですか!? も、もう幸四郎の演技に入っているんですか!?」
「へ? どゆこと?」
「昔の鈍感タイプの主人公は嫌われますよ!!」
ガーンとサウンドエフェクトがセルフで鳴り響く。なんか色葉に怒られちゃったんだが……。
「き、着替えますから、自由くんは外に出ててください!!」
「着替えの早さもガチコスプレイヤーの醍醐味だから別に出て行かなくても……」
「出てってよ!! ぱかぁ!!」
色葉らしく怒りながらも壮大にお噛みになった罵声と共に俺は、追い出された勢いのままキッチンへ。
「ん……? 自由? まだイベントの時間じゃないよ?」
キッチンでは親父がコップをふきふきしていた。ホールの方の客は既に埋まっている状態だ。
お客さんが俺を見るなり、「おおー」と声を上げているのがわかる。今の反応でもわかるが、やはり色葉のメイク技術はかなりのものだ。
「色葉に追い出されたんだよ」
「そりゃ着替えるんだから追い出されるでしょ」
「前は追い出されなかったぞ」
「そりゃ怒ってんじゃないの?」
「怒るって……俺は色葉を怒らせるようなことをした覚えはないぞ」
「男ってのは知らぬ間に女を傷つけているもんなのさ」
「虫も殺せないような顔してなに言ってんだか」
やれやれとため息が出るが、実際に俺は知らぬ間に色葉を怒らせてしまったらしい。おそらく幼馴染の件だとは思うが、なにをそこまで怒っているのだろうか。俺が以前に幼馴染を負けヒロインとか言ったのを思いだして怒っているとか?
うーむ……。
「すみません。注文良いですか?」
テーブル席の方から女性の声が聞こえてくる。
まだ本命の色葉は出て来ていないが、注文をしたいお客さんがいるのも当然だ。
「はい。すぐに伺います」
伝票を持って呼ばれたお客さんのところへ行くと、「ぶっ」と吹き出してしまった。
テーブル席で俺を呼んだ人物は、物腰柔らかい態度で話の流れをまとめるファシリテーター系美少女。清楚担当の雪村佳純であった。
つうかなんなの、学園の三大美女がやたらとウチの店に来る件。俺は俺でワンパターンな反応だし。
「ちゅ、注文はなんにしましょう」
しかしだ。俺は今、芽宮幸四郎。真面目で誠実に相手の注文を取ることにする。
「えっと、注文は──」
しっかし、学園の三大美女が一人、雪村佳純は清楚系美少女という名に相応しい美貌を持ち合わせているな。いや、他の二人が変態というデバフ持ちだから、もっと雪村佳純が美人に見えてしまう。清楚って良いよな。
「芽宮幸四郎くんの匂いを嗅ぎたいです」
「──はへ?」
あっれ? 今、この子なんてった? 聞き違い?
「私の注文は芽宮幸四郎くんを嗅ぎたいです♡」
聞き違いとかじゃなかった。
「お、お客さん。匂いを嗅ぐとか、そういうのは……」
「これでどうか、お願いします」
そう言いながら雪村佳純は俺に万札を出してくる。ギュッとしっかりと握らして来る時に、彼女の柔らかい手の感触を感じてしまう俺って変態なのだろうか。
「いや、そういう問題じゃ──」
「では、遠慮なく……!!」
こちらの制止を全く聞かずに、雪村佳純は芽宮幸四郎の匂いを嗅いで来やがる。
クンクンと犬みたいに嗅いで、「ほはぁ♡」と両手を両頬に持って行った。
「これが芽宮幸四郎くんの体臭……おっほ♡ 想像通りに芳しくて香ばしくて、んもう、私、絶頂しちゃいますー♡♡」
清楚ってなんだっけ?
一番まともと思っていた学園の三大美女が一番頭がぶっ飛んでいた。
俺の変態度なんてかわいいもんだ。上には上がいる。世の中ってのはそうできているんだな。
「はぁ♡ はぁ♡ お、おかわり、お願い、します♡」
「何言ってんだ、あんた」
「お触り♡ こっちは金を払ったんです♡ 触って匂いを嗅がせてください♡」
「キャバクラのやばい客かよっ!!」
今にも清楚系の皮を被った変態が俺に襲いかかろうとしていると。
『問おう。あなたが私のマスターか?』
「え……?」
きゃああああああ──♡♡
ふと、カフェ全体に黄色い声が轟いた。
かと思うと、目の前に現れたのは芽宮幸四郎の従者でパートナーの、ブレードという美少女に扮した色葉が俺と雪村佳純の前に立っていた。
「敵か……」
「いや、変態だよ」
「少し下がっていろ、マスター」
完全にブレードになりきっている色葉は、俺を守るように前に立つ。俺を含むお客さん達がこの後どうなるのか固唾を飲んで見守る。
「残念ながら、私、あなたの匂いには興味ないの」
そう言いながら雪村佳純は立ち上がった。
「また今度匂いを嗅がせてもらうわね、芽宮幸四郎くん」
雪村佳純は強キャラ感を出して店を去って行った。
おいおい、この一万円はどうするんだよ。
「私は、正しいことをしたかっただけなのに……」
「いや、うん。俺を変態から守ってくれてありがとう。ブレード」




