第12話 幼馴染の心からの叫びはなんのフラグ?
「──というわけで次のコスプレは、『ふぁいと•すてみ•らいと』にしまーす」
閉店後のカフェふりーにて、今日も今日とて次回のコスプレが親父より発表された。
またお前の提案か? と言葉に出さずに色葉を見ると、長い前髪の中からドヤ顔が見えた。最近イキイキしておりますね、うちの幼馴染様。
「『ふぁいと•すてみ•らいと』は、願いを叶えるカップを巡り、主人と従者がタッグを組んで激しいバトルを繰り広げる現代ファンタジーですね。漫画、アニメ、アプリが大人気を博してその人気は世界規模にまで到達しております」
安定の色葉情報が入って来る。最早定番になりつつある彼女の説明に、「あー」と声が漏れた。
「そういやアプリが一億ダウンロードとかって動画広告で見たっけか。つうか、親父もやってたよな?」
親父を見ると、懐かしむように天を仰いでいる。
「……ほぼ爆死したのは良い思い出」
「親父の心は晴天という名前通りには晴れ渡らなかったわけか……」
親父は涙を拭いて、切り替えてくれた。
「でも、ふぁいとは良い案だと思う。国内だけじゃなくて国外の人にも人気だから、もしかしたら海外からお客さんが来てくれるかも。これでウチもグローバル喫茶の仲間入りだね」
「英語喋れるのか?」
「……はろー!!」
「だめだこりゃ」
俺は顔に手を当てて首を横に振ってしまう。我が親ながらに情けなくて泣きそうになる。
「で、でも、色葉ちゃんの案は良いと思うよ。だめかな?」
色葉も必死にコクコク頷いている。どうやらふぁいとのコスプレをしたいみたいだな。
「ま、まぁ、国外から来るとか、グローバル喫茶とか、そこら辺は置いといて、その案自体は良いと思うぞ。俺でも知ってるからな」
「じゃあ決定で良いね」
俺と色葉は顔を見合わせて頷いた。
「おっけー。なら次回は、『ふぁいと•すてみ•らいと』でいきまーす」
こうして次回のコスプレは『ふぁいと•すてみ•らいと』で決定した。
♢
次回のコスプレも決まり、クローズ作業も終了したら、俺はお隣に住んでいる色葉を家まで送り届ける。もうルーティンみたいになってるってのに、色葉のやつは相変わらず慣れないのか沈黙を貫いていた。
道中ってほどの距離でもないが、その道中で色葉に尋ねた。
「また俺を助けるために親父に提案してくれたのか?」
いきなり質問したもんだから、色葉がぴくりと肩を震わせた。
「う、うん。じ、自由くんが、つ、月影さんに加えて、み、水瀬さんにも脅されてるから。やったことないコスプレしないとって……」
どっからどう見たら俺が脅されて見えるのかわからないが、それは幼馴染なりの配慮であり、幼馴染として心配してくれているのだということくらいはわかった。
「迷惑だった……?」
恐る恐ると聞いてくる彼女にゆっくりと首を横に振る。
「そんなことはない。ありがとな、色葉」
素直にお礼を言うと、視線を伏せて小さくこぼした。
「や、やや、それは建前で……ほ、ほんとはふぁいとのコスプレ、したい、だけ、だから。べ、別に、じ、自由くんのためじゃないというか? えっと……」
「なんで若干ツンデレ入ってんだよ。つうかツンデレするならもっと大きい声出せよ」
「やっぱりツンデレは難しい……」
「俺を練習台にすんなよー」
そんな会話をしていると、あっという間に色葉の家に到着した。
「じゃあな、色葉。また明日」
家の中に入ろうとした色葉に手をあげて去ろうとすると、「自由くん」と呼び止められた。
「ん?」
「あ、その、えっと……」
ごもごもとしている口元を見るに、なにか言いたいけど言いにくいと言った様子か。こんな色葉は日常茶飯事だし、彼女が言いたくなるまでジッと待ってやる。
「その、ね。おさ、幼馴染は……」
「幼馴染?」
首を傾げると、彼女は手をギュッと握ってみせた。
「幼馴染は負けヒロインなんかじゃないからね!!」
「お、おおん」
いきなり勢い良く言ってくるもんだからびっくりして反応できなかった。
「そ、それじゃ!! そゆことで!!」
ビシッと手をあげて慌てて家に入ろうとしたところで、玄関のドアが中から開かれた。
ドンッと色葉の額が玄関にぶつかる音が夜の住宅街に響いた。
「あら? 当たっちゃった?」
中から現れたのは色葉の母親だ。相変わらず美人なママさんである。
「……っつぅ……も、もう、お母さん……酷いよ」
「ごめん、ごめん。色葉が玄関で叫んでいるから何事かと思って」
母親の言葉に色葉は魚が跳ねるみたいに背中をビクッとさせた。顔は見えないが、多分顔を赤くしているのだろう。
そのまま脱兎のように家の中に入って行くので、母親の方は何事かと首を捻った。
「あ、自由くん。いつもありがとうね」
「いえいえー。こちらこそ、色葉には店を手伝ってもらって助かってますよー」
「あの子、最近、テンション高いから気をつけてね。なにするかわかんないから」
母親が冗談混じりで言ってのけると、『お母さん!!』と家の中より色葉の腹の底から出した声が聞こえてくる。
「あははー。怒られちゃった。それじゃ自由くん。気をつけて帰ってね。おやすみなさい」
「はーい。おやすみなさーい」
色葉の母親とは仲が良いため、手を振り合って挨拶をしてから色葉の家を後にする。
それにしても……。
「幼馴染は負けヒロインじゃない……次のコスプレのテーマかなんかか? そういやあいつ、幼馴染が負けヒロインなのに対してやたら熱く語ってたっけ」
いきなり放たれた色葉の言葉の意味は、この時はまだ知る余地はなかった。




