第10話 秘密の共有(ギャル担当)
ここ最近の学校は月影さんの痛いくらいの視線が気になっていたが、今日に至ってはその限りではない。
休み時間なのに黒板に一点集中してしまう。それは俺が休み時間も勉強するガリ勉というわけではない。ほんわか呆けているからである。
「……おっぱい、超良かったな……」
昨日、学園の三大美女が一人、ギャル担当の水瀬有紗の胸の中に沈んだ。その時も興奮したのだが、事後の方がその興奮度は高い。あの感触、あの弾力、あの幸福度を思い返して妄想し、想像するのは、はち切れんばかりの興奮であろう。おっぱい星人なんて呼ばれる人種がいるだろう? それは俺だ。
──バンッ!!
「いっ!?」
唐突な音に我に返ると、目の前にはなんとも言えない表情をした水瀬有紗が俺の机に手を置いているのが伺えた。どうやら彼女が俺の机を叩いたらしい。
「降井くん。ちょっと良いかな?」
学園の三大美女が一人、司会者系美少女、ギャル担当の彼女がクラスの隅にいる俺なんかになんの用だ。なんて野暮なことは言いまい。なんとなしに彼女の用件は察している。
「あ、ああ」
「こっち来て」
顎で教室の外を指してから、足早に教室を出て行く彼女。すぐ後ろを付いて行くとクラスの連中から何事かと変な視線を送られそうなため、数秒置いてから席を立とうとした。
「降井くん? なにしてんの??」
後ろに付いて来ていない俺を不審に思った彼女が戻って来て、逃すまいと俺の腕を引っ張って教室を出て行く。
あっちゃー。こっちの方が悪目立ちしちまったな……。これなら素直に後ろを付いて歩いた方がマシだったか。
それにしても、この子は平気で異性の身体に触れられるんだな。俺なんて年頃の男の子だから異性に触られただけでドキドキもんだぞ。ま、こういうボディタッチ多めのギャルだから俺みたいな童貞男子が勘違いして告って玉砕するのだろう。肝に銘じないとな。
そんなわけで、水瀬有紗が俺を引っ張って連れて来たのは教室を出てすぐの階段の踊り場であった。
ドンッ!!
現場に到着するやいなや、俺は壁に押し付けられて顔を近づけられる。
「女子からの壁ドンなんて少女漫画もびっくりな展開だな」
こちらの冗談なんて聞こえていない様子で彼女はこちらを睨んでくる。
「ふ、降井くん。き、昨日のことは、だ、誰にも言わないでくれるかな」
彼女は顔を真っ赤にして上目遣いで睨み続ける。恐喝している身ではあるが、弱みを握られてどうしようと言った感情なのだろうか。
「やっぱり俺ってバレてた?」
「そりゃ最後に四葉ちゃんから本名で呼ばれてたから。その前から同じ学校の制服だし、カフェの名前がふりーでもしかしたらって思ってたけど」
「本名呼ぶ前から気が付いていたなら、なんであんなことしたんだ」
「そ、それは……」
彼女は壁ドンを解いて視線を伏せ、口篭ってしまう。
「それは?」
答えを促すようにオウム返ししてみせると、観念したように俯いたまま小さく口を動かした。
「我慢できなかったの……」
小さく放った言葉を皮切りに、彼女は赤らめていた顔を更に赤らめてブーストを発動させた。
「我慢できなかったのよ!! 降井くんの海斗くんがかわい過ぎて!! もう、ずっとギュッてして守ってあげたかったの!! しょーがないでしょ!! 神崎海斗くんってキャラが好きなんだよ、わたし!! なに!? だめなの!? わたしみたいなギャルが魔女っ子アニメに出てくる男の子が好きでだめなの!? しょたこんは罪なの!? ばぶみを感じて欲しいの!! わたしを感じて欲しいのよ!!」
「水瀬さん落ち着いて、ストーップ」
まるでマシンガンのように撃ち放つ彼女の言葉の羅列はどこか色葉に似ていたため、ついつい色葉を落ち着かせるように、どうどうと彼女を宥めてやる。
「あ……と、ごめん。キモかったよね……」
「いや、全然キモくない。好きなものをそうやって堂々と言えるのは良いことだし、そこまで夢中になれることがあるのは素敵なことだと思う」
俺なんかが人の趣味にケチつけれる人間じゃないし、アニメのキャラが好きって言うのは今のご時世当たり前になりつつあるから、キモいだなんて微塵も思わない。
「キモくない? わたしの好きなもの、キモくない?」
「キモくないけど、いきなり抱きつくとかは、その……やめた方が……」
歯切りが悪くなったのは、正直、あの感触が忘れられないから。俺ってばムッツリだよな。自分でも思うわ。しょーがないじゃない、男の子なんだもの。童貞ぼっちなんだからそれくらいのラッキースケベくらい許して欲しいんだ。
「あ、あははー……それは、さーせん」
苦笑いを浮かべながら頭をぽりぽりかいている水瀬さんは、すぐに真面目な顔になる。
「降井くんがわたしをキモくないって言ってくれたのは嬉しい。けどやっぱり、わたしの趣味がキモいって思う子も多い訳で……わたしは多分わたしの趣味をキモいと思ってる子の友達が多いんだよ」
だからさ。真剣な眼差しでこちらに懇願してくる。
「昨日のことは誰にも言わないで欲しい」
「もちろん。俺は相手の嫌がることはしない」
「わたしの胸を感じたのに?」
「や、やや!! あ、あれはだな……!!」
「きゃはは!! 焦ってやんのー!!」
べっとイタズラっぽく舌を出すと、その場を駆け出した。
「あーし、別に降井くんに胸触られてもだいじょーぶな人だからー。それじゃ、このこと誰にも言わないように、よろでー!!」
そう言って颯爽と去って行った。
なんともまぁ発言がビッチギャルだったな。だけど、あんなこと言われたら勘違いしちまうな。
あかんあかん。水瀬有紗が好きなのは神崎海斗であって降井自由ではないんだ。
ああやって男を虜にしていくんだ、ギャル担当様は。ギャルで小悪魔はなんとも恐ろしいな。
勘違いしちゃいかんな。




