第1話 カフェふりーの経営難脱出法
「自由。色葉ちゃん。このままでは僕の店がやばいことになるんだが」
カフェふりーでのバイト中のことだ。
俺と幼馴染の七式色葉がいつも通りに働いていると、店長で俺の父親でもある降井晴天が作業をやめるように指示を出し、四人テーブル席に座るように指示を出した。
俺と色葉は素直に従い四人テーブル席に腰を下ろすと目の前に座った親父がテーブルに肘を付き、なんともまぁ神妙な面持ちで言葉を発していた。
「まぁ……この状況じゃなぁ……」
店の中を見渡して出た言葉は他人事みたいな乾いたものだ。
現在カフェふりーは絶賛営業中。お客様用テーブルを埋めているのが全従業員の3名と皮肉なものとくりゃ、他人事みたいなセリフも出るといったものだ。
「いったい、我がカフェのなにがいけないって言うんだ……」
「平たく言うなら従業員じゃね」
頭を抱える親父に辛辣な言葉を放つと、「なっ!?」と精神的なダメージを受けて立ち上がる。
「我が従業員のなにがいけないと言うんだ!? 全員が美男美女揃いじゃないか!!」
異議申し立てるように俺を指差してくるもんだから、仕返しと言わんばかりに親父を指差してやる。
「まず、親父のそのアンバランスな身体だな」
「なにがいけないんだ!?」
「中年のくせに衰えを知らない爽やか可愛い系の顔のくせに、年々成長するその筋肉。いつまで成長期なんだよ」
「一生成長期晴天くん☆」
「店を成長期にさせろよ」
「ぐぅ正論」
この見た目で接客が好きなもんだから、お客さんが気味悪がって遠ざかっていくんだよ。
「……それに」
俺は隣に座る幼馴染の色葉に視線を送る。
彼女は少し怯えるようにピクリと身体をぴくりとさせた。
「正直、色葉も飲食店をするような髪型じゃないからな」
彼女の髪は長い。全体的に長い。前髪も長く、眼鏡をしているもんだから素顔なんてあまり見えない。親父の言う通り、素顔は可愛いはずなのに勿体ない髪型をしている。
「あ、えと……これは……」
「わかってる。趣味のコスプレを楽しむためだろ。その髪型でも良いって親父が言って雇ってるんだから俺に文句を言う資格はないけど、ただ……お客さんがな……」
色葉が接客するとほとんどの確率でお客さんが悲鳴を上げてしまう。引っ込み思案な性格と髪型が合わさって霊的な存在と思われても仕方ないし、不潔な店と思われてもおかしくない。
「ご、ごめんなさい……」
「おいぃ自由。幼馴染に気を使わせんなよ。幼馴染は将来の嫁なんだぞ」
「どこの漫画の世界だよ。基本幼馴染は負けヒロインだよ」
「自由くんっ……!!」
俺の言葉に色葉が服の袖を掴んで待ったをかけてくる。
「それはラブコメ漫画におけるものであってその他色々なジャンル、例えばファンタジー漫画とかなら幼馴染は勝ちヒロインのパターンは多いんだよ。もちろんラブコメ漫画においても幼馴染が勝ちヒロインのパターンも存在するし、一概に幼馴染が負けヒロインとは限らないんだよ。というか、そもそも幼馴染=負けヒロインという謎理論が存在していること自体、色葉的に意義申し立てだよ。だってそうじゃない? 幼馴染なんだよ? 昔から知っているんだよ? 全てだよ、全てを知っているんだよ? お互いの趣味趣向。家族構成。身長体重。というか、昔から裸の関係を貫いている幼馴染の成長した身体を拝めるとか萌え展開があるのになんで幼馴染を負かしてくるんだろう。それって──」
「色葉ストーップ」
ピピーと暴走する車を警察官が止めるように制止を促すと、色葉は我に返ったようにブレーキを踏んでくれた。
「ご、ごめんなさい……」
俯いて素顔を隠しながら謝る姿を見ていつもの色葉に戻ったのを確認。この子ったら急にフルスロットルでアクセル踏み込むからな。免許返納もんだわ。
「というかさ、僕と色葉ちゃんの文句を言う自由が一番問題だけどね」
「俺? どこがだよ。清潔感のある髪型。父親みたいなゴリマッチョではなく高校生らしい細マッチョ。接客態度も良好で、顧客満足度一位だろ」
「特徴ないんだよね」
「!?」
胸にナイフが突き刺さったような感覚。
「えと……地味、ですよね…」
刺さったナイフを押し込む色葉の言葉。
「降井自由って名前なのに一番自由じゃないよね」
「おい名付け親!! なんちゅうこと言いやがる!!」
「特徴ない優等生は現代日本の風刺画みたい、です。自由くん」
「だっらああああああ!! 俺はそこまであんたらに言ってないぞ!! だったら俺を特徴のない地味メンから脱却させろやああああああ!!」
ビシッと色葉を指差した。
「やい、コスプレ幼馴染。俺をどっかの漫画の人気キャラに変身させろやっ!!」
冗談混じりのセリフに色葉ではなく、親父が反応した。
「コスプレ……コスプレカフェ……コスプレカフェ良くない?」
親父の言葉に色葉が素早く反応する。
「コスプレカフェ……!! 晴天さん。色葉もコスプレして良いんですか?」
「もちろんだよ!! 良いじゃん。コスプレカフェ!! このままじゃ店も潰れるし、やってみる価値はあるんじゃないかな」
「……え、本気なの?」
冗談で発した言葉を鵜呑みにした親父が、閃いたみたいでそこからあれよあれよと話が進み、カフェふりーはコスプレカフェと変貌を遂げた。
これが大成功したのには驚きを隠せない。コスプレって凄い影響力なんだな。




