朝の再会と、ヒーロー初仕事
翌朝。
目を覚ました俺は、ひどくうなされていた自分に気づいた。
寝床は汗でびっしょりだ。
エリィと出会えた喜びよりも――
その先にいつか訪れる“あの未来”が頭から離れない。
俺は欠けたコップに水を注ぎ、一気に飲み干す。
乾ききった喉がようやく潤い、少しだけ呼吸が戻ってきた。
「……よし、行くか」
外へ出た。
***
待ち合わせ場所は、国一番の大時計台の下。
ラグナロク王国創設時から街を見守ってきた古い塔で、
手入れが行き届いたその姿は、どこか誇らしげだ。
そこで五分ほど待っていると――
「おーい、ノアスくーん!」
晴れ間みたいに明るい声が、群衆を割って飛んできた。
人々が飢餓の影で沈んだ顔をして歩く中、
一人だけ太陽のように輝く少女が棒立ちしている。
エリィだ。
大きく手を振るのが恥ずかしくて、
でも嬉しくて、俺も片手を挙げて応じた。
「お待たせ! 待った?」
「俺も今来たところだ」
走ってきたエリィは息を弾ませ、無邪気な笑顔を向けてくる。
「今日はどこ行くの?」
「友人に挨拶しておきたくてな。……付き合わせて悪い」
「いいよ! ノアス君の友達、どんな人かなって気になってたし!」
そんな軽やかなやり取りをしながら、俺たちは街を歩いた。
職人街を抜ける途中、すれ違う獣人たちに睨まれたり罵声を飛ばされたが、
俺たちは無視して歩き続けた。
途中、店の外の鏡の前でエリィが立ち止まった。
前髪をそっと整える姿は、まさに“少女”そのものだった。
***
「よぉ、ノアス。今日はどうしたんだ」
目的地に着くと、店の前で腕を組んでいた男――ヒバナが笑った。
俺のヒーロー活動をずっと心配してくれていた、頼れる友人だ。
「表情が明るいじゃねえか。何か良いことあったのか?」
「前に言っただろ。……ヒーロー活動を再開した」
「本当か! ってことは、お前……パートナーが見つかったのか!」
大げさなリアクションをするヒバナに、思わず笑う。
「そういうことだ」
「どうも、こんにちは!」
背中から覗くように出てきたエリィは、小動物みたいに緊張していた。
それでも笑顔で挨拶する。
「彼女が……あー。そういうことか」
「ん? どういうこと?」
「いえ、なんでもないです!」
ヒバナは一瞬だけ複雑そうに眉を寄せたが、すぐに豪快に笑った。
「俺はヒバナ。この街で料理してる職人……だが本職は葬儀屋だ。よろしくな」
「はい! よろしくお願いします! 人の繋がり、嬉しいです!」
「はっはっは! 嬢ちゃん、オッドアイか。珍しくて神秘的だな!」
ヒバナが覗き込むと、エリィの目が嬉しさで輝いた。
「こいつは昔からの知り合いだ。葬儀屋としては派手に送ることがモットーなんだ」
「凄い……飢餓化のせいで葬儀も少ないのに、覚悟があるんですね。
私もヒーローとして協力します!」
「いつか派手に祭りみたいな葬儀をしてやりたいもんだ」
「そのためには、飢餓の始祖を倒さないとですね!」
そこへ俺が口を挟む。
「エリィ、こいつは珍しい《飢餓の始祖擁護派》なんだよ」
「えっ!? どういうこと!?」
驚きの声をあげるエリィに、ヒバナが渋い顔を向ける。
「嫌味言うなノアス。俺はヒーローを思って――」
「分かってるよ。この話はもういい」
前にも意見が食い違って揉めた。
その先に何もないことは、もう分かっている。
だからこれ以上は言わなかった。
ヒバナも、それ以上は踏み込まなかった。
***
「今日は挨拶がしたかっただけだ。心配かけたしな。
何かあったら言ってくれ。じゃあ――」
「待て。ヒーロー活動再開一発目の仕事、頼ませてくれ」
引き止められ、俺とエリィは足を止める。
「食料調達の依頼だ」
「お、いいじゃん」
「俺が困ってるわけじゃない。いつか街中みんなで派手な葬儀をやるために、
個人的に食料を蓄えてるだけだ。もちろん街のためにな。
まあ、俺は金欠だから……知り合い割で頼みたいわけだ」
「なるほどな。いいぜ。お前の理想、見てみたいしな」
「それに実績も欲しかったし、ね。ね、エリィ」
「うん! 私、実践もしてみたかったから!」
「よし、決まりだ。報酬も払うし、持ってきた食材は俺が料理してやる」
「本当に!? やったー! できたて料理……絶対おいしいよね!」
エリィは目をトロンとさせ、口元には涎が……。
「ただし、一つ注意がある」
ヒバナの声が少しだけ真剣になった。




