『変死』――俺の能力と、彼女の真実
「じゃあ、私は私に出来る事を精一杯やるね。ところでノアス君の能力って何なのさ?」
ぱくり、とエリィは肉を頬張る。
目を細め、幸せそうに噛みしめているその顔を見ると……本当に俺の話、聞く気あるのか?
そんな疑念を抱きつつも、聞かれた以上は答えなきゃならない。
俺は一度周囲を見渡した。
近くのテーブルは空いている。聞き耳を立てているような奴もいない。
「……エリィ、ちょっと顔近づけてくれ」
「え? あ、うん?」
怪訝そうに眉を寄せつつも、エリィは素直に俺へ耳を寄せた。
「俺の能力は……“最強の初見殺し”だ。これが周りにバレたら、俺は勝てない。分かるな?」
「う、うん。分かったよ」
俺は人差し指を口に当てて、シーッと声を潜める。
「俺の能力名は――《変死》」
「へ、変死?」
「そう。しかもな……俺自身には、何の能力も無い」
「はい!? さっきの宣言どこいったの!?」
まあ驚くよな。そりゃそうだ。
「簡単に言えば――『相手がそう思い込んだ能力』を、戦闘中だけ自分の本当の力にできるんだ」
「……えっと?」
エリィの頭の上に浮かんだ疑問符が見えるようだ。
「つまり、相手に“俺は〇〇の能力を持つ男だ”と思わせる。
そう思わせた瞬間に、俺の《変死》が発動する。俺は本当にその能力を扱えるようになる」
「へえ……!」
「たとえば、お前には妹がいるよな?」
「ちょっ!? な、なんでそれを――!」
「ペアになった相手の情報を全部知れる……なんて言ったら、今お前は信じるだろ?」
「う、うん……信じた……!」
「その時点で俺は“ペアの情報を知る能力者”になるわけだ」
「そ、そういう事か!」
エリィの表情がパッと明るくなる。理解したらしい。
「他にも、相手にバレないようにガスとライターを使って火を出して、
“俺は炎を操る能力者だ”と思い込ませればいい」
「思い込んだ瞬間に、本当に使えるようになる……って事なのね?」
「そう。だから俺は戦闘以外で能力について一切喋らない。
噂されても困るだけだからな」
「……あれ? でもさ、一度戦ったヒーローには絶対に正体バレるよね? しかも噂で広がるよね?」
「普通ならな。だから“契約”が必要なんだ」
「あ、さっき言ってたヒーロー同士の契約?」
「そうだ。俺は毎回、“戦闘中の俺に関する記憶のリセット”を契約条件に出す。
勝ちさえすれば、相手は契約によって俺の記憶を失う」
「……なるほど。本当に、良く出来てるね」
エリィはぽんと手を叩いた。
「ただし、俺の能力は飢餓化した相手には通用しない。
自我が暴走してる奴には“思い込ませる”なんて不可能だからな」
「じゃあ、その時は私の出番って事だね。えへへ、任せてよ」
照れたように頬を染めて笑うエリィ。
この素直な性格、ほんと守りたくなる。
食事を終えてから俺たちは協会を出て、装備をいくつか買い揃え、その日は解散した。
***
夜。
自分の寝床に戻った途端、どっと疲れが押し寄せた。
もう、亡霊みたいに街を彷徨う必要はない。
それは確かに安心だったけれど……胸の奥のモヤモヤは消えない。
(会えたんだ……ようやく)
俺が探していた獣人――エリィ。
針に糸を通すような確率の中で、ようやく辿り着いた。
彼女は純粋で、一生懸命で、真っすぐで。
そして――“妹を探している”。
その妹の名はベル。
戦闘センスに優れたオオカミの獣人で、誰よりもまっすぐな理想を掲げた少女だった。
『人間と獣人で区別のない世界をつくる』
――あの異質な理想を掲げたベルと、同じ言葉をエリィの口から聞いたとき。
俺は胸が締めつけられた。
何も知らない彼女は、いつか必ず“真実”へ辿り着く。
俺と出会わなくても、きっと避けられない。
(その時……俺がいなきゃ、彼女は壊れる)
俺の役目は決まっている。
運命に引っ張られるように、胸の奥で確信した。
(エリィがその真実に触れた瞬間、俺が全部受け止める――)
これは罪滅ぼしだ。
逃げられない宿命だ。
そう自分に言い聞かせた。




