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オッドアイの秘密――そして、君の手を離さない

「分かった。じゃあ、私から言うね」


 エリィが小さく息を吸い込んだ。耳がぴくっと揺れる。


「見ればわかると思うけど、私はオオカミの獣人。爪は鋭くて、牙も強いよ。あと──もふもふの尻尾が自慢」


「そこは誇るんだな」


「うん。でもね……ヒーローとしての“力の貸し方”とか、正直よく分かんない。昨日ペアになったばっかりだし」


「まあ、そこは俺も教えるよ」


 俺は姿勢を正し、指を一本立てた。


「ヒーローが戦う相手は二種類。一つは……同じヒーローだ」


「ヒーロー同士で戦うの?」


「戦闘狂の獣人もいるしな。そういう時は戦う前に“契約”を結ぶ。勝ったら何を貰うか、負けたら何を差し出すか──物でも約束でも立場でも、いろいろだ。破るのは御法度」


「へぇ……なんか思ってたより物騒」


「そしてもう一つは『飢餓化』した連中だ。自我が壊れてるから、契約なんて成立しない」


 エリィが耳を伏せた。


「でね、獣人は……戦う意思さえあれば、人間に力を“憑依”として渡せる。憑依中、獣人本人は魂が抜けたみたいに眠っちゃうけどな」


「えっ、眠っちゃうの?」


「安心しろ。魂はリンクしてるから、見えないけど横でつっこんだり怒ったりしてる感じだ」


「なんか恥ずかしいね、それ!」


 笑ったエリィだったが、俺が続けると──


「オオカミの獣人は基本、爪・牙・脚力・反射神経・視力……この辺が全部強みだ」


「あ……えっと」


 エリィの表情がふっと曇った。指が落ち着きなく動き、尻尾も力を失っている。


「どうかしたか?」


 言う前から、俺は察していた。


「……本当はね。ヒーロー契約する前に言うべきだったの。分かってた。分かってたけど……言えなかった」


 エリィは俯き、尻尾を膝に抱きしめるようにして震えていた。


「怒らないから、言ってみろ」


 促すと、彼女はぎゅっと口を結び──覚悟を決めた顔に変わる。


「気づいてると思うけど、私は……オッドアイ。白の瞳と、碧の瞳。獣人でも人間でも、かなり珍しいよね」


「まあ、確かに珍しいな」


「でも……珍しいだけじゃないの。獣人にとって“瞳”って誇りだから。色が違うってだけで、“異端”“不吉”とか……いろいろ言われる。ずっと、孤独だった」


 エリィの声が震えている。


 続く言葉も、俺には分かっていた。


「そして……碧眼の方、これ……義眼なの。生まれつき病気で、右目は見えない。獣人の強みである“目の良さ”……私には無いんだよね」


 エリィは唇を噛み、涙をこらえようと視線を伏せる。


「ごめんね……黙ってて。ヒーロー解散でも……いいよ。君の邪魔になるし……本当は昨日、言わなきゃだったのに」


 そんな震える肩を前にして──俺の答えは決まっていた。


「解散なんてしない。安心しろ」


「……え?」


「それに、オッドアイってかっこいいじゃん。男の憧れだぞ、普通に」


「え、えっと……かっこ……?」


「片目が見えない? それがどうした。文句を言う獣人がいたら、俺が全員まとめて黙らせてやる」


 エリィが目を見開く。


「“片目だからこその戦い方”をすればいい。お前の闇くらい、光で照らしてやる」


 俺が笑うと──


「……っ」


 エリィの堪えていた涙が、ぽろっと零れた。


「ほんとに……ほんとにいいの? 私のこの目、きっとノアス君の足を引っぱるよ?」


「問題無い。俺は対人戦──ヒーロー相手は無敗なんだ。誰がお前を笑っても、俺が全部勝って黙らせる」


 その言葉に、エリィは鼻をすすり、太陽みたいな笑顔を咲かせた。


「……ありがとう! ノアス君!」


 その笑顔を見て、俺もようやく胸を撫で下ろす。


「じゃ、今度はノアス君の番! 君の能力、教えてよ!」

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