並び立つ者たち
「やったね!」
真っ先に声を上げたのはランだった。
無邪気に両手を上げて跳ねるその姿に、隣でジータが鼻を鳴らす。
「……っふん。この手柄は僕たち“全員”のものだからな。勘違いするなよ」
「はいはい。相変わらず素直じゃないね、ジータ」
軽口を叩くランに、ジータは睨むような視線を返す。
だが、その口元はわずかに緩んでいた。
俺からしてみれば、手柄なんてどうでもいい。
――皆で勝てた。
それ以上の成果はない。
「来てくれたんだな。助かったよ」
俺がそう言うと、ジータは肩をすくめる。
「僕たちもヒーローだからな。お前に一度負けたくらいで、飢餓化の無力化を放り出すほど落ちぶれてはいない」
「ほんとだよ。間に合ってよかった」
ランがほっとしたように息を吐く。
いつの間にか、二人は打ち解けていたらしい。
彼らが駆けつけてくれたことで、俺たちは確かな勝利を掴んだ。
憑依化が解除され、エリィ、リン、リーリスも合流する。
「やった、終わった……!」
「勝ったのね……!」
エリィとリーリスは手を取り合い、ウサギのように跳ね回っている。
一方でリンは腕を組み、仏頂面でその光景を眺めていた。
「リンもありがとう!」
エリィが満面の笑みで言うと、リンは露骨に顔をしかめる。
「……お前さんは相変わらず変わらんな。獣人のくせに、ニコニコしよって」
「えへへ……」
「まあ、しかし、あれだ。ゴホン」
リンはわざとらしく咳払いをする。
「お前さんを“獣人の恥”と言った事は撤回しよう」
「……っ」
「その……認めたくはないが、私はお前さんに負けた。認めたくないが! だが事実じゃ」
リンは目を逸らしながら続ける。
「獣人らしくないその態度は気に喰わん。だが――一人前の獣人としては、認めてやる」
「……ありがとう、リン!」
次の瞬間、エリィは大きな尻尾を振りながらリンに飛びついた。
「こらっ! 抱き着くな! 殺すぞ、小娘!」
「わー! リンのほっぺ、固い!」
「舐めるな! 本気で殺すぞ!」
頬をぺろぺろと舐められ、リンは本気で抵抗している。
リーリスはその様子を少し離れた場所で、穏やかに見つめていた。
「……これは」
俺は、この光景を見渡して口を開く。
「俺たちの目指す世界の、一歩かもしれない」
「というと?」
ジータが、珍しく素直な調子で聞き返す。
「俺たち三組が協力して、飢餓化を倒した。見てみろ、この景色を」
俺はゆっくりと周囲を見渡す。
「いがみ合う事もなく、人間と獣人が対等に、同じ場所に立っている」
エリィは笑い、リーリスはそれを見守り、
リンはエリィを引き剥がそうとしてジタバタしている。
俺たち人間三人も、立場や上下関係を忘れて言葉を交わしている。
「……っふ」
ジータは眼鏡をクイッと押し上げ、小さく笑った。
「なるほどな。あんたの目指す世界ってのは、こういう景色か」
「この場の皆が笑っている。いい景色だ。やっぱり」
「僕とリンは笑っていないが」
「いやいや、ジータさん、さっき笑ってましたよ?」
「笑っていない!」
「笑ってましたって。ねーノアス」
「……ああ。少しな」
「ほら!」
ジータとランの言い合いすら、どこか楽しげに聞こえる。
俺たちは勝利した。
誰もいがみ合わないこの空間が、今は心地よかった。
その後、俺たちはヒーロー協会へ戻った。
そこには国王が待っており、蛇の飢餓化だった獣人は依頼主の元へ返還される事になった。
「よくやってくれた……」
国王は心の底から安堵した表情を浮かべる。
「だが、安心はできないんじゃないのか」
俺は静かに言う。
「飢餓の始祖を倒した訳じゃない。ただの一体を無力化しただけだ」
「確かにそうだ。だが、その“一体”が重要なのだ」
国王はもじゃもじゃの頭を掻きながら続ける。
「被害が最も大きかった存在だからな。それに――ノアスたちに感化され、多くのヒーローが今、飢餓化の制圧に協力的になっている」
「……」
「今までで一番、国が一つになっている気がするのだ」
「さあ、仕事はやったぜ」
俺は一歩前に出る。
「俺と話した時の事、覚えているか?」
「……ああ」
「飢餓の始祖について教えてくれ」
この場にいる全員が、固唾を呑んだ。
視線は自然と、国王の口元に集まる。
「……獣人は、聞かない方が良い」
「は?」
最初に噛みついたのはリンだった。
「ふざけるなよ、王様」
舌打ちし、胸倉を掴みかけたリンを、ジータが寸前で止める。
「落ち着け」
「これは国の今後に関わる話だ。その条件を飲めるなら、話そう」
「そりゃあ、ないぜ」
俺は一歩も引かなかった。
「俺たちは皆で協力して倒した。それに、俺たちの目指す世界は――」
国王を真っ直ぐ見据える。
「獣人も人間も、区別や差別のない世界だ」
「……」
「ここで頷いたら、俺たちは自分たちの世界を否定する事になる」
国王はしばらく黙り込み、やがて重く口を開いた。
「……この話をすれば、国は崩壊に向かう」
「それでも」
「私は国王として、国を守らねばならん」
「俺たちにも、譲れない世界があります」
沈黙の後、国王は深く息を吐いた。
「……分かった」
そして指を折りながら告げる。
「蛇の飢餓化を無力化した関係者――ノアスたちのペア。
口の悪いゴリラの獣人のペア。
そして、ライオンの獣人のペア。
その三組に、私の知る全てを話そう」
周囲のヒーローたちは渋い顔で顔を見合わせる。
「それでいい」
リンが一蹴した。
「命を懸けて倒したのは私たちじゃ。黙って待っておれ」
場の空気は、静かに張り詰める。
「なら、今から王室に来るのだ」
国王はそう言って踵を返した。
俺たちは、その背中を追い――
王室へと向かった。




