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蛇の飢餓化――奪われた過去と、進むしかない未来

「――!」


思わず瞼を見開き、時間が止まったように体が固まる。


足元が揺れる。

地震でも起きたかのように平衡感覚を失い、気付けば口元を押さえていた。


――吐く。


そんな錯覚すら覚える。


脳裏に蘇るのは、あの瞬間。

俺のすべてを奪った、あの恐怖。


ベルを殺した飢餓化。

それこそが――蛇の飢餓化だった。


「大丈夫、ノアス君? 顔色、すごく悪いよ」


何秒、いや何分だろう。

俺は酷い顔をしていたらしい。


エリィの声に、俺は無理やり口角を上げる。


「大丈夫。問題ない」


そう言って誤魔化した。


「蛇の飢餓化を筆頭に、多くの飢餓化が確認されている」


国王の声が続く。


「もちろん、蛇の飢餓化だけが特別という訳ではない。

ただ、タイミングだ。奴は今、最も力を持っていると考えられる」


「被害も大きい。奴を無力化すれば、多少は平和になるだろう。どうだ?」


「……どうだって言われても」


言葉が詰まる。


蛇の飢餓化を倒す。

それは俺の過去に、決着をつけるということだ。


だが同時に、恐怖が頭をもたげる。

もし――また、あの悲劇が繰り返されたら。


今度は、エリィを失うのではないか。


「やろう、ノアス君!」


即答だった。


「エリィ……」


俺が闇に沈むと、いつもエリィは光を差し込んでくる。


彼女は、蛇の飢餓化の本当の恐ろしさを知らない。

そのリスクを知らない。


それでも――


その無垢な笑顔を見ると、不思議と背中を押される。


「……分かった。対応しよう」


逃げることは許されない。

実績のあるヒーローである俺たちが断れば、それは職務放棄になる。


――今度は失敗しない。


その気持ちに賭けるしかなかった。


「頼む。この地図を渡そう」


国王が差し出す。


「蛇の飢餓化がよく現れる場所だ。参考にしてくれ」


「分かった」


地図を受け取り、俺は一歩踏み出す。


「国王。一つ、聞いてもいいか」


「ん、なんだい」


「飢餓の始祖についてだ」


空気が一瞬、張り詰める。


「獣人の長老に会った時、あなたも長老も、何かを知っているような口ぶりだった。

俺たちには知る権利がある。ヒーローの到達点だ。教えてほしい」


「……飢餓の始祖か」


国王は視線を泳がせた。


「話すこと自体は構わない。

今の国の状況を見ても、変化は必要だと思っている」


「だが、この場では話せない」


「なぜだ!」


「蛇の飢餓化を制圧した時、改めて声をかけてくれ。すまない」


誰に聞かれたくないんだ――。


「では、私は失礼する」


そう言って、国王は足早に去っていった。


胸に残る違和感。

だが、今は考えても仕方がない。


国王が去った後、俺は皆に向き直った。


「聞いてくれ」


協会に集まったヒーローたちの視線が集まる。


「俺たちはこれから、蛇の飢餓化を倒しに行く」


「だが今、町では飢餓化が頻発し、食料も満足に行き渡っていない」


「今こそ、人間と獣人が協力すべき時じゃないか」


「もう、いがみ合うのはやめよう。

それで誰かが幸せになるか? ならないだろ」


人間たちは苦い表情を浮かべ、

獣人たちは今にも噛みつきそうな視線を向けてくる。


「そんなんだからダメなんじゃ。お前は……人間たちは」


「……リン?」


奥から聞こえた声。

以前、因縁のあった獣人――リンだ。


好戦的な笑みを浮かべ、前に出てくる。


「人間にデメリットはないじゃろ。弱者故に逆らえん。

私ら獣人は、その弱者と組まねば力を出せん」


「最悪の悪循環じゃ。

なあ、ノアス。どうやって協力しろと言う?」


以前とは違う空気だった。

あの決闘が、彼女を変えたのだろう。


「俺たちは、結果を出してきた」


俺は真っ直ぐ答える。


「多くが出来なかった飢餓化の制圧を成し遂げてきた。

そして、やがて飢餓の始祖も倒す」


「いがみ合っているだけじゃ、成し得ないことだ」


「……それじゃ、ダメか」


リンはしばらく黙り、やがて口を開く。


「獣人は上下関係に厳しい」


「だから私は、お前たちに敗北し、恨むのをやめた」


「証明してみせろ。

いがみ合う現状では成し得ない、飢餓の始祖の討伐を」


「そうすれば、多くの獣人は耳を傾けるじゃろう」


獣人たちが、少しずつ頷き始める。


「……分かった。やってみる」


差し出された、たった一つのチャンス。

俺はそれを、必ず掴む。


「私らも後から向かう。先に行っとれ」


俺たちはヒーロー協会を後にし、

蛇の飢餓化が待つ場所へと向かった。

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