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飢餓の始祖を倒したその先で

「なら――」


「話を最後まで聞け」


長老は杖を床に軽く突き、俺の言葉を遮った。


「儂もな、皆が平等な世界というものを見てみたいとは思っておる」


意外な言葉に、思わず息を呑む。


「この数百年、お前のような思想を持つ人間や獣人は少なからずおった。

だが結局、皆が皆、儂を頼るだけじゃった」


長老は小さく鼻を鳴らす。


「それでは話にならん。

お前たちは考えておるのか? その世界を成すために、まず何が必要かを」


「……」


「教えてみろ」


試されている。

俺はそう感じながら、はっきりと言葉を選んだ。


「俺たちは今、この国を苦しめている元凶――

飢餓化、その源とも言える飢餓の始祖を倒すことを目標にしています」


「俺たちの関係性で、それを成し遂げられれば、多くの者が考えざるを得なくなる。そう信じています」


「飢餓の始祖……か」


長老は目を伏せた。


「……何か知っているんじゃないのか」

「この王国の始まりから生きているなら」


「ああ、知っておる」


その一言で、心臓が跳ねた。


「飢餓の始祖が何者で、何を抱え、何を目的に動いているのかもな」


「教えてくれ!」


思わず声が大きくなる。


「俺たちは、飢餓の始祖を倒さなきゃいけないんだ!」


「私からも、お願いします!」


エリィも頭を下げる。


今まで謎に包まれていた存在。

その正体を知る者が、ようやく目の前に現れた。


気付けば、俺は前のめりになり、長老の手を掴もうとしていた。


――バチン。


「っ!」


軽やかな身のこなしで避けられ、次の瞬間、杖で手首を叩かれる。


「教えん。絶対に教えん」


「なんでですか!」


エリィが食い下がる。


「意地悪ではない」


長老は静かに言った。


「言いたくないのだ。

儂も、今の国王も、歴代の王たちも……この状況をどう打破するか悩み続けてきた」


「だが答えは出ておらん。

そんな曖昧なまま、中途半端な知識を渡すことはできん」


そして、真っ直ぐこちらを見る。


「一つだけ言おう。

飢餓の始祖を倒すということは、世界に大きな革命を起こすということじゃ」


「幸か、不幸か……今はギリギリで成り立っておる。

こうして国は滅びず、生活もできている」


「それでは、不満か?」


「当たり前だ」


俺は即答した。


「こんな地獄みたいな状況で、満足なんてできるか」


「刻一刻と人は死に、飢餓に苦しみ、泣いている」


拳を握る。


「そんな苦しみから救うためにヒーローがいる。

だから俺たちは、絶対に飢餓の始祖を倒して世界を変える」


「私も同じです!」


エリィも声を張り上げる。


「ギリギリじゃなくて、みんなが笑って、お腹いっぱい食べられる世界にしたい!」


長老は、しばらく黙っていた。


やがて、ふっと息を吐く。


「……そうか」


「ならば、やってみるがよい」


「もし」


その瞳が、鋭く光る。


「飢餓の始祖を倒し、それでもなお、お前という存在が儂の前に立つのなら」


「その時は、多くの獣人に声をかけよう」


「儂は、そこまでじゃ」


「その先は――お前たちの技量次第だ」


「ああ。分かった」


「ありがとうございます!」


何か、引っかかる言い方だった。

だが、それが何かは掴めない。


「なら、さっさと去れ」


長老は手を振る。


「儂は、こんなに話す獣人ではない。ほれ、しっし!」


半ば強引に、俺たちは外へ追い出された。


――扉が閉まる、その直前。


「……お前さんも、つくづく報われんのう。飢餓の始祖よ」


天井を仰ぐ、どこか寂しげな長老の横顔が見えた。


ガチャリ。


扉は完全に閉じる。


「……今の、見た?」


エリィに聞いたが、彼女は首を振った。


「何も見てないし、聞いてないよ?」


「……俺の見間違いか」


胸の奥に、モヤが残る。

だが、考えても答えは出ない。


「とりあえず、やることは一つだ」


「うん。飢餓の始祖を倒す」


「……って、その前にどうやって見つけるんだ、って話だけどね」


エリィが苦笑する。


確かにその通りだ。

何百年も、多くのヒーローや学者が探し続けてきた存在だ。


「まずは、飢餓化を倒していこう」


「最近、増えてる。何か関係があるかもしれない」


俺たちはヒーロー協会へ向かい、仕事を選んだ。


以前よりも、飢餓化の依頼は明らかに増えている。

俺たちは勝率を優先し、人間の飢餓化、特に幼い個体を中心に制圧していった。


油断はしない。

徹底的な事前調査とシミュレーション。


その結果――


三か月で、十体。


異例のペースで飢餓化を無力化した。


俺とエリィの名は、一気に広まる。

賛同する者もいれば、思想を知って離れる者もいた。


「今日も、無理せず頑張ろうね!」


「ああ」


いつものように協会を訪れたその日。

異様な空気が漂っていた。


ヒーローたちが、一か所に集まっている。


「来い、ノアスたち!」


呼ばれ、前へ進む。


「こいつがノアスです。国王!」


「……国王?」


エリィが目を見開く。


「お前たちが、今最も飢餓化を制圧しているヒーローか」


そこにいたのは、赤い服を纏った、優しそうな髭の男だった。


「感謝している」


国王は穏やかに言う。


「だからこそ、君たちに依頼したい仕事がある」


「仕事?」


「半年以上前に姿を消した、危険な存在だ」


国王は、静かに告げた。


「――蛇の飢餓化」


「――!」

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