飢餓の声と、試される牙
「こちらこそ、元気そうで良かったよ」
「飢餓化を経験したヒーロー、か。そう言えば会ったことないな」
今まで多くの飢餓化と対峙してきたが、
こうして“元に戻った状態”で再会したのは、確かに初めてだった。
「私も人生で初めて飢餓化になりました!」
やけに明るい声に、思わず笑ってしまう。
「だろうな。
ところで飢餓化って、どうやったらなるんだ?
煽りじゃなくて、純粋に知りたい」
「えっとですね……」
リーリスは少し考えてから、語り出した。
「私たち、狩りがあまり上手くなくて。
それで空腹が続いて……私は強い獣の血を引いているのに狩りが下手な自分が嫌になって、独りで家出みたいなことをしてしまったんです」
「それで、倒れたと」
「はい。空腹で倒れた時……不思議な声が聴こえたんです」
「「声?」」
「女性みたいで、中性的な……
『ごめんなさい。ごめんなさい』って、ずっと」
――謝罪?
飢餓化と関係する存在なら、
それは飢餓の始祖、もしくは限りなく近い何かのはずだ。
だが、謝る理由がない。
「そこからは、ほとんど覚えていません。
鎖で繋がれているみたいに身動きが取れないのに、
自分が暴れているのを外から見ている感覚で……」
「意識だけ、別の場所にあるような?」
「そんな感じです。
気づいたらヒバナさんの所にいました」
なるほどな……。
「飢餓化か。一回なってみるのも――」
「ちょっとノアス君!」
「冗談だよ」
自我の暴走。
そして、何者かの“声”。
因果関係は、間違いなくある。
「おい、リーリス! 急に走り出すな!」
駆けてきた細身の男が、俺たちの前で膝に手をつく。
背は高いが、線は細く、覇気は薄い。
「ラン! 見つけたの!
私を助けてくれたノアスさんとエリィさん!」
「……あなた達が」
ランは深く頭を下げた。
「リーリスを助けてくれてありがとうございます。
俺たちが未熟だったせいで……」
「大丈夫だよ。気にしない、気にしない!」
エリィが笑って手を振る。
「噂は聞いています。
“区別や差別のない世界”を目指しているヒーロー……本当ですか?」
「ああ」
「やっぱり。
俺たちと、似ていますね」
「そうなの!」
エリィの尻尾が勢いよく揺れた。
「俺たちは『全員が笑える世界』を目指しています」
確かに、似ている。
人間と獣人。
互いを信頼し、自然に並び立つ姿は、どこか俺たち自身を映していた。
「だから……もし良ければ、友達になってほしいです」
差し出された手を、俺は強く握った。
「是非」
初めての言葉。
初めての関係。
その直後だった。
「あの……お願いがあるんですが」
リーリスが、少しだけ言いにくそうに続ける。
「勝負、してほしいんです」
「今?」
「はい。
協力するなら、その前にお互いの実力を知っておきたい」
……なるほど。
「いいぜ。今からやろうか」
逃げれば、格は決まる。
「では、お願いします」
人のいない場所へ移動し、互いに憑依する。
ライオンのたてがみ、鋭利な爪。
大地をえぐる圧倒的な威圧感。
――王の咆哮。
一瞬、世界が止まった。
動けない。
その隙に、ランの爪が俺を捉える。
激痛。
だが――
俺は、笑った。
「……効かないね」




