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牙を研ぐ者たち

翌朝、太陽が昇り始める頃には、俺たちはすでに行動を開始していた。


朝は動物たちが一斉に動き出す時間帯だ。

空腹に耐えきれず襲いかかってくる獣と遭遇する危険も高い。

正直、まだ瞼は重かったが、それでも足を止める理由にはならなかった。


ラグナロク王国へ辿り着いた時刻は、まだ午前中。

相変わらず王国の上空には、負のオーラでできた雲が垂れ込めているように見える。


「待たせたな、ヒバナ」


俺たちは真っすぐ、依頼主であるヒバナのもとへ向かった。


「お前たち! 無事だったか!」


外で呑気にタバコを吸っていたヒバナは、俺の声を聞くなりそれを放り捨て、こちらへ駆け寄ってくる。


ゴリラのような体格のヒバナは、そのまま俺たちを包み込むように抱きしめた。


「おい、やめろ! 食料が落ちるだろ。それに暑苦しい!」


俺が必死に抵抗する一方で、エリィは苦笑いを浮かべたまま流れに身を任せている。

力ずくで押し返して、ようやく解放された。


「悪い悪い。思ったより早かったからな。お前たちが心配で、夜しか眠れなかったぞ」


「十分だろ。それ。ていうか、さっきまで随分のんびりしてたように見えたけどな」


「意地悪言うな。本当に心配してたんだ」


その言葉に嘘は感じられなかった。

俺は小さく息を吐き、これ以上からかうのをやめる。


まずは洞窟で得た食料をヒバナへ渡した。


「……思ったより多いな。やっぱり穴場だったか」


腰に手を当て、「わっはっは!」と豪快に笑うヒバナ。


「使い方次第では、定期的に食料を確保できる場所になりそうだ。それと――」


俺は背負っていたライオンの獣人を地面へ下ろす。


「まだ眠ってるが、飢餓化してた獣人だ」


「……マジか。本当に無力化したのか」


驚きと喜びが入り混じった表情で、ヒバナは丁寧に受け取った。


「私たち、頑張ったんだよ! ね、ノアス君!」


胸を張り、褒めてほしそうに鼻を鳴らすエリィ。

その様子は、まるで幼い子供のようだった。


「すげえよ。結成初戦で飢餓化を倒すなんてな」


「で、報酬だ。金も頼む」


「お、おう。これが報酬だ。獣人は相棒の人間に返しておく。飯を食わせてからな」


そう言ってから、ヒバナは思い出したように続ける。


「そうだ、お前たち。食料は何割欲しい? 協会を通してないから、多少多めに出せるぞ」


「ほんと!? やったー! 久しぶりにお腹いっぱい食べられる!」


エリィは嬉しそうにお腹を擦る。

口元には、隠しきれない涎まで浮かんでいた。


「俺はいい。エリィだけ食べていけ」


「え? ノアス君、お腹空いてないの?」


「ああ、大丈夫だ」


少しの空腹はあるが、強い欲求はない。

それに――俺が我慢すれば、その分誰かが救われる。


「……無理しすぎて、飢餓化しないでよ」


「そこまで馬鹿じゃないさ」


「まあまあ。こいつは昔からこうなんだ。自分が抑えて、他人を生かすタイプだよ」


ヒバナの言葉に、エリィは少し不安そうな表情を浮かべながらも頷いた。


エリィをヒバナに任せ、俺はその場を後にする。


賑やかな存在がいないだけで、妙に静けさが身に染みた。

亡霊のように彷徨っていた頃は、沈黙に慣れていたはずなのに。


「……エリィには感謝だな」


あいつが笑っているなら、それでいい。


だが、俺の思考は自然と洞窟で遭遇した二人のヒーローへと向かっていた。


ジータ。

そしてリン。


情報を得るため、俺はヒーロー協会へ向かう。


協会では登録ヒーローの基本情報を閲覧できる。

能力の詳細は伏せられているが、それでも十分だった。


「……一年前に結成。完全実力主義のペア、か」


冷静沈着なジータ。

好戦的で問題行動の多いリン。


「ヒーロー同士の戦闘は無敗……なるほどな」


ページをめくり、さらに読み進める。


「ジータの好物は蕎麦……。リンの好物は……どうでもいいな」


本を閉じ、協会を後にする。


それから俺は、彼らがヒーロー同士で対峙した場所を巡り、目撃者を探し続けた。


一日では足りない。

二日、三日……五日目。


ようやく、被害に遭ったヒーローの一人と接触できた。


そこから芋づる式に情報は集まっていく。


「……なるほど」


リンは圧倒的な怪力と戦闘センスを併せ持つ。

正面から挑めば、まず勝てない。


ジータの能力は『轢死』。

触れた物体を巨大化させ、一直線に突進させる能力。


「生物は対象外……つまり飛び道具特化か」


遠距離はジータ。

近距離はリン。


分かりやすく、そして厄介な連携だ。


「……でも、勝ち筋はある」


準備なしでは無理だ。

だが、準備さえ整えば――。


俺は薬屋へ向かい、質の悪い、だが強力な薬を揃えた。


それで今日の準備は終わりだ。


帰り道、ふと思い立ってエリィの住まいへ足を運ぶ。


使われていない倉庫を改造した小屋。

埃っぽく、決して快適とは言えない。


ドアをノックするが、返事はない。


「……仕方ないか」


俺は踵を返し、その場を後にした。


胸の奥で、静かに闘志が燃えているのを感じながら。

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