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劇薬P

作者: たまき

 夜半過ぎ。私は、眠れずにいた。これで3日目だ。朝日を浴びるまで退屈だが、携帯を見ると余計に目が覚めると聞いた事があったので、見ないでいた。読書をすると眠くなると聞いた事があったので、試してみたら嘘だと分かった。

 どうしたものか……と思いながら、朝を待つ。


 陽の光を浴びた私は、仕事に行く準備をする。

紅茶を入れ、ロールパンを食べる。


「紅茶のせい……」


 自然と出た言葉だった。私は、なぜか「茶」という類のものは脳を刺激し、眠れなくするという漠然的な思考の持ち主であった。


 起床してからの時間経過はあっという間で、もう、会社に向かわなければいけない。

 自転車に乗って行ける距離にあるから、他の社員に比べて交通費が少ない。まあ、電車や車で1時間かかる遠方よりかマシかなぁと思ってはいる。


 自転車を漕いでいると目の前が暗くなり、身体の力が急激に抜ける感覚に陥った。


「なにこれ……」


 うわ言を放つ。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳


「目を覚ましましたか?」

「あなたは、幸運な人ですね。自転車事倒れそうになっている所、屈強な通行人に助けられたんですよ。ハハハ」


 誰だこの人……

 メガネをかけて白い服を着ている。

 今の気持ちを言語化するには時間がかかりそうだ。


「うわの空ですね。また、様子を見に来ますから」


 屈強な通行人……プロレスラーかしら……それともお相撲さん?後は……地球外生命体。


 無傷でいられた事は、本当に奇跡だ。今年の運を使い果たしたのではないだろうか。


 それにしても、なんで自転車事倒れる症状が出たのだろう。そうか。よく眠る体質の私が、3日も寝ていないからだ。



 カーテンを開ける音がして、先程の人間が入ってきた。

「だいぶ、良い状態になりましたね。ハハハ」

 私の苦手なタイプだ。ニコニコし過ぎている人。

「はい。良くなりました」

 大きなあくびをすると、

「もしかして、寝不足ですか?」

 よく見ると、医者だと分かった。遅すぎる判断だ。

「はい。3日も寝ていません」

 ゆっくり起き上がった。また、あくびが出る。

「あら〜重症ですね~睡眠薬を処方いたしましょう」

 眉間にシワを寄せ、心配そうに話す。

「よろしくお願いします」


 また倒れたら厄介なので、タクシーを呼んで帰った。


 私が救急車で運ばれた事を知った同僚から、メッセージが来ていた。

「課長が、明日1日休みなさいって言っていました。無理せずにゆっくり休んでください」

 1日?

 一週間程休みたい気分だった。


 夕飯後に、睡眠薬を飲む。

 すぐに睡魔が襲ってきた。


✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳



「山口くん!山口くん!起きたまえ!」


 え?課長の声がする……起きなきゃ、早く起きなきゃ。

 重い瞼を開けた。


「やっと、目覚めたかね。びっくりしたぞ〜床に転がってるんだもの」

「なぜ、課長がここに?」

 眠気眼で、ゆっくり起きた。

「なぜって、真面目な君から連絡来ないから、どうも様子がおかしいって思って、大家さんに言って中に入ってもらったんだよ。そしたら、倒れてるから救急車を呼ぼうとしたら、君、大きないびきかいてたから寝てたんだって思って……」

 早口言葉が苦手な課長が、流暢にそして素速く言い放ったものだから驚いた。

「お手数かけてすみません……」

 課長は、ソファに座るよう促した。

「勝手に入って悪かったな。倒れてる君を見て心臓が止まるかと思ったよ……で、どうして床に寝てたんだ?」

 私も疑問に思った。急に睡魔が襲って……それから記憶がない。

「実は、自転車事倒れて救急車に運ばれる前の晩から遡ること3日間一睡もしていなかったんです」

「何!?それは……ひどいな……」

「だから、医者に睡眠薬をもらって飲んだわけです。そしたら、課長に起こされまして今に至ります……」

「3日も寝てなかったから強い睡眠薬処方されたのかな〜」

 課長は、天井を見つめて言った。

「その、睡眠薬医者に説明して返した方がいいな〜」

「俺が、その病院に連れてってやるから。今すぐ行こう!」

 行く気満々なので、少し怠い身体にムチを打って病院へ向かった。



 待合室で待っていると、すぐに呼ばれた。


「あれから、ぐっすり眠れましたか?」

 例の医師は、ニコニコしながら話す。

「ぐっすりと言いますか……死んでると勘違いした課長に起こされました。起こされなかったら、いつまで寝てたでしょう……」


 医師は、

「プラセボなのに?そこまで眠りましたか!アハハハ!」

 

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