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名前あそび  作者: 一奏懸命
第1章 配信します
9/42

第07話 料金通知


「まただ……!」

 充太はメールが届いてすぐにそれを開き、また何かが起きることを確信していた。



< 0001 > D

From:☆♪※!!?

Sb:納期限のお知らせ

添付:なし

―――――――――――

吹田美知留様

お知らせいたします。吹

田様がご利用になられま

した、1,110円が未納で

す。お支払いを早急にお

願いいたします。



「今度は吹田さんかよ!」

 直後、メールボックスが強制的に閉じられ、電話が鳴り始めた。

「吹田さんだ!」

 充太は慌てて通話を開始する。

『もしもし! 三雲くん!? わ、私! 吹田です!』

「もしもし? 吹田さん!? 大丈夫か? 無事なんだな?」

 しかし、美知留の応答はまったくかみ合わないものだった。

『三雲くん……?』

「もしもし! 吹田さん? 聞こえてる? 俺だよ、三雲!」

『ひいっ!?』

「吹田さん! 落ち着いて、俺だってば!」

『や、やだ!』

 明らかに困惑して、それ以上に恐怖でどうにかなりそうな様子であることが十分、充太にも伝わってきていた。

「吹田さん! どうしたんだよ、なぁ! 落ち着いてくれよ!」

『なんで切れないのよ! も、もう!』

「切っちゃダメだ! どうしたんだ!? 話してくれないと全然わかんない。話がそもそも、かみ合ってないんだ! 俺に電話してることは間違いないんだよな?」

『いやああああああああ! こ、これ……! いやああああああああああ!』

 そして乱暴に放り投げるような音がした後、通話が切れた。

「……。」

 充太は愕然としたまま、部屋の真ん中で立ち尽くしていた。そして入れ替わりで、曽根あずさから電話が入る。

『もしもし!? 三雲くん!? メール見た!?』

「見た! それに今、吹田さんから電話があったけど、なんかパニくってて、すぐに電話が切れたんだ!」

『えぇ!?』

 あずさが悲鳴に近い声で叫んだ。

「とにかく、一度吹田さんの家へ行きたい! 曽根さん、案内してくれるか!?」

『わ、わかった! じゃあ中央公園の北口で。あ、あたしだけじゃ不安だから、徹子も連れて行く!』

「万が一の時のためにこっちは圭一と夏哉を呼んで行く! じゃあ、中央公園北口で!」

 充太は自転車の鍵を取り、勢いよく自宅から飛び出した。今日子が「どこへ行くの!?」と言っていたのが聞こえたが、今は構っている余裕など正直、充太にはなかった。

 充太の自宅から中央公園までは、自転車で5分ほどしかかからない。その間、充太は何度も美知留に電話を掛け続けたが、応答はなかった。

「三雲くん!」

「曽根さん! 土山さんも!」

「名塩くんと八尾くんは!?」

「もうすぐ来る! なぁ、吹田さんの家ってどこなんだ!?」

「あのタワーハイツ真砂よ」

 タワーハイツ真砂。2009年の4月にできた、砂原市内で値段も階層も最も高いマンションである。美知留の家がお金持ちだとは充太も聞いていたが、まさかそこまでとは思ってもみなかった。

 圭一と夏哉が合流し、5人で美知留の住むタワーハイツ真砂に到着した時には、美知留の連絡が充太に入ってから40分が経過していた。

「吹田さんは何階?」

「最上階の15階よ。エレベーターで上がるの」

 あずさの案内で室内に入る充太たち。

「オートロックじゃないか」

「大丈夫。あたしと徹子、美知留から合鍵もらってるの。これで暗証番号もわかるし」

「最先端だな。そんなシステム聞いたことねぇや」

 あずさは手慣れた様子でオートロックを解除した。そしてエレベーターで美知留の住む15階へと向かう。

「ここよ。1501号室」

 着くなり、充太はインターフォンを押した。

「吹田さん!」

 しかし、応答はない。

「……あ」

 哲子がドアノブを回すと、ガチャリと音がしてドアが開いた。

「美知留……?」

 あずさが不安げに中へ向かって声をかける。

「入ろう」

 充太が意を決して玄関に入った。

「いいのか?」

 夏哉が心配そうに聞く。

「吹田さんに何かがあったら、大変だろ?」

「……うん」

 圭一が続いた。そしてあずさ、徹子、夏哉と続いた。

「水の音がする」

 洗面所あたりから水の流れる音がしていた。明かりもついている。

「お風呂?」

 あずさがホッとした様子で呟いた。

「マズいだろ、男が見るのは」

 圭一が照れ笑いを浮かべた。

「じゃ、私が行く」

 徹子が洗面所を覗いた。

「誰もいないわ」

「え? 水が出てるのに?」

「出しっぱなしって感じ……」

「リビングは?」

 夏哉に押されるようにして、あずさがリビングを覗き込んだ。

「いない……」

 あずさに続くように充太、徹子、夏哉、圭一がリビングに入った。

「携帯が落ちてる」

 圭一が携帯電話を拾った。充太は「ゴメン」と言ってから携帯電話を開いた。やはり、充太の先ほどから掛け続けた着信の履歴が残っていた。

「よく見たら……なんか、部屋荒れてるね」

 徹子が不安げに呟く。

「まさか……何かあったのか?」

「早く探そうよ」

 あずさがそう言ったときだった。

 バァン!と重い鉄の扉のようなものが開く音が、部屋の真上から響いてきた。

「なんだ!?」

 直後、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「いやあああああああああ!」

「み、美知留の声!」

 あずさが大声を上げる。

「どこだ!?」

「上……屋上じゃない!?」

 徹子がそちらへ向かって走り始める。

「待て! 一人じゃ危ないだろ! 俺も行く!」

 圭一が走り出した。

「おい!」

 充太が後を追おうとしたが、圭一が「何かあった時のために、充太、夏哉、曽根はそこにいて!」と制止したので充太は仕方なく、部屋に留まった。

 圭一と徹子が部屋を出てすぐにそれはまた響き渡った。

「いやー! いや! 来ないで、来ないで……!」

 充太はベランダに飛び出し、屋上部分を見上げた。

「クソッ! 暗いし、屋根が邪魔で見えねぇ!」

 そうしているうちにも、美知留と思われる悲鳴は悪化の一途を辿る。充太はいたたまれず、屋上へ駆け上がろうと部屋の中に入った。

 直後、間髪入れずにその瞬間はやって来た。

「ヒッ! いい、いやあああああああああ!」

 バギン!と鉄の折れるような音が充太たちの耳にこだました。

「何よ、今の音……」

 音に驚いた充太、夏哉、あずさが振り返ったと同時に目に映ったもの。


 それは、限界まで目を見開いて、充血させた目をした美知留の姿だった。


「……!」

「……あ」

 そして、それはスローモーションのようにゆっくりと、変化していった。カチリと充太、夏哉、あずさと目を合わせた美知留は、そのまま姿を消していった。美知留の姿が消えた瞬間、スローモーションは終わりを告げた。

「きゃああああああああああああああああああああああああ!」

 あずさが悲鳴をあげると同時に、屋上からも徹子の悲鳴と圭一の「吹田ああぁ!」という叫び声が聞こえた。

 充太と夏哉が呆然としている間に、下からドシャッ……という鈍い音が響いた。

「……ウソだろ!?」

 充太は急いで下へ降りようとする。

「待って、俺も……!」

「夏哉は曽根さんを頼む!」

 エレベーターに乗り、今しがた入ってきたオートロックのドアを抜けて、充太は美知留が落ちていったと思われる場所へ駆け込もうとして、女性の悲鳴が上がるのを聞いた。

 買い物帰りのおばさんと、その旦那さんと思われる男性。彼らと充太の間に、足がちぎれ、頭が落ちたトマトのようにはぜ割れた、吹田 美知留の死体が、横たわっていた。










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