第05話 呟き
俺はそんなつもりなかったんだ。
ちょっと煽ってみただけだ。
「ヤッちまえよ! 付き合ってんだろ!?」
あそこまで、皆が同調してくるなんて思わなかった。
私は本来、止める立場にあったのに。
わかってた。私が彼女にかなうのは、頭だけ。いや、それすら危うかった。
その存在が憎かった。
だから、壊したかった。
遠巻きに見ていれば、罪悪感なんてまったくない。
あれだよ。
赤信号、皆で渡れば怖くない。
私に持っていないものを持っているあの人が憎かった。
あの人のこと、真剣だったのに。
あの人は全然私なんかに見向きもしてくれない。
いいじゃない。アンタたち、結ばれてるんでしょ?
そのままくっついちゃえば……?
そう思っている自分があの時、いた。
オレだってヤッたんだもん。
アイツらだって、普通じゃないか?
付き合ってるんだしさ。
ただ、公衆の面前かそうでないかの違いだけ。
そうだろ?
名前の順で近かっただけじゃない。別にあたしはあなたに興味なんてない。
あなたもそうでしょう? 表面だけいいのなんて、嫌い。
綺麗なあなたを汚したい。穢したい。
そんなの、簡単。
集団心理を使えばいい。