エピローグ 名前あそび
「起立! 礼!」
生徒の号令に合わせ、彼――三雲 充太(鹿児島県砂原市立真砂高等学校 2年4組担任・27歳)はお辞儀をする。
「おはようございます。それじゃ、出席取るぞ。明石 未優」
「はい」
「伊丹 佑輔」
「へーい」
「こら、ちゃんと返事しろ。次、小野 稚絵美」
「はぁーい!」
「加西 龍児」
「うぃっす」
順番に生徒の名前を呼んでいく。
「豊岡 芽衣」
その女子生徒の名前を呼んだ瞬間、静まり返る。
「豊岡? 欠席か? 珍しいな……」
充太は出席簿に×印を入れる。
「クッ……」
突然、小野稚絵美が笑った。
「どうした? 小野」
「なんでもありませーん」
その時だった。
ブーッ。
ブーッ。
複数のバイブ音が響いた。メールか電話の着信であろうと充太は推察した。しかし、その数が異常だった。
全員が、教室にいる生徒全員が反応したのだ。
「メ、メールか?」
充太が驚いて生徒たちに聞く。
「みたいっすね。しかも、このクラス全員」
龍児が苦笑しながら言う。
すると、三木 茜が携帯電話を操作していた。
「こら、三木! いちおうホームルームなんだから携帯を触るな!」
充太はすぐに茜のところに行き、携帯電話を取り上げる。取り上げたと同時に、ディスプレイが充太の視界に入る。
< 0001 > D
From:☆♪※!!?
Sb:納期限のお知らせ
添付:なし
―――――――――――
小野 稚絵美様
お知らせいたします。小
野様がご利用になられま
した、1,280円が未納で
す。お支払いを早急にお
願いいたします。
ドクン、と充太の心臓が鳴り始めた。不意に、どこからともなく声が聞こえた。
まだ、終わってないんだよ。
何かを隠しているかのような笑みを浮かべる生徒たち。
(二度と……同じことは繰り返さない)
充太は笑みを浮かべる生徒たちに聞こえないほどの声でそう、呟いた。