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名前あそび  作者: 一奏懸命
第4章 暴きます
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第36話 繋がった



「ゲホッ……! ホコリっぽぉい」

 知里が苦しそうに息をする。床と地面の高さは50センチほどしかない。ほふく前進で何とか進めるほどの高さしかない。制服はもうとっくの昔にドロドロになっていたが、充太も知里も、そんなことはまったく気にならなかった。

 充太の心臓が高鳴る。この先に、何があるのか。想像もつかないことが起きるのではないかという胸騒ぎはある。しかし、彼はそれから目を背けるつもりはなかった。

「有線ケーブルが……ここに」

 裕則が呟いた。

「ここ……ですか?」

 知里が不安げにその場所を見上げる。

「三雲くん、藤阪さん。ここがどの部屋か、わかるかい?」

「……俺はちょっと。知里は?」

 知里が首を左右に振る。

「地下もぐってきたから、あたしもちょっと自信ない」

「そうか……よし」

 裕則がグッと上の床部分を押し上げる。案外呆気なく、床がガタン、と音を立てて開いた。

「なんだ。簡単に開い……」

 裕則はそこで言葉を失った。

「安食さん?」

 ピクリとも動かない裕則に、知里と充太が声をかける。

「何かあったんですか?」

「……見るな」

「え? 聞こえないです。っていうか、あたし出たい……」

「見るな!」

 しかし、裕則が制するよりも少し早く、知里が床から顔を出してしまった。

「ひ……!」

「うっ……!」

 二人はそれっきり、声を出さなくなってしまった。壁一面に貼り付けられた写真。それは、充太と知里を除く、クラスメイト全員の写真だった。既に死亡したクラスメイトの写真は、赤マジックで塗り潰された上にバラバラに破り捨てられているものもあった。

 そして、その写真の隣に、充太は信じられないものが張り付けられているのに気がついた。

「な……つ、や……」

 行方不明になっていた、夏哉の遺体だった。

「夏哉……夏哉! うわああああああああ!」

「危ない!」

 ガツン!と音がすると同時に、充太の目が見開かれる。目の前でバットのようなもので殴られた裕則が、頭を抱えながらそのまま鈍い声を上げながら倒れこんでしまう。

「……。」

 充太は唇を噛み締め、目の前にいる人物の名前を呼んだ。

「勇……!」

 親友であり、忽然と姿を消していた勇の姿であった。しかし、その目は完全に血走っていて、坊主だった頭には髪の毛が、若干ボサついて伸び始めている。

「……何しに来たのかな?」

「……!」

 しかし、すぐに警戒心を剥き出しにする充太。裕則が頼れなくなった今、知里を守るのは自分しかないと奮い立たせているのだ。

 迫ってくる勇に、知里を触れさせないように充太は必死で後ずさりする。遂に下がりきれなくなったところで、充太の手にパソコンが触れた。

(これ……!)

 パソコン画面に映し出されていたもの。それは、明らかに自分の姿であった。そう。画面に映るのは、有線ケーブルのようなものでグルグル巻きにされている充太、知里、裕則の姿だったのだ。

(もしかして……この世界、全部虚構!? いや……どっちが現実で、どっちが虚構なんだ!?)

 目の前に広がる世界は、ひょっとしたらすべてが偽物なのかもしれない。充太はそう思い始めたのだ。少なくとも、先ほど充太と知里が迷い込んだこの世界は、別の学校(じげん)であることはわかっている。しかし、目の前にいる勇も、そして夏哉の遺体も、現実世界ではまったく異なるものである可能性があるのだ。

(なんとか判別する方法が……)

「充太!」

 知里の声で我に帰る充太。寸前のところで充太は身をかわし、難を逃れた。幸い、パソコンは破損しなかった。充太は必死でパソコンを鷲掴みし、そのまま知里のほうへ駆け寄る。

「走るぞ!」

「う、うん!」

「待て!」

 勇が必死で追いかける。充太は知里の手を引き、かつパソコンを落とさないように必死で走り続けた。

「振り払うぞ!」

「わかってる!」

 走り続け、どれだけ校舎内を駆け回ったのかわからなかった。ようやく勇を振り払い、図書室で充太はパソコンを置いた。

 データを必死で探し倒す充太。そして、彼は遂にそのフォルダを見つける。

「2年……4組!」

 充太はそのフォルダを開いた。すると、一気に大量の動画が出てきた。しかも、動画は保存されているものではなかった。リアルタイムに、撮影されているものだったのだ。

「これはどこの部屋だ……? 知里、わかるか……うわぁ!?」

 知里がいきなり、分厚い百科事典で充太を殴りつけようとしたのだ。

「知里!?」

「見るな……」

「知里!」

「お前がそれを見たら、あたしは……あたしはああああああ!」

 知里が百科事典をそのまま、充太に殴りつけた。

「グッ……!」

 彼の頭頂部を直撃した事典が、鈍い音を立てて床に落ちる。そのまま、殴られた部分から血が垂れ流れ始めた。

「うああああ、あああああああああ!」

「……!」

 充太はそこで気づいた。目の前にいるのは、知里ではないと。

「君は誰だ!?」

 ビクッと知里の体が動いた。

「君の探している人はここにいるのか!?」

「うう……ああああ、あああああああ!」

「答えてくれ!」

「あああああああああああああああ!」

「待て!」

 ビクッ、と知里と充太の体が動く。視線の先には、翔一がいたのだ。

「もう……もう、やめてくれ! 美穂子!」

 知里の体が動きを止める。そして、首から上だけがゆっくりと翔一のほうを向き、彼女はこう言った。

「翔……くん……」







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