表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名前あそび  作者: 一奏懸命
第4章 暴きます
37/42

第35話 狂気の空間



「あは……あはは、あはははは!」

 充太たちが心美の遺体を掘り出した頃、同じ学校のとある部屋で彼――柳本 勇が不気味な笑い声を上げていた。

「あはははは! 死んだ! 六地蔵も死んだ! やったああ~!」

 何かに取り憑かれたように、パソコンを複数操作する勇。

「次は誰にしてあげようかな~」

 ランダムに名簿をいじくる勇。

「でも、残ってるのは圭一と翔太と……創佑、健かぁ……。誰から殺してあげてもいいんだけどなぁ」

 つまらなさそうに肘を突く勇。

「野郎ばっか残っちゃって……失敗したなぁ。女子も残しといて、黄色い悲鳴とか聞きたかったのに」

 勇の顔が歪む。既に、彼の精神状態は完全に別の人間のようなものになっていた。正常な範囲はとっくに逸脱している。

「あはは! そうだ~……関係ないけど、ここは一丁藤阪に苦しんでもらうのもいいかも……あは、あはははは!」

 勇は甲高い笑い声を上げた。

「!」

 その声に知里が素早く反応する。

「ど、どした?」

「いま……笑い声がしなかった?」

 裕則と充太が顔を見合わせる。

「いや……俺は聞こえなかった」

 充太が首を横に振る。

「私も聞こえなかったが」

 裕則も首を横に振った。

「間違いないよ。いま、男子の笑い声が」

「気味悪いこというなよ。いったい誰がどこで笑うんだよ」

「こっち……」

 知里が何かに誘われるように歩き始めた。女子を一人だけにするわけにもいかないので、裕則と充太も慌てて後を追う。

「やっぱり、ここだわ」

 そこは男子更衣室の前だった。

「でも、さっきここ調べてももぬけの殻で……」

「……。」

 知里はそっと床に耳を当てる。

「聞こえる」

「な、何が」

 充太の顔が引きつった。

「声」

「……!」

 いよいよ彼らの顔が青ざめる。

「だ、だってここ、1階なのに……」

「あたしだって信じられないけど、聞こえてくるんだもん」

 充太が後ずさりして壁にもたれかかる。その拍子に、額に入っていた古ぼけた写真が落下した。

 ガシャン!と音を立ててそれが落下する。

「……それ」

 知里が傍に駆け寄り、写真を拾い上げた。その写真には「竜砂高等学校校舎」の文字が記されていた。

「竜砂高校?」

 二人が首を傾げた。

「あぁ」

 裕則が思い出したように言う。

「それは、いま君らが通っているこの高校の旧称だよ」

「旧称……」

「それに……君らも聞いてるだろう? 君の担任の先生のこと」

「はい……」

「もしかすると……君らの先生の彼女だった子の遺体が見つかっていないことが、一番大きく影響しているんじゃないだろうか」

 充太と知里がハッとしたように顔を上げる。

「じ、じゃあその子の体を見つけてあげれば」

「事件は、何らかの動きを見せるだろう」

「……ちょっと待って」

 知里が呟く。

「どうした?」

「もしかしたら……この部屋の下に、彼女、いるんじゃない?」

「え!?」

 裕則と充太がこれにはさすがに大声を上げてしまった。

「だって、考えてもみてよ。この下は完全に土かコンクリートなのに、どうして声が聞こえるの?」

「……。」

「とにかく、あたしはこの下に何かあると思う。こうなったら、ドリルでも何でも持ってきて、思い切り掘るわ!」

 そう言って知里が走り出そうとしたときだった。

「待て」

 充太が動きを止めた。

「何?」

「床が……ここ、軋むぞ」

 充太、知里、裕則の立っている場所から2mほど動いた位置。そこの床が、なぜかちょっと不安定で柔らかい印象を受ける。

「……飛んでみる?」

 知里がおそるおそる充太に問う。

「あぁ……」

 充太がそっと知里の手を引いた。

「行くぞ」

「うん」

「……いっせぇのぉで!」

 二人が一緒に飛び跳ね、一気に着地したと同時だった。グラリと床が揺れる。

「危ない! 飛ぶぞ!」

「きゃあ!」

 二人がその場を離れてすぐ、床が崩れ落ちた。

「ゲホッ!」

「ウエーッ! ひどいホコリ……!」

 地煙のようなホコリが舞い上がり、ガラガラと床の崩れる音が響いた。それらがようやく晴れてきたと同時に、信じがたい光景が目に映った。

 完全に白骨化した、死体だった。

「いやああああああああああ! ま、またぁ!」

 知里が目を覆う。その白骨化した死体は、この高校ではない、セーラー服を着ていた。

「……この子は、どこの……」

 しかし、それ以上に恐ろしい光景が目に映る。死体であるはずの彼女の手元に、煌煌と灯りを放つパソコンが、何台も置かれているのだ。

「なんでパソコン……が……」

 裕則が恐る恐るパソコンを覗き込む。右端のパソコンには「助けて」、「死にたくない」、「ここから意地でも出てやる」、「殺したい」というような、かなり恐ろしい言葉が並んでいた。

 中央のパソコンには、メールソフトが開かれていた。

「まさか……ここから?」

 そして、左端のパソコンに裕則は目を移した。何かの有線ケーブルにつながれているようで、それは床下をずっと伝っていた。

「どこ行くんですか!? 安食さん!」

「この左側のパソコン……。これを辿れば、きっと今回の事件の根源に繋がるように思うんだ。追いかけてみる」

 裕則が崩れた床から下へ降りる。顔を見合わせ、それから充太と知里もうなずいて同時に言った。

「あたしも行きます!」

「俺も行きます!」

 覚悟はできていた。何が起きても、受け入れられるという、覚悟だった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ