第32話 罪の暴露
「さすが……高槻くんね」
創佑がクスリと笑う。しかし、その声の高さは創佑のものではなく、確かに素華たちの知る心美のものだった。
「驚いた?」
素華に語りかける創佑もとい、心美。素華は大きくうなずく。
「私も驚いてる」
「……。」
「まぁ……なんていうか。あなたたち、体は心配しなくても現実世界にあるの」
「そうなのか?」
圭一が安心した様子で聞き返した。
「でも、安心はできないのよ」
「なんで」
不安そうに素華が聞く。
「あなたたちの体は現実世界にあるけど……わかってはいると思うけど、精神はこの歪んだ世界に放り込まれたままなのよ」
「そんな……」
圭一が真剣な眼差しで心美に尋ねた。
「脱出する方法はないのか!?」
「いま……三雲くんと知里が現実世界にいるでしょう? 彼らに助けてもらうしかないわ」
「じゃあ、今すぐあの二人に接触すれば!」
「それができれば、とっくに私がやってあげてる」
「え……?」
心美は寂しそうな表情で言った。
「こちら側から、現実世界にはコンタクトできないの」
「そんな……」
利香がペタリと座り込んだ。
「じゃあ、俺たちずっとこのままなのか?」
翔太が泣きそうな声を上げた。
「そういうわけじゃないの」
心美が強い口調で言った。
「三雲くんたちが、あなたたちの体を見つけて……さえくれれば」
「じゃあ、その場所さえわかれば」
「でも、その前に……これを見て」
心美は創佑のズボンのポケットらしい場所から綺麗な水晶を取り出した。
「綺麗……」
思わず素華が呟く。
「あっ」
そして、その中に映ったのは怪しげに笑う勇と、コンピュータらしきものがたくさん置かれている部屋に寝かされている自分たち自身の体だった。
「何よ、これ……」
「勇が学校の空き部屋に作った、彼の部屋よ」
「……!」
翔太も圭一も言葉を失う。
「そんな……。勇……」
「勇の精神状態はもう……普通じゃないの」
水晶が別の場所を映す。すると、そこに映ったのは血の池と貼り付けにされた女性だった。
「きゃああああああああああああ!」
利香と素華が目を覆って悲鳴を上げた。
「だ、誰だよこれ!?」
圭一が口を塞ぎながら心美に聞いた。
「勇の……お母さん」
「こっ……殺されたのか?」
翔太の問いに心美は小さくうなずいた。
「これで何かが外れた勇は……覚えてないだろうけど、あなたたちを次々とこうして拉致していったの」
「……。」
翔太が一番聞きたいことを口にした。
「俺たち……どうなるんだ?」
「……これを見て」
水晶が画面をアップする。すると、一番右にあるパソコンに素華、翔太、圭一、創佑の名前がある。クイズをクリアした利香は既に除外されているようだ。
「素華……残り13分? 俺は17分だ」
「あなたたちの……寿命よ」
「そ、そんな!」
素華が青ざめる。
「死ぬの!?」
心美が小さくうなずいた。
「いやああああああ! あああ……いやああああああ!」
素華が取り乱して泣き叫び始めた。
「ちょっと待てよ! なんとかしてそれを防ぐ方法はないのか!?」
「あるにはある」
心美が答えた。
「なんなんだ! 教えてくれ! 死にたくないんだ……」
そう言ってから翔太たちは自分の発言がいかに勝手であるかに気づいた。死にたくないと言いつつ、過去に自分たちは死にたくもなかった、目の前にいる心美を殺害し、さらには遺体を隠したのだ。
「私の……」
それは一番、隠していたいことだった。
「私の死体がある場所を、三雲くんたちに教えること……」
「な……」
それはつまり、充太と知里、勇以外のクラスメイト全員の罪を暴露するということに等しかった。
「そ、それがわかったらあたしたち、人殺しじゃない!」
利香が首を横に振る。
「でも! このままじゃあ俺たち……勇に殺されるぞ!」
「でも……でもぉ……」
利香が素華と抱き合って泣き始めた。
「泣いてる時間はないぞ!」
圭一が決意する。
「おい、三輪」
「何?」
圭一は拳を握りながら言った。
「お前の体のある場所……どうしたら、充太たちに伝えられる?」
「……いいのね?」
「あぁ」
圭一がうなずく。
「他の人たちは?」
「俺もいいぜ」
翔太が即答した。
「あ……あたしも! 死にたくない!」
利香が答える。
「……素華は?」
「あたしは……」
「六地蔵! お前、このままじゃあと10分足らずで本当に死ぬかもしれねぇんだぞ!?」
圭一が素華の襟をつかんで大声を上げた。
「……わかった」
素華が力なくうなずいた。
「三輪。頼む」
「……了解」
すると一瞬で創佑の体が力なく崩れ落ちた。
「創佑!」
「う……。しょ……うた……?」
「しっかりしろ」
「俺は……」
「いいから。ちょっと横になってろ」
翔太がゆっくりと創佑の体を寝かせる。
「心美は……?」
素華が心配そうに辺りを見渡すが、心美の気配は消え去っていた。
「心配するな。すぐに……なんとかなるさ」
圭一が素華の肩を軽く叩く。暗い校舎が少しずつ、不気味な音を立てて揺れ始めているのをあえて、5人は気づかないフリを通すのだった。