第31話 気づいて
「ねぇ……いま、声がしなかった?」
素華がそう呟いた。
「え? どこで」
創佑が聞き返す。
「玄関のあたりよ。声っていうか、悲鳴っていうか……」
「やめろよ。ただでさえ気味悪いのに」
「でも……聞き覚えのある声だし」
「じゃあ、見に行ってみるか?」
翔太が提案する。
「誰が行くのよ」
利香は苛立った様子で翔太に当たった。
「全員で行けば、不安はないんじゃないか? 残る側にも、行く側にも分かれた場合は不安がどうしても残ってしまう。曽根が今、いなくなってしまって先生もいない以上、俺たちこれ以上別行動は取らないほうがいいだろう」
「そうね……」
素華は小さくうなずいた。
「誰の声かが気になるし……全員で行こうか」
「そうしましょ」
創佑があっけらかんとした様子で言った。
「……?」
翔太が創佑の様子に少し不信感を抱いた。
「どうした?」
翔太の視線に気づいた創佑が振り返る。
「ううん。なんでもない」
翔太は自然な笑顔でそう答えておいた。
「そっか? じゃあ、俺から行くな」
「あぁ……」
創佑が歩いていく。慌てて不安そうに素華と利香が彼の後をついていく。翔太は鋭い目つきで創佑を見つめていた。
(どうしたんだよ。そんな怖い顔して)
圭一が心配そうに翔太に聞いた。
(創佑の様子が変だ)
(マ、マジ?)
健が青ざめた顔で聞く。
(ほぼ、間違いないと思う)
その時だった。
ブ――ッ。
ブ――ッ。
携帯電話のバイブ音だった。全員の表情が強ばる。ギクリと全員が体を震わせた。
< 0001 > D
From:☆♪※!!?
Sb:納期限のお知らせ
添付:なし
―――――――――――
高槻 翔太様
お知らせいたします。
高槻様はお支払いを拒否
されました。従ってお支
払いの意志がないと見な
し、弊社より罰則を付し
ます。
「え!? お、俺!?」
翔太が目を見開いた。そして見たのだ。創佑がニヤリと笑っているのを。
「お前……お前、やっぱり何か知ってるだろ!?」
激昂した翔太が創佑に掴みかかる。創佑はニヤニヤと笑ったまま、言った。
「お前だって、気づいてるんだろ? 俺たちの共通点……」
「……!」
「頭のいいお前のことだ。この名前あそびの意味合いくらい、お前はすぐにわかったはずだ」
「……。」
「けど、それを言えば他に助かるヤツが出てくる。それは嫌だ。どうだ? 何か間違ってるか?」
翔太はクスッと笑った。
「なんで?」
「うん?」
「なんでわかった?」
翔太の引きつった笑みに、そばにいた圭一、素華、利香が後ずさりする。対峙する創佑と翔太。
「アハハ……お前も鈍いな、翔太」
「!」
そこで翔太は気づいた。
「お前……創佑じゃないだろ」
「ハハ!」
創佑は言った。
「今さら何……」
利香たちは頭が真っ白でまったく二人の会話についていけていなかった。一体、目の前で何が起きているのか。
「残念だけど」
創佑が笑顔で言った。
「糸井先生、三雲、藤阪の3人は現実世界に引き戻されたよ」
「そうか……。3人は直接関係ないもんな」
翔太がホッとした様子で笑みを浮かべた。
「その代わりって言ったらおかしいけど……土山と星田はもうすぐ、こっちへ来るよ」
「なるほどね……」
翔太は震えている利香たちを一瞥した。
「理由は、わかるよな?」
ボロボロと素華が涙をこぼした。
「俺たちは死んで……罪を償うんだよ。そうだろ?」
次の創佑の言葉に圭一たちは唖然とする。
「三輪さん」
「え!?」
「み……三輪さん!?」
創佑はニヤリと笑った。
「さすが……高槻くんね」
「その声……」
利香が絶句する。創佑の声ではないその高さ。それは間違いなく、心美のものだった。