第28話 運命的な出逢い
「おかしいな……。教室にもいなかったし……」
裕則は頭をかきながら昇降口にやって来た。事前に翔一に連絡を取り、充太に会わせてほしいとの依頼をかけていた。それがつい1時間ほど前のことだ。そして、学校へやってきて用務員のオバサンから衝撃的な事実を知らされた。すぐにでも翔一と充太たちに会おうと思っていた矢先の出来事だ。まるで神隠しにでも会ったように、誰もいなくなっていたのだ。
裕則は首を傾げながら辺りを見回す。他のクラスの生徒や部活で残っている生徒、教師の姿はあるにもかかわらず、2年4組の関係者だけがいない。しかも、その事実に誰も気づいていないのだ。
職員室で翔一の所在を聞いたが、誰も把握していなかった。
「まさか……。何か事件にでも巻き込まれたんじゃあ」
不安になって裕則は翔一たちを捜すのにまず専念することにした。ふと気づくと、昇降口を出てすぐのところに男子生徒が一人いた。
「ちょっと、いい?」
男子生徒は見上げるようにして裕則を見つめた。
「はい?」
「糸井先生、どちらにいらっしゃるか知らないかな?」
「……。」
不審そうに裕則を見つめる少年。
「あ……僕はちょっと糸井先生に……」
警察関係者と言うのは控えたほうがいいだろうと思った裕則は、機転を利かせてこう言った。
「教科書販売の件で、会いに来たんだけど……」
「そうですか……」
少年はジッと裕則の服装や表情を見ている。
「知ってますよ」
少年は小声で言った。
「え? 知ってるの?」
「はい」
裕則は少し不思議に思った。なぜ、他の先生も把握していない翔一の居場所を、この少年が把握しているのか。しかし、ウソをついているようにも見えなかったので、裕則は若干の警戒心を抱きながら答えた。
「じゃあ、案内してもらえるかな?」
「はい。いいですよ」
少年は人懐っこい笑顔を浮かべ、昇降口の方へ向かった。
(やはり校内にいるのか)
少年の後を追う裕則。しかし、その前に気になるものが目に入った。
少年がいた場所に、何かが書かれていた。
「……?」
裕則はバレない程度にその何かを見た。
紛れもなく、そこには「三雲 藤阪 糸井」と、既によく知っている名前が書かれていたのだ。
「どうかしましたか?」
ハッとして裕則は振り返った。
「いや……」
ここでこの落書きの意味を問いただしても良いのだが、裕則はその気持ちを抑えて「なんでもないよ。行こうか」とその場を濁した。
再び来客用スリッパに履き替える。少年は上履きに履き替えていた。
(なんか……ホコリっぽかったな)
少年の上履きが妙にホコリっぽいことに若干の不信感を抱く裕則。急にピタッと少年が歩くのをやめた。
「ど、どうかしたのかい?」
少年は落ち着いた声で答えた。
「俺の足に……何かついてますか?」
「え?」
裕則は心臓が飛び跳ねる思いがした。なぜ、この少年は後ろから見られていることにこんなにすぐに気づいたのか。
(いやいや……偶然だ)
裕則はそう言い聞かせた。
「……。」
少年は暗い眼差しで裕則を見下ろした。振り返った少年の名札を見た瞬間、裕則の体に衝撃が走った。
「2年……4組……!」
そして、名札には先ほど聞き覚えのある名前が書かれていた。
つい先ほど話した用務員のオバサンが言っていたのだ。
(あの先生のクラスの子、登校拒否と行方不明の子がいるでしょう?)
(そうなんですか? その子たちの名前、ご存知ですか?)
(えぇ。そんなに大きくない高校ですもの。そういう話は私たちにまで伝わってきますからね)
(教えていただけますか?)
(男の子と女の子でね……名前は、柳本くんと三輪さん……だったかしらねぇ)
男子生徒の名札には確かに「柳本」と書かれていた。
「君……柳本くん……?」
「そうですよ」
少年――柳本 勇はニッコリ笑い、裕則に近づいてきた。
「……。」
一気に警戒心を強める裕則。
「君は……今回の事件のことについて、何か知っているのか?」
「知ってるも何も……」
一気に勇の目つきが変わった。
「被害者なんだよ、俺らは!」
裕則は身の危険を感じて走り出した。
「クソッ!」
裕則はとにかく勇から離れるために、ガムシャラに走り続けた。そのときだ。たまたま通り過ぎた資料室に複数の人影が映ったので足を止めた。
「……!」
その中には、充太、知里、そして翔一の姿があった。