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名前あそび  作者: 一奏懸命
第3章 示します
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第27話 10年前の真実


「あれ……?」

 ふと健が気づいて、あたりを見渡した。

「どうしたの?」

 利香が健に聞く。

「いや……。曽根がいない」

「え?」

 そう言われて初めて気づいたのだ。あずさの姿が見当たらない。

「本当だ……。どこ行っちゃったのかな?」

 利香が不安そうに辺りを見渡した。

「……それより」

 素華が呟く。

「糸井先生は?」

「貯水槽の様子を見に行くって言って……まだ帰ってきてないよ」

「……。」

 素華が立ち上がる。

「どこ行くの!?」

「先生のところ」

「よせよ」

 創佑が素華の左手を引っ張った。

「だって……大人がいないと怖い」

「……そうかな」

 翔太が呟く。

「何? その答え……」

「人は、本当は何を考えてるかなんて……わかんないもんだぜ」

 翔太はクスッと笑った。

「俺たちだって、そうだったじゃん?」

 翔太が今度はニヤッと不気味な笑みを浮かべた。

「知らなかったよ。俺だけだと思ってた」

 翔太の突然の告白に誰もが言葉を失い、立ち尽くしていた。

「俺以外のこのクラスの男子……大半が、三輪を好きだったなんてな」

「……。」

「圭一だって、創佑だって知らなかったろ?」

 言葉で返さず、二人は小さくうなずいただけだった。

「な? 本当は……何を考えているかなんてわかったもんじゃない」

 続いて翔太は一枚の灰色の紙を取り出した。

「何? それ……」

「俺が目を覚ました時には、教室の端に落ちてた」

 圭一がそっとそれを翔太から受け取る。素華、利香、創佑、徹子、健も一緒になってそれを読んでみる。


 鹿児島県で高校生連続不審死


 鹿児島県竜禅寺町の(たつ)()高等学校の2年生が連続不審死を遂げている事件で、鹿児島県警は16日、同校の男子生徒(17)を殺人及び殺人未遂の疑いで逮捕した。

 この事件は先週9日から昨日15日にかけて、同校2年生の生徒6名が相次いで殺害されたもの。捜査の結果、男子生徒のアリバイに不自然な点が相次いだこと、そして残った3名のうち2名を殺害しようとしたところを警察に取り押さえられ、殺人未遂の現行犯で逮捕された。


「これがなんなのよ」

 素華がイライラした様子で聞く。

「落ち着いて続きを見ろって」

 素華たちは記事の続きを読む。


 この事件は「名前あそび」と記された手紙が被害者生徒宅の郵便ポスト等に投函され、名前に書かれている共通点を解き明かせ、と問われていたことが始まりであった。24時間以内に解答できなかった者と誤答した者は容赦なく殺害されるといった内容で、事実、誤答及び解答の間に合わなかった6人が今回、殺害されている。

 その後の精神鑑定で、逮捕された男子生徒は著しい精神不安定な状況であったことが判明。刑事責任等も問えないとして、検察庁は生徒の起訴を見送った。

 なお、女子生徒1名が行方不明となっているが、この件に関して男子生徒は一切関与していないことが判明している。また、この女子生徒が行方不明になった当日、最後に会ったと思われる生徒は6人いたが、全員が今回の事件で殺害されており、行方不明生徒の調査は実際のところ、暗礁に乗り上げた形だ。


「だから、これが何?」

 素華はブスッとした様子で翔太に新聞記事を突き返した。

「まだわかんないのかよ」

 翔太の言葉に全員が戦慄する。

「俺たちが今まさに巻き込まれている名前あそびの事件と、同じなんだよコレは」

「……!」

 全員の血の気が引いた。

「ま、まさか」

 翔太は小さくうなずいた。

「三輪の件が……もしかすると……」

「ちょっと待てよ」

 圭一が声を上げた。

「いま……俺、思い出した」

「何を?」

 利香が恐る恐る聞く。

「竜禅寺町って……真砂市が合併する前の、この町の名前だ」


 素華たちが事件の関連性を知った頃、校門の前には安食 裕則が立っていた。

「きっと……この事件と今回の事件は何か関係があるに違いない」

 裕則は校門を潜り、校内をゆっくり見渡す。

「何か御用でしょうか?」

 ハッとして振り返ると、用務員らしいオバサンが立っていた。

「あ、これは失礼。私、鹿児島県警の安食と申します」

「あぁ……」

 オバサンもそれを聞いて納得した様子だった。

「今回の事件で……」

「えぇ」

 裕則は苦笑いしながら答えた。

「嫌な事件ですよねぇ」

「本当に」

 次のオバサンの言葉に、裕則はドキッとさせられた。

「10年前にも同じ場所で……同じ事件がありましたものね」

「……ご存知だったんですか!?」

「えぇ」

 オバサンは答えた。

「そのとき、私も当時の高校に在任しておりましたから」

 オバサンはグルリと学校を見渡す。

「あの事件からもう10年。町の名前も変わって、合併して、高校も合併して名前が変わって……。もう、誰も事件のことなんて忘れちゃった矢先に、今回の事件でしょう? 何か……関係がありそうでね」

「……。」

 裕則は黙ってオバサンの話を聞き続けた。

「そうそう! 刑事さんでしょう?」

「え? えぇ……」

「ここだけの話、しましょうか?」

 裕則は前のめりになってオバサンに近寄る。

「なんですか!?」

「今回の事件……2年4組の子たちが巻き込まれてるでしょう?」

「えぇ」

「あのクラスの担任の糸井先生」

 次の言葉に心臓が飛び跳ねるように鳴り出した。

「10年前の事件の、生き残りなんですって」


「参った……」

 充太が肩を落とす。

「ここって……あたしたちの学校よね?」

 知里が不安そうに聞いた。それに翔一が答える。

「お前らの学校だが……現実の学校ではない」

「どういうこと?」

「いわば……ほら、ゲームとか漫画でよくある、次元が違うってヤツだ」

「次元……」

 翔一はさらに続ける。

「事件に関与している者しかおそらく、この学校(じげん)には入ることができないんだろう」

「そんな……」

 知里が言葉を失う。

「ちょっと待って」

 充太が翔一を見つめた。

「じゃあ……先生も?」

 知里が続ける。

「当たり前じゃない。先生、ウチのクラスの担任よ? 関与しないわけが……」

「違うんだ、藤阪」

 知里の言葉を遮って、翔一が言った。

「え?」

 翔一は重い口を開いた。

「10年前……。この学校で、ある事件が起きた」

「……。」

「今回の事件ととても似ている。名前あそびをしようという手紙が、高校生の自宅に送られてきて、解答しなかったり誤答したりすれば、容赦なく殺害される。そんな事件だった」

 似ているどころではない。同じだと直感的に充太は感じた。

「そして」

 次の言葉には、さすがの充太も動揺を隠せなかった。

「先生は……その事件の」

「生き残り?」

 知里が聞くと、翔一は首を横に振った。

「犯人だ」

 一瞬で、空気が凍りついたようなものへと変貌した。








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