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名前あそび  作者: 一奏懸命
第3章 示します
27/42

第25話 時、既に満ちけり



「収まった……?」

 多目的室に集まった2年4組の生き残った生徒たちは、青ざめた表情で立ち上がった。

 池田利香。魚住創佑。大久保健。曽根あずさ。高槻翔太。名塩圭一。六地蔵素華。いまここにいない知里、龍輔、充太、徹子を含めても11人になってしまった。

「どうしよう……。もしかしてあたしたち……」

 あずさが震えて涙声で弱気な声を出した。

「大丈夫よ、あずさ。きっと、なんとかなるって」

 利香がギュッとあずさの手を握る。しかし、あずさはキッと利香を睨みつけ激昂した。

「いい加減なこと言わないで! アンタはいいわよね。三雲くんたちに手助けしてもらいながらクイズクリアしたんだもの。もう死なないもんね!」

 あずさは利香の手を振り払いながら、大声でそう(ののし)った。利香は言い返す言葉が見つからず、俯いた。

「よせよ曽根! 落ち着けって」

「何よ!」

 今度は創佑に八つ当たりを始めるあずさ。

「元はといえば、アンタと素華があの子の死体を隠したりするから、こんなことになるんじゃない! きっと、きっと心美怒ってるんだわ! きっと今回のことは、心美の呪いなのよ……」

 ブルブルと震えるあずさに、そっと創佑が手を掛けた。

「曽根。ちょっと顔洗いに行こう」

 あずさと創佑は幼なじみでもある。今でこそよそよそしくお互いを苗字で呼ぶものの、かつてはあだ名で呼び合うほど、仲がよく付き合ったこともあった。しかし、あずさのワガママが原因で別れて以来、二人は苗字で呼び合うような状態になってしまった。

 あずさと創佑は多目的室を出て右すぐの手洗い場へ向かった。創佑が栓をひねり、水を出す。

「ほら、洗えばちょっとは気がまぎ……」

 そう言って手をかざした創佑の右手の指に、何かドロリとしたものが触れた。

「……?」

 創佑はおそるおそるそれを手にとって、携帯電話を片手に持ち待ち受け画面のライトで照らしてみた。

「うあああああああああああああああああああ!」

「なっ、何よ!?」

 驚いたあずさが創佑の手を見ると、黒い細いものと赤い液体がついていた。

「きゃああああああああああああ!」

「どうした!?」

 偶然上がってきた翔一と後ろにいた徹子があずさたちのところへ駆け寄る。

「先生! こ、これ……」

 創佑の手についた黒いモノを見て、翔一は呟いた。

「髪の毛だ……それに、これは血だ」

「い、いったい誰の?」

 あずさが震えながら聞く。

「いま……行方が知れないのは柳本と八尾だ。どちらかのものだろう」

 翔一は上層階を見つめ、ゆっくりと歩き始めた。

「先生! どこ行くの!?」

 徹子が止めようとする。

「貯水槽だ。ここの水道も含めて、学校の水道は屋上の貯水槽で一括管理している。そこに……何かがある」

「先生! あたしも一緒に行く!」

 あずさが必死になって翔一の袖を引っ張った。

「しかし……危ないかもしれないぞ?」

「お願い! 行かせて」

「……仕方がない。その代わりだな、先生は他のみんなも心配だから……したくはなかったが、全員で」

 その時だった。急に、翔一の動きが止まった。

「……先生?」

 後ろを振り返ると、一緒にいた徹子の動きも止まっている。

「やだ……!」

 慌てて多目的室に帰ると、他のクラスメイトも動きが止まっていた。

「ちょっと……何が」

 すると、あずさの手に何かが触れた。

「あ……よかった! 創佑!」

 創佑だけは動きを止めずに、傍にいてくれたのだ。

「創佑……みんな、どうしちゃったんだろ」

「……。」

「創佑?」

「ねぇ」

「!?」

 創佑の声が異様に高いものに変わっていたのだ。

「そんなに……貯水槽が見たい?」

 創佑の手を振り払い、あずさは廊下を走り出した。

「だ、誰か! 誰か助けて!」

「ダメだよ~あずさぁ~。もう……お前の時間は満ちたんだ」

 口調は創佑だが、声色がまったく違う。恐怖でどうかなってしまいそうだったが、必死にあずさは創佑から離れようとした。

 携帯電話が震える。


< 0001 > D

From:☆♪※!!?

Sb:1問目だよ!

添付:

―――――――――――

曽根あずささんの利用料

金はいくらでしょうか?


A:210円

B:170円

C:2,520円

D:1,620円


「ひっ!」

 小さく悲鳴をあげるあずさに、いつの間にか追いついた創佑が頬に手を当てた。

「いやぁ!」

「答えないと死んじゃうよ~? 死にたくないでしょ~?」

「ひっ……!」

 あずさは震える手で必死に携帯電話を握り、問題の答えを考える。しかし、そんな答えなど見当もつかなかった。

「わっ、わかるわけないじゃないの! こんなもん!」

 あずさは自分の携帯電話を投げつけた。

「……。」

「何よ。何よその顔! 一体アンタ、誰なの!? どうせ心美でしょ!? 何よ。もう死んだくせに! あたしたちの想い踏みにじるようなことしたアンタが悪いんじゃない!」

「アンタたちの想いって……何?」

 創佑の口調で語る何者かの憑依霊。あずさは怯まず続けた。

「あたしたち……アンタが付き合った柳本くんのことが好きな子が多かったのよ!」

「……。」

「教えてあげようか!? あたしでしょ、素華でしょ、七海に利香! 美知留もそうよ! みんな柳本くんのことが好きだったのに……それをアンタは!」

 急に創佑が近づいてきて、あずさの顎を人差し指で挙げた。

「ひ!」

「くだらない……」

「な、何が!?」

「そんなの、アンタたちが伝える勇気がなかっただけじゃない」

「!」

 創佑の瞳が妖しく光る。

「じゃあさ」

 次の瞬間、あずさの足元が宙に浮いた。

「アンタはその想いと一緒に……柳本くんのいる天国(ところ)へ行けば?」

「いや……な、なんで床がないのよいやああああああああああああああ……!」


 グシャッ……。


「アンタがそっちへ行けるならね」

 創佑はニヤリと笑い、首と体が泣き分かれしたあずさの死体を蔑むように見つめていた。









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