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名前あそび  作者: 一奏懸命
第3章 示します
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第24話 告白


「糸井先生……」

 翔一が書類と向かって頭を悩ませていたところに、女子生徒の声が聞こえたので振り向くと、土山 徹子が怯えた様子で職員室の戸口に立っていた。

「おぉ。どうした? 土山」

「先生に……聞いてほしい話があるんです」

「俺にか?」

 翔一は見ていた書類を整えた後、徹子を隣の席に着かせた。

「それで? 話ってのはなんだ?」

 翔一がにっこり笑いかけるや否や、徹子はボロボロと大粒の涙を流し始めた。

「先生……先生! どうしよう……どうしよう!」

 翔一は驚いて徹子が泣くのを見ていることしかできなかった。

「土山、落ち着きなさい。どうして泣いてる? 理由を説明しなさい」

 ひとまず、教師として自分にできることを翔一は順序良くやっていくつもりだった。

「先生……。あたしたちきっと……三雲くんと知里を除いて全員、殺されちゃうかもしれない」

「何?」

 翔一は目を丸くした。

「どういう意味だ?」

「あたしたち……」

 徹子は思い切って告白した。


「全員、人殺しなんです」


 翔一の頭が真っ白になった。

「何……を、言ってるんだ?」

 自分のクラスの生徒が、そのほとんどが殺人者だと言っている現状が翔一には理解できずにいた。

「ちょっと待ちなさい……。土山、お前は何を思ってそんなことを言ってるんだ?」

「……先生、心美と柳本くんが学校に来なくなった理由……知ってます?」

 徹子はクスッと笑って翔一に聞いた。

「いや。先生も三輪と柳本のご両親には何度かお会いしているんだが、ご両親にも原因は分からないそうだ」

 さらに、勇の両親のうち母親は先日何者かに殺害され、勇自身も行方不明になっている。警察は現在、行方をくらましている勇と父親が何らかの事情を知っていると見て捜査をしている最中だった。

「心美は……学校に来なくなったんじゃないんです」

「何?」

「心美は……ずっと学校(ここ)にいるんですよ」

「は……?」

 翔一は狂気じみた徹子の笑みに背筋が寒くなった。

「だって、そうでしょう?」

 突然だった。徹子の様子がおかしくなりだしたのだ。

「だってそうじゃない! あの時、大久保くんと魚住くんがそうしよって言ったから! それに、素華と七海が皆を扇動したから! あたしたち、どうすることもできなかった。悔しかったし、煮え切らない感じがしたし、憎かったし! もうどうにも止まらなかった!」

「土山!」

 徹子を落ち着かせようと翔一は彼女の肩を押さえつけようとした。

「土山、落ち着きなさい! 深呼吸して!」

「いや……あたしは悪くない! あたしはただ、こうして今まで黙ってただけなの。許して、許して心美! お願い!」

「土山!」

 翔一はとにかく徹子を落ち着かせるために、部屋を移動することにした。

「土山、他に残っている子はいるのか?」

 徹子は肩で息をしつつ、小さくうなずいた。

「誰だ?」

「入院してる星田くんと知里、三雲くんを除いた……生き残ってる、全員です」

「全員が?」

「はい……。みんな、独りで家にいるのが怖くて」

「そうか……」

 翔一はため息を漏らした後、徹子に言った。

「先生も、教室へ行く」

「え?」

「お前らだけで解決できる問題ではもう……ないんだからな」

「……はい」

 翔一がゆっくり徹子を支えながら階段を登っていく。

「……。」

 不意に、翔一の脳裏にあの時の出来事がフラッシュバックしてきた。

(きゃあああああああ!)

 頭の中に響く、女子の叫び声。

(山口!)

(助けて、助けて福井くん!)

「クッ……!」

 翔一が頭を抱えて座り込んだので、今度は徹子が驚いて翔一に声をかける。

「先生?」

「……。」

「先生! どうしたんですか!?」

「いや……なんでもな……」

 その瞬間、あの日の記憶が克明に蘇った。そして、その瞬間といまこの瞬間の光景がまったく同じであることを翔一は思い出していたのだ。

「ダメだ……! ダメだ! 土山! すぐに階段を降りるぞ!」

「え!? ちょっと……せんせ……きゃあ!?」

 足元が不意に不安定になったのだ。

「キャーッ! キャアアアアアアー!」

「クッ!」

 激しい地震だった。とても立っていられる状況ではない。

「いやああああ!」

「土山! 落ち着いて。大丈夫、すぐに収まる!」

 翔一は鉄子の上に覆いかぶさり、揺れが収まるのを待ち続けた。そして外を見て、やはり何かがおかしいことに翔一は気づいたのだ。

 これほどの揺れにも関わらず、外はまったく異常がない。先ほどから学内のあちこちで物の転倒する音やガラスの割れる音が聴こえているにもかかわらず、外の住宅、商店などではそんな地震の被害はまったく出ていないのだ。

「この学校だけ……やはり、あの時と同じだ」

 翔一は震える徹子の上に覆いかぶさったまま、あの時の記憶を思い出していた。

(この子たちは……あの時と同じ過ちを繰り返したというのか?)

 あまりにも偶然にしては一致する部分が多すぎることに、翔一は驚きを隠せなかった。その驚きはやがて妙な快感へと変化していく。揺れの中、彼は思わず笑いがこぼれてしまった。

「……。」

 2分ほどすると揺れが収まった。

「すごい地震だったな……」

「……みんな」

 徹子が呟く。

「みんな、大丈夫かな」

「そうだな……。2年4組にいるのか?」

 徹子は首を横に振った。

「昨日のポルターガイストみたいなので、部屋ぐちゃぐちゃだから隣の多目的室にいます」

「そうか。それもそうだったな」

 翔一はクスッと笑いながら、その部屋へと向かった。既に時刻は午後8時前。校長や教頭、他の先生や生徒たちは既に帰宅していた。翔一だけだと思っていたのだが、実は彼のクラスの生徒も残っていたのだ。つまり、いま学内には翔一と2年4組の一部生徒だけがいるということになる。

「土山」

 翔一が徹子の頭を撫でた。

「お前は偉い。よく勇気を出して、先生に今回の事件に関わっていることを……教えてくれたな」

「……褒められるのはおかしいです」

 徹子は苦笑いした。

「あたし……悪いこと、してるんですもん」

「……それを悔いる気持ちがあるなら、まだお前は大丈夫だ」

 徹子が目にいっぱい涙を溜めながら「ありがとうございます」と答えた姿を見て、翔一はこれ以上、生徒の犠牲を出させないと心の中で誓った。








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